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[すこし詩的なものとして]0028 散文 月の裏側とレモネード

群青の空に飛ぶ一筋の光があった。僕は家の屋上から見ている。
あれはどこへ向かっているのだろうか。
夜というのは、どうしてこんなに静かなんだろう。そう不思議に思っていると、あちらで人の怒号が鳴った。静かだと思い込んでいただけなのかもしれないと、ふと気づいた。
でも、この夜の空気はとても澄んでいて、深く吸い込んでみたら、やはりあたりは静かだった。

月明かりに照らされて、横にいた君がしくしくと泣いていた。
僕は、どうしてもそれが気に病んだ。だから、長い夜の間中、君の額におでこをつけて慰めてあげた。

君は何をそんなに悲しんでいるんだい?
僕は空にポツリと浮かぶ月を見て、そう思った。
しかし、ぐるりと月を回してみたらその裏側に何があるんだろうと、
気づいたら違うことを考えていた。

どこかで、犬の鳴き声が聞こえた。
あれはきっと何かに怯えているからだろうか。
僕もたまに大きな声で叫びたくなる。言いも知れぬ不安がやっぱり心を襲うから。
でも、君は涙を流しているだけで、大きな声はあげない。
なんだか僕たち、違う生き物みたいだね。

「君のことが好きだよ」
だから笑ってほしい。今というすばらしい時間に。いつかきっと、その涙は枯れて笑ってくれるだろう。

僕だって不安だ。君も不安なんだろう。
あの犬もそうかもしれない。みんな不安なんだ。
だからこのほの暗い夜に、きれいな月を眺めるんだ。
なんてことを思っていると、君はきっとそんなんじゃダメだと怒るかもしれない。
でもそんなに眉をひそめないでほしい。

ほら、月明かりがきれいだ。あの音もない世界へ行ってみようよ。
僕らの悩みなんて1000フィート先のちいさなものさ。お供にはレモネードがいい。
群青の空を駆け抜けて、月の裏からこの小さな町を探してみるのもいいかもしれない。
そして踊ろう。もう何も気にしないで。
ほら見てよ、この新しい世界が僕らの甘いリズムのはじまりさ。
「大好きだよ、君が」

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夜の静けさはさまざまな思考がいきいきと頭の中で踊り出す。
ある人は喜びを、ある人は悲しみを。
僕らはそのどちらでもあるし、いつも何かを思って生きている。
そして、好きな人、好きなこと、好きなもの……僕らを取り巻く環境の中で大切にしているすべてこそ、その一挙手一投足に感情を揺さぶられる。
でも、それは実は幸せなことで、一緒に見たことのない世界を夢見ながら生きる過程に、生きる糧がある。

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