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新しい漢字を作る

蒼頡AI

現在岡本太郎美術館にて、「蒼頡AI」という作品を展示しています。ぜひ興味のある方はご覧いただければと思います。(2022年5月15日(日)まで)

作品の説明をすると、「蒼頡(そうけつ)」とは漢字を発明したとされる中国の伝説上の人物です。自然を見る一対の目と文字を見るもう一対の目という「4つの目」を持ち、動物の足跡を観察することで漢字を発明したとされています。
本作では、「文字でありながらイメージでもある」漢字を題材に、AIによってその発生のプロセスの再演を試みました。

漢字は意味であり、モチーフである。

この言葉は、岡本太郎の言葉です。岡本太郎は自身の作品の中で、文字とモチーフを両立させたような作品を作成しています。

漢字はアルファベットなどとは違い、表意文字です。一方でアルファベットは表音文字と言われています。表意文字はかつては、エジプトなどの象形文字などがありましたが、現代ではあまり使われていません。そのような点で漢字は珍しく、意味(モチーフ)も含まれているため、アートの観点でも題材として面白く、岡本太郎も注目していたのかと思います。

漢字の祖先「蒼頡」と読字研究

蒼頡とは、紀元前4600年頃の中国の歴史上の人物です。蒼頡は非常に目が良いとされていて、そのことから目が4つあったと言われています。この点関して特に石田英敬氏によると、4つの目のうち、1対の目は自然を見て、もう1対の目は文字を見ている、と解釈しています。

これは、人間の読字研究と関連があり、「人類は、自然をスキャンして文字化し、読む・書くというシナプスを形成した」という説に由来します。ドゥアンヌの研究によれば、文字を読むひとの脳を、脳内イメージング技術で観察をすると、自然界の特徴を見分けるシステムと、同じ脳の領域を使って文字を見分けられていることがわかっています。またこの事実は様々な文字を分析したマーク・チャンギージーによっても統計的に裏付けがされています。

AIによる再現:Pix2Pix

我々は、この人間が行なっているプロセスをAIで再現したいと思いました。具体的には、漢字の中でも象形文字に着目しました。「人」という漢字は人の姿から来ていたり、「木」という漢字は木の形から成り立っていたりしています。このように漢字の中でも形とひも付きのある象形文字とそれに対応するイメージを何千枚もピックアップしました。
これらのデータから、漢字とその元となったイメージの対応関係をAIに学ばせました。
画像変換に関する機械学習はいくつか知られていて、特に有名なものとしては、CycleGANPix2Pixがあります。
CycleGANの特徴として、変換前と変換後の空間をきれいな空間として学習させる変換ロジックです。例えば、犬から猫に変換させたいときに、変換前の犬らしさを学習し、返還後の猫らしさを学習させることによって、良い変換を作り出します。
一方で、Pix2Pixは画像の対がある変換で使われるロジックで、具体的には白黒の画像をカラー画像に変換するロジックに使われます。白黒の画像とカラーの画像の対をたくさんAIに学習させることで、変換の方法を学ばせます。
今回の目的から判断して、Pix2Pixが最適だと思い、このロジックを採択しました。

実際の漢字の成り立ちを再現するために、画像を「細線化」することにより、画像の要素を抜き出したりして、甲骨文字と象形文字との対応を学ばせることにより、画像→甲骨文字→象形文字という漢字本来の成り立ちをAI上で再現しています。

新しい漢字の創出

このAIによりAIによって学んでいない新たな画像に対しても、新たな漢字を生み出すことができます。

カピバラ
ドローン
コロナウイルス
ビジネスマン

また動画を連続した漢字として作り出すこともできます。動画に関しては、ここでは紹介できませんが、ぜひ実際の作品をご覧頂けたらと思います。

技術的無意識

記号論的解釈によれば、写真・映画・電話・レコードは「テクノロジーの文字」と捉えることができます。

映写機械が投影する毎秒数十の静止画像の一コマ一コマはヒトには見えないが、見えないことによって、逆に、ヒトには映像は「動いて」見える。人間には機械が読み書きする「テクノロジーの文字」が読めないが、人間には読めないことによって逆にメディアは「人間の意識」を生み出す。現代人の「意識生活」は、メディアの「技術的無意識」の上に成り立つようになった。
https://www.u-tokyo.ac.jp/biblioplaza/ja/B_00129.html

大人のためのメディア論講義

またそれらの新たに生まれたテクノロジーの文字は無意識の文字に該当します。
意識される文字と、無意識に入ってくる文字(映像)の狭間を行き来する、意識と無意識の未分化された表現を、本作では狙っています。引き続きこのテーマについては研究、表現を行っていきたいです。

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