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健太しゃちょう 弾丸漫遊記 後編(ニセコ・クッチャン町編)

まんゆう
【漫遊】

  1. 《名・ス自》気のむくままに、諸方をまわって遊ぶこと。 「諸国を―する」

【安い日本。買われる日本編】
 ゲストハウス宿泊の為、流石に日付変更線を跨ぐのは憚られた。客とは言え、初対面の人間のチェックインの為に、深夜まで起きていなければならないとしたら、ホストもたまったもんじゃない。(いや、もう深夜零時ですけどね!)
 お邪魔したのはゲストハウス「SLOPE」さん。タクシーに乗って場所を伝える。
「北五条西1丁目、1の153のSLOPEさんまでお願い」
 何を見るわけでもなく、詳細な住所までペロッと口から出る姿に運転手は私を訝しげに見るのであった。ちなみに私も自分を訝しんだ。
 しかし、なぜだ。
 LCCの情報は全く頭に入らなかったのに、宿の情報はコンピュータのように正確な入出力なのだ。人間の脳のはたらきとは、まこと偏ったものよ。

 さて、楽しく、前向きで、素晴らしい飲み会であったが、引っかかることがあった。

 メインパーソンの青柳氏(あ、名前書いちゃった。まあいいや)が「ニセコは買われてます。買われちゃう日本の最前線なんです。ぜひ見て帰って欲しい」という言葉だ。その言葉の響きは重かった。私はタクシーの中でも考え続けた。(オンリー5分)
 
 さて、無事SLOPEさんに到着。ご主人も気持ち良く迎えてくれた。何時に着くか、会の延長ごとに予定着時間を丁寧に連絡して、心配しないようにしておいたのだ。(かえって面倒くさがられていたかもしれない)

 SLOPEさんはスキー客向けのゲストハウスで新しくできた宿らしい。
 一言で言うなら「清潔感5段階評価の5」。ご主人も清潔感のある人で、物腰も柔らかく好印象であった。
 不潔感満載の農業オジサンが深夜にドアを叩き、申し訳なさでいっぱいである。スキーでニセコに来る時は、必ずここを使おう。身綺麗にして。

 ハウスの施設説明を受けながら、ニセコスキー場マップに目を止めた。
「ニセコ、買われてるんですか?」
ポソっと呟くのを、ご主人は聞き逃さなかった。
「そうですね。外資に・・・」
 ご主人はそっと名刺を差し出した。
 単に引退してひっそりゲストハウス経営に専念、ではなく、不動産業界に明るい人であることが、名刺に記された経歴から分かった。
 そんな経緯から、ご主人は明朝、「外資に買われる日本。安くなった日本買い叩かれの現場ツアー」のアテンドを買って出てくれたのだった。
 流石にそんな趣旨のアテンドの依頼は初めてだと言う。変態王子の面目躍如というところか。
 約束をして、即寝。
 秒速で眠りに落ちたのでした。ふかふかの清潔なベッドは、至極快適であった。

 明朝は流石に6時起床。オジサン化した体内時計も、昨日の強行スケジュールは堪えたらしい。
ご主人と対面し、朝の開口一発目が
「失礼とは思いましたが、勝亦さんのこと調べさせていただきました」。
 よほど私が不審な体裁であったのか。
 秘密警察か公安委員会のような発言にビビるのであった。
 聞くと昨夜の30分間、深夜の食農と日本の将来を考えるトークが刺さったらしく、私と言う人間に興味を持ってくれたらしい。
「そんな立派な方とは存じ上げず、大変失礼しました。」
 待て。ちょっと待て。立派と言われるいわれがない。
 間違えて福沢諭吉か誰だかのWikipediaでも見たのかもしれない。
 名乗るのも恥ずかしい、単なる変態日本代表です。

 2人で、まだ春遠きクッチャンの屋外に出ると、風はまだ身に染みる。ご主人が車を回してくれた。スルーっとレクサスRVが回され、「やはり単なるゲストハウスのオヤジさんではない」、と確信をしたのであった。私は乗り慣れないレクサスが、シートの前後スライドが電動であることにすら慌てふためく弱小農家さんの姿を曝け出すのである。(ウケる)
 軽トラのことならなんでも聞いて欲しい。

 さて、ツアーの主なポイントはヒラフ坂。
 ニセコスキー場に向けて駆け上がる坂道は、両サイドに宿泊施設、宿泊エリアとなっている。
下からロウアーヒラフ。
真ん中忘れた(ミディアムヒラフ?肉みたいだ)。
そしてアッパーヒラフ。

これは位置関係を示すとともに投機価値の高低をも表す。
 私はご主人に依頼して、ところどころレクサスを停止してはパシャパシャ写真を取り、ご主人は「不動産価値からみたリゾート地ヒラフ」を丁寧に解説してくださる。

 まずもって東急を中心に開発されたニセコスキー場であるが。

 その大元は入植民(青柳氏のお爺さん、ひいお爺さん達)が木材切り下しのためのリフトを整備したのがニセコスキー場の始まりである。そして国内資本が育てた。それが現在、外資に買い攫われている。
 4本あるゲレンデはマップでみて、左から東急、マレーシア資本、東急、香港資本と、現在はなっている。隣の山は、これもまた香港資本で、「プライベートゲレンデ」となっているため、もはや私たち(日本人一般ピープル)は立ち入る術もないという。ほう。


頑張れ日本。外資のほうがシャレオツな作りだぞ!

 「このホテルもマレーシア資本ですね。」
 「奥のホテルは遅ればせながら参入した韓国資本です」
 こう言っちゃ悪いが、日本資本のホテルは、我々がよく知る昔ながらのスキー場ホテルの佇まいで、外資に比べるとビンボ臭く見えてしまうのは仕方ない。(心では頑張れ日本!と叫んでいる)。

 衝撃はスーパーハイエンドの1棟。1泊400万の施設。
「400万円って、何万円ですか?」
「400万円って、400万ウォンですか?あるいはペソ?」
「400万円って吉野家の牛丼なん杯分ですか?」
 私の頭脳、8ビットスーパーコンピュータが、正確に数字情報を入力できずに熱を持ったようだ。

上部3フロアがワンセット。ワンセットの意味が・・・。○○部屋、が単位じゃないんかい

 ご主人曰く、「ここがニセコのハイエンドです」3フロア一括貸し。バトラー(執事)、料理人付き。
 ちょっと自分が泊まるシチュエーションを想像しようと思ったが、無理だった。
 農協の青年団体が人数多そうで良いかと思ったが、シミュレーションすると、どうしても3フロアの端っこの床に車座になって缶チューハイを開けて、スルメをかじってしまう。料理人とバトラーが苦笑いする絵しか描けない(笑)

 その後ヒラフ中心からは外れたクローズのプライベートエリアに。
「まあ、レクサスでスルーっと一周する分には怪しまれないでしょう」

写真では伝わりにくい大きさ。1棟1棟が「豪邸サイズ」である。

 ええ。軽トラで迷いこんだら、管理人コテージから管理人が秒速で飛び出してきそうなエリアである。
 コテージ?コンドミニアム?が20棟ほどはあろうか。
 「一棟に5ベッドルームですね。」
 一つ一つデカい。
 仕様から価格まで含めたあまりにリアルな解説に、一瞬、不動産屋にオススメ物件を案内させる大富豪に自分がなったかと錯覚したが、もちろんそうではない。1棟5億。私の500円玉貯金を購入資金に充てると、貯まるのは子々孫々の時代になりそうである。

 買った人間も別に泊まるわけではないらしい。

 買ったら運用会社に貸し下げる。その運用益をとる投機ビジネスなのだ。

 しかし、日本人よりニセコの魅力と価値を、外国人が知っている。

 知っているから投資する。また、すみやかに回収する。利幅を乗せて。

 日本人がビンボくさく、指をくわえて見ている。
「すげーなー」って。

 マネー・イズ・パワー

 悔しかったら金を持て。なぜならかつてパワーを持っていた時代、日本人も諸外国で同じことをしたのだ。これは真実だ。

 政治になんとかしてもらおうってのも、個人的には性に合わない。

 それでも言っておこう。
「ニセコよ。安心しろ。日本人としてお前の魅力はちゃんと見届けたぞ。お前の価値を知っているのは外国人ばかりじゃないぞ。待っていろよ。」

 振り返って、私や、私達が何をできるのか。
 何をするのか。
 それはこれから。また別のお話。

 楽しいもたくさん。考えることもたくさん。ヒントもたくさんで、私の手からはこぼれ落ちそうなほどの旅である。

 SLOPEのご主人に感謝して、私は倶知安を後にした。
 さらば羊蹄山。さらば北の大地の友たちよ!
 次に会う日もそう遠くはないだろう!



そう遠くない再会を誓う。また会おう、美しき羊蹄山

【新千歳ラストミッション編】

 さて。

 人間は反省から学ぶ。同じ過ちは繰り返さない。私はきっかり2時間前には空港に入った。
 成長するとはこう言うことだ。(オマ言う?)

 まだ、私にはやらねばならないことがある。この北の大地で。
 とても、とても、重要なことだ。


空港の図

 ひとまずは後で慌てないようにチェックインを済ませる。それから落ち着いて任務を果たす。目標のターゲットを物色する。

 あった。

 「北の大地3色丼」
 ウニ、イクラ、カニ
 これだ。これが私に与えられた最後の任務だ。

 ここまでシリアス気分で読んだ皆さん、ごめんなさい。勝亦は「食」を人生の最高の価値の一つとして生きる男なのです。(通称くいしんぼ)

 くっ

 一杯約4000円。
 大盛り5000円。

 なかなかの自己主張(金額)じゃないか。
 そちらも一歩も引く気はなしだな。だがこちらもここで引くことはできない。
 しかし、やけにどんぶりが小さくはないか。
 わたしとしては洗面器に盛ってくれても、やぶさかではないというのに。

 普通盛りで我慢するか。
 LCCの乗り遅れで、余計な出費もしてしまったことだ。冷徹な経営者として、放蕩は避けなければならない。

 「すいません。3色丼の大盛りください」

 もう、私の思考や理性とは全く別の言葉(本心)がペラペラと、声高らかに口から流れ出た。

 まあ、良い。仮に後30年生き、3食食べても、我が人生に残された食事は「わずか3万回強」。なんとはかないことよ。
 一食一食、悔いを残さず、そして美味しく、感謝を持って生命を頂戴していきたい。(こう言えば、まあまあの体裁でしょ)

 うまー!!!
 美味かったよ、北の大地3色丼。

 ここまで読んだ皆様には、厳にお願いを申し上げたい。この国、食農ほか、将来の為に、大事なことです。

 私が新千歳で北の大地3色丼を平らげて歓声を上げたこと。妻への罪悪感から、空港購入のカマンベールチーズ(1200円)のお土産でお茶を濁したこと。
 これを、決して「妻の耳」に入れてはなりません。ナイショです。
 勝亦家の平和と、食農の未来のために。
 (キノコ天丼についてはオッケーです)

さあ、帰るぞ!
全てのミッションを終えた。
富士山麓の畑が、春を間近に控えて、オレの帰りを待っている!


帰りの飛行機。一番乗りでしたが、なにか。

かくして旅程36時間の弾丸漫遊は幕を下ろしたのである。



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