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ぼくらのプロダクトアウト 第三回

ぼくらのプロダクトアウト 連続4回 第三回

 さて、続きに進む。
 基本的にはお米は需要が縮小し、マーケットが小さくなっている。日本に限れば人口は驚くべきスピードで減少しているし、経済規模も、個々人の経済力も、どんどん落ちている。(世界は人口も経済も勢いよく伸びて居る)
それに合わせて稲作の縮小が進む。もう、経済という意味では日本は一流国ではなくなったのだけれど、不思議と日本人はそのことに鈍感だ。「日本は安くなった」のだ。
 ここでだ。政府とは表裏一体。あるいは寄り添いつつ反し、時に矛盾するくせに一体感のある組織として「農協」という巨大組織がある。
 水田の全国的縮小や、農地そのものの縮小が避けられない政策方針となりつつある。
 農協としては大変都合が悪い。農地の縮小、農業生産の縮小だけが一本道になってしまうと、それは「農協の存在意義の縮小」と同義であるからだ。日本ではトップクラス。世界でも通用する「金融機関」でもあるのが農協だが、あくまで表看板は「農業協同組合」だからだ。
 
するとJAはこういう動きをする。
「農家さんの為に、儲かる野菜転作を推進しよう!」(保護作物ではなく)

 これまではお米1000㎡で米500キロ。売価10万円。利益ほぼゼロ!
 例えば玉ねぎ1000㎡で2000キロ。売価30万円! 儲かる!(利益率は農家さんの投資・効率化次第やで)
 ウチのJAはみんなで玉ねぎを作ろう!枝豆を作ろう!さつまいもを作ろう!ネギを作ろう!機械化もできますよ!機械売りまっせ!(もみ手、すりすり)
 これが現在の大規模JAの動き。富山・新潟・山形・岐阜他、広大な水田を有するJAが続々と水田転用の取り組みを始めた。そして後発も表明を続けている。表明しないと「やる気のないJA」という烙印が存在するかのように。
 ここが大変危険な話で、現状把握と未来予想が必要である。

まずもって第一に。
 たまねぎ、枝豆、さつまいも、ネギ・・・。それって、そもそも需要に対する供給不足って、あったっけ?輸入依存とか、あったっけ?という話。
 ないのである。なんとなく輸入が多そうなイメージの玉ねぎでも、9割を国産でまかなえている。
 JAの方針策定の最もイタイところは、「新規流通販路・マーケットの開拓」「サプライチェーンの構築」と関係なく農地運用を考えちゃうところなのだ。もうこれは農家もいっしょくたで、農業界のイケてないDNAと言っても良い。自分で焼け野原を生み出すというお家芸。
 もう市場に既にあるものを、また新規でたくさん作って市場にどばどばと流す。とりあえず際限なく流す。
 「過剰か、不足か」その原理で価格形成が行われる相場は、「必ず」、下落、暴落する。
 
「農家さん!米やめて儲かる農業やりましょう!農地守りましょう!野菜作りましょう!米より売上、上がりまっせ!」(利益あがりまっせ、ではない)
 旗を振るJA添乗員と、そそのかされてバスに乗り込む農業生産者。
 目的地でバスを降りると、作った作物の「過剰・余剰」「大暴落」「新規投資の回収不可」の三種混合「血の海地獄」のレッドオーシャンが広がるという、地獄行きツアー。
 JA添乗員は「あれー。こんなはずじゃなかったんだけどなー。聞いてないなー。どうもすんません!上にガツンと文句言っときますわ!メンゴ!」ってなもんである。ゾッとして振り返るとJAの添乗員はどっかに消えて、血の海地獄にポツーンと残され、背中の背負子には、山のような借金。途方に暮れて立ち尽くす農家さん達の図。
 
 あんまりな恐怖絵図だと、私は思う。
 離脱者確保! 国庫支出削減完了!
 国、霞が関は「しめしめ、支出削減だわい」、ということなんでしょうか。そうなんだろうなぁ。
 逆に「しめしめ」ではなく、「こんなことになるなんて・・・」といって頭を抱えるのだとしたら、「この、おばかさん♡」としか表現のしようがない。拳骨の一発では気のすみようもない。

 相場原理というのは難しいものではない。多ければ値を下げ、少なければ値を上げる。需要と供給のバランスで決まるという単純なものである。だからこそ、石油などの国際原料には、必ず価格調整の機能、機構がある。石油であれば「OPEC」など、社会の教科書で習ったと思います。値が下がるくらいならマーケットに出しません。ということ。農業にはこの価格調整が効かない。
 指定産地制度、という制度があり、供給過剰になったら「現場で廃棄してちょ。補助金つけるからさ。全体相場を守ろうね」というものだ。これが全然機能しない。だって簡単に指定産地になれるわけではないし、こうも新規参入が増えると、指定産地がブレーキかけても指定のない新規産地から、どばどば野菜が流れ出てくるので、指定を得ている一部の農家さんだけの優遇になるだけというダメな制度です。
 正しく進むなら、農地の利用転換とは販路、マーケットを新規開拓して進むべき事業なんです。

 ◎枝豆をヨーロッパに売り込む。だからコストダウンし、利幅を確保。現地に営業マンを飛ばし、新しい需要や、食べ方も発信します!需要を創出します!

◎日本からさつまいも、いちご、ブドウの品種を盗んだ韓国・中国を、アジアから駆逐するぜ!栽培コストも下げよう!大型輸送ルートも押さえて、効率輸送も用意したぜ!輸送もコストダウンだぜ!

◎白ネギアメリカに売ろうぜ!ラーメンと一緒にメイドインジャパン!メイドバイジャパニーズで共闘だ!ついでに白ネギの食べ方をアメリカに広めてやみつきにしてやる!アメリカ供給分を増産だ!

◎輸出で国内需要分に供給トントンまで外にもってけたで!価格維持だ!上昇だ!
 これで増産を吸収できるメドがついた!次は地球の裏側までいってみよー!

 とか、そういうことである。それをしないで、行先の無い新規作付けの旗を振っちゃう農協という組織の先見性の無さは、はなんとかならんものなのか。なんともならんまま今日にいたる。そして明日へと向かう。
 ひたすらに頭がイタい。ストレスでおなかが痛い。
 
 少し世界を見回してみよう。
 ながらく日本の農業生産は政策保護下におかれてきた。別に保護は悪いことではない。それが国策だというならばそれで良し。
 よく、「アメリカのように大規模、効率化しないから日本の農業は儲からなくてダメなんだ」という意見を耳にするが、これも門外漢・とんちんかん、ものを申す、の典型である。
 地平線まである畑。ビルのような動く農業機械。飛行機で散布する農薬や肥料。少人数でこなす農業。←ここはそれなりにポイント。
 別に彼らも驚くほど大しては儲かってはいません。これが事実。概ね平均的なアメリカの農家の生産・販売利益、収入では4人家族が食っていくに、ちょっとかったるいと言われます。(知りませんでしたと言われてもそうなんだから仕方ない)
 だって、アメリカの穀物安いわけじゃないですか。国産を脅かすくらい。だから関税だ!って騒ぐくらいに。
 でも石油燃やして、海越えて来てるんですよ。輸送コストもかかってるんですよ。
 でかい機械や飛行機は高いに決まってるでしょう。メンテナンスコストも半端ないですよ!
 それなのに安い。彼らは穀物価格の世界的相場感をよく理解しています。メイドインジャパン米みたいに、「ブランド米なのでおたこうございます」なんて、よそ様の庭先でバカ言わない。穀物はライフラインなんだから。
 それでも生産者の生活が成り立つのは、アメリカが穀物生産を、「国策として利用」しているからです。顕著なのは対アフリカ輸出で、安い穀物を輸出することで、アフリカの農家は穀物生産を辞めます。
「こりゃコーヒーでも作ったほうがましだわ。主食はメイドインUSAでいいやな」となります。
 アメリカはアフリカの食糧安全保障を握ることができます。外交のカードなんですよね、「食糧」って。
 だから、アメリカの穀物生産者は、売り上げだけでは厳しい生活を、政府からの上積みで、ほどよく補填して生活が成り立つわけです。だから結果として貧しくはない。EUも農業保護は手厚いですよ。世界では、農業は国策、という位置づけのほうが多数派ですから。
 日本はジャポニカ米の生産をそういうカードに育てることに失敗しました。世界ではインディカ米のシェアのほうがはるかに大きいです。地道な輸出戦略をせずにここまできましたからね。日本は農業政策でタイやベトナムに敗北したのです。(ここ大事)世界のシェア。インディカ8割、ジャポニカ2割です。言っておきますが、このジャポニカ2割は、アメリカやイタリアでの大規模ジャポニカ米生産も含めて2割です。ジャポニカ=ジャパンではありませんからね。
 そして、ついに「もういいや。お金もないし、切り札カードにもならんから、『農業』なんてカードは場に捨てちゃおうっと。ポイっ」という2022からの今日。
 人知れず。大多数の国民の目につかない形で、日本国は農業というカードを場に捨てました、という話。農協さんはそれを受け、目も当てられない迷走をしております、というお話。

本日はここまで。ポイント整理。
①    販路なき作付け転換。どうする農家さん!

②    国と農協の絶妙なコラボレーション。相場下落の地の海地獄ツアーは始まったばかり。こうご期待。
(いや、笑いごとではない)

③    保護か非保護かも争点として大きいが、変革を受けて迷走する農協の動きもイタすぎる。

④ちなみにいうけど「農業以外のカード」はちゃんと育てとるんかい?
まさかクールジャパンアニメーションだけ?他の健全育成が見当たらんぞ。
自動車も発電技術もすっかり国内技術をいじめちゃったわな。「カードなし」の外交だけは許してちょうだい。

                        最終回 第4回に続く


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