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言語の音声リズムから見た譜割の操作(ビートルズの『Michelle』の例)

またしても、以下の記事の知識を前提にして話を進める。

ビートルズに『Michelle』という曲がある。
ただ、『Michelle』の解説の前に、それよりも重要なことについてまず解説しておきたい。

1.言語の音声リズムによる譜割への影響

言語にはそれぞれの音声リズムがあることはすでに紹介した。
歌詞のある曲の場合は、奇をてらうのでなければ、言語の音声リズムに少なからず影響を受ける、もしくは従っている。
英語であれば、話すときにもそうであるように、強勢の置かれる音節が長めの音符になる傾向がある。
具体例を紹介しよう。

0:55と1:22あたりの「believe me」という歌詞の譜割に注目していただきたい。

「believe」という単語は、「be・lieve」の後半である「lieve」に強勢が置かれる。つまり通常は、以下のように、譜割としては「lieve」に長めの音符があてられる。もしくは、相対的に前後のメロディよりも高い音が割り当てられやすい。
理屈を抜きにしても、言語感覚としてそうしたくなるはずだ。
※便宜上、前後のメロディや歌詞は省略

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もしこれを以下のような譜割(「believe」の強勢の位置を無視した場合)にすると、大変な違和感が出てくる上に、歌詞が聴きとりづらく、理解されにくくなるだろう。

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このように、言語の音声リズムを無視した譜割は、通常はあまり多くない。
メロディに歌詞を割り当てるにしても、その逆にしても、言語の音声リズムを理解している方が良いだろう。

2.『Michelle』における譜割の操作

0:15あたりの「go together」の部分だ。

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「together」という単語は、「to・geth・er」の強勢の置かれる「geth」の部分が通常であれば相対的に長めの音符が割り当てられることが多い。
しかし、ここではすべてに均等に4分音符が割り当てられている

もし英語の音声リズムに従えば、以下のようなものが一例として考えられる。

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「to」を短く、「geth」の部分を元より少し長めにしてみた。
こちらの方が英語のリズムの中では自然だろう。

では、そのような中、なぜ前者の譜割にしてあるのか?

もちろん、ポール・マッカートニーは意図を持ってこのような譜割にしたように思う。
『Michelle』の歌詞にはフランス語が用いられており、フランスのシャンソンを意識した曲だと本人も述べている。
無意識的にか意識的にかポールが、フランス語の音声リズムに従った結果、このような「together」の譜割になったのだろう。

思い出していただきたい。フランス語は、英語と違って音節拍リズムの言語だ。音節拍リズムにおいては、音節間の長さが均等になる傾向にある、というのは最初に紹介した記事の中で説明した通りだ。

そして、以下の記事において「フランス出身の作曲家の作るメロディは、英国出身の作曲に比べると、均一な(あるいはシンプルな)リズムになる傾向が見られた」ということも解説した。

つまり、フランス語の音声リズムの影響を受けた結果、均等な「together」の譜割になった可能性も十分に考えられるだろう。

3.まとめ

メロディに歌詞をどう割り当てるか、あるいは歌詞にどうやってメロディを割り当てるか、いずれにしても使用する言語のリズムを無視することはできない。
個人的な経験から、リズムがつかめていない言語で歌おうとすると、メロディにどう歌詞を入れ込んでいけばいいのか迷子になりがちだ。後々、言語のリズムが感覚としてつかめてくるとすんなりと歌えたりもする。言語のリズムのパターンが頭にだいぶ入ってきた、ということだ。

新しい言語を学び、その言語の歌において歌詞がどう割り当てられているのか、などを知ることで間接的に音楽的な見識を広げることにもつながるのではないか、とも最近は感じる。


参考文献:
https://www.researchgate.net/publication/252300030_An_analysis_of_rhythm_in_Japanese_and_English_popular_music

http://beatlesinterviews.org/dba06soul.html

https://www.isca-speech.org/archive/SpeechProsody_2018/pdfs/40.pdf 

http://beatlesinterviews.org/dba06soul.html 

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