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人事部に問われる安全配慮義務

 コロナ禍の中でも多くの日本人駐在員が海外に派遣されていますが、様々なストレスからか、精神疾患が増加しているようです。

  シンガポールや中国、ベトナムなどで働く日本人ビジネスマンの診療に長年たずさわっておられる医師の中島敏彦氏による著書『グローバル人材に必要なヘルスリテラシー』は、海外の医療や安全に関する情報の入手方法や活用方法、そして渡航先で気をつけるべき病気や健康問題と、その対応方法などについて解り易く書かれた書籍で、赴任者を送り出す本社の、とりわけ人事部門の方にこそ読んでいただきたい一冊です。

  第1章は「海外進出企業の、労働者に対する安全配慮義務について」。すなわち、海外に派遣した駐在員に万が一のことがあった場合、会社としても大きな責任を問われる可能性がある事柄について書かれています。

  日本企業の海外事業比率は年々右肩上がりで、コロナによる一時的な停滞はあるにせよ今後も間違いなく高まっていきます。

  それに伴い、各社が海外に派遣する「駐在員」の数も増えることはあっても減ることはないでしょう。そして、3年、5年といった周期で交替を行なうことを想定すれば、各社は次々と派遣者候補(プール人材)を準備しなければならず、その数は恒常的に不足傾向です。

  そんな中、時として海外業務(生活)への適性を欠く人物を止むを得ず派遣せざるを得ないこと、或いは「大丈夫だろう」と判断して派遣した人物が不適合を起こしてしまうこともあります。

  大抵の場合は「日本に帰国したら元気を取り戻した」、で終わりますが、中にはその後長く心身の不調に苦しむ人もいます。

   さらに、今回のコロナウイルス感染拡大の前に、糖尿病など肺炎が重篤化しやすい基礎疾患を持った人が、感染者の多い国にたまたま派遣されていたというようなことがなかったのか、と考えると、ないわけがありません。

  そして今回のコロナが沈静化したとしても、次なるウイルスの発生やウイルス以外のリスクやストレスに耐えられる人物なのかどうかを、これまでよりも慎重に判断しなければならない時代になることは間違いありません。

  「止むを得ず適性に欠ける人物を送らざるを得ない」ことがないよう、リスクの把握と、計画的なプール人材の準備を行なうべきではないでしょうか。


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