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人気絵師と皇位継承者のパクリ騒動のポイント

人気イラストレーターの古塔つみ氏と皇位継承者の秋篠宮悠仁さまに関するパクリ騒動がネットを騒がせています。私のところにも問い合わせがいくつか来たため、この場でコメントすることにしました。

まず、それぞれの事例ついてコメントする前に、著作権法の基礎知識を確認しておきましょう。これまでも様々なパクリ疑惑が取り沙汰されてきましたが、著作権侵害にあたるのは、「複製権」(既存の著作物を有形的に再製する権利)や「翻案権」(既存の著作物の表現上の本質的な特徴を維持しながら表現形式を変えて新たな著作物を創作する権利)を侵害する行為です。そして、著作権侵害かどうかを判断する基準は以下の3つとなります。

1.著作物性(そもそも対象が著作物なのか?)
2.依拠性(その著作物にアクセスしたことがあるか?)
3.類似性(その著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得できるか?)

つまり、著作物に該当しないもの(たとえば「宮城県の県庁所在地は仙台である」という文章)がコピーされても、1の観点で問題ありません。既存の著作物が存在していても、偶然同じものを創作してしまったのであれば、2の観点で問題ありません。また、明らかな元ネタがあっても、それとは類似しない独自の創作がなされていれば、3の観点で問題ありません。

また、既存の著作物を許可なく使うこと自体も、それが「引用」の要件を満たした著作物の利用であれば問題ありません。文化庁のホームページ(https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/gaiyo/chosakubutsu_jiyu.html)には、次の要件が挙げられています。

(1)他人の著作物を引用する必然性があること。
(2)かぎ括弧をつけるなど,自分の著作物と引用部分とが区別されていること。
(3)自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること(自分の著作物が主体)。
(4)出所の明示がなされていること。(第48条)

さらに、著作者の意に反する改変をすると「同一性保持権」の侵害にもなり得るので注意が必要です。

1.古塔つみ氏のケース

こちらは「トレースをしてパクる」という、いわゆる「トレパク」に関する騒動です。元ネタと思しき画像と古塔つみ氏の作品を並べて検証しているサイトはいくらでもありますので、詳しいことを知りたい方はそちらをご参照いただければと思います。このニュースを聞いて、真っ先に思い出したのが、日本人画家の和田義彦氏がイタリア人画家のアルベルト・スギの絵画と酷似した作品を創作していることが問題視された2006年の事件です。(詳しい内容を知りたい方は、『楽しく学べる「知財」入門』(講談社現代新書)をご覧ください。)

古塔氏が既存の写真などを参考にしてイラストを創作したのは間違いないようですから、著作権侵害の要件の1と2は満たすことになります。しかし、3も満たすとは限りません。たとえば、トレースしたかのように輪郭がほぼ一致していたとしても、それが表現上の創作性のない部分であれば、著作権侵害とはなりません。また、元ネタの特徴を感じ取ることができなくなってしまうレベルに改変されている場合も、同様に著作権侵害とはなりません。今回の古塔氏のケースもあくまでグレーな状態であり、真っ黒なわけではないという点に注意が必要です。

ところで、どうやら古塔氏自身、あまり著作権には詳しくないようです。twitterに謝罪のツイートが出ていましたが、「引用・オマージュ・再構築として制作した一部の作品」と表現しています。先ほど挙げた(1)~(4)の要件を満たさないものであれば、それは「引用」ではありません。

2.悠仁さまのケース

こちらは「悠仁さまが入賞した作文の中に既存の書籍の記載と酷似した箇所がある」という騒動です。「デイリー新潮」などに比較検証した内容が載っていますが、それを読むまでもありません。悠仁さまの作文も、既存の書籍の記載も、いずれもネットで公開されているからです。中立的な観点で判断するためにも一次情報に当たることは大切です。

悠仁さまの作文の全文は「北九州市文学館」のサイトにある「第12回子どもノンフィクション文学賞作品集」に掲載されています。

元ネタとされる『世界遺産 小笠原 (楽学ブックス)』の内容はAmazonのKindle(電子書籍)販売サイトの「試し読み」でその一部が読めるようになっており、今回指摘されている箇所もそれで確認できます。

以下、悠仁さまの作文をA、『世界遺産 小笠原』をBとして、問題となっている箇所を比較してみることにしましょう。

A:小笠原諸島は、火山が隆起してできた島で、一度も大陸と陸続きになったことがない「海洋島」です。(77ページ)

B:小笠原諸島は、火山が隆起してできた島で、一度も大陸と陸続きになったことがない。こうした島を海洋島という。(11ページ)

たしかに似ていますが、単に事実を述べているだけの文章ですから、そもそも著作物性がないかもしれません。

A:あるものは海流に乗って運ばれ、あるものは風によって運ばれ、翼をもつものは自力で、あるいはそれに紛れて、三つのW、Wave(波)、Wind(風)、Wing(翼)によって、海を越えて小笠原の島々にたどり着き、環境に適応したものだけが生き残ることができました。(77ページ)

B:あるものたちは風によって運ばれ、また、あるものは海流に乗って。あるいは、翼を持つものは自力で、またはそれに紛れて。いわゆる3W、風(Wind)、波(Wave)、翼(Wing)により、数少ない生きものだけが海を越えて小笠原の島々にたどり着くことができた。(12ページ)

3つのWについては、小笠原諸島を紹介する多くの文献に記載されているので、それに言及すること自体には何ら問題はないでしょう。問題となり得るのはその前の部分です。特徴的な表現ですし、偶然似通った表現になったとは考えにくいように思います。

個人的に気になるのは宮内庁の対応です。関連記事を読んでも、何が言いたいのか正直良くわかりません。著作権侵害に該当するケースとなり得るのであれば、参考文献として載せれば解決するという話とはなりません。

なお、悠仁さまの作文は9ページもあり、小笠原諸島を訪れたときの様子やその際に学んだことなどが生き生きと綴られ、非常によく書けています。今回取り沙汰されているのが、そのごく一部に過ぎないことを考えますと、少し可哀想な気もします。悠仁さま、これを機にぜひ知財リテラシーを身に付けてくださいね。


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