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読むサイクリング ~自転車本レビュー~ 肥満自転車

ただの自転車好きが勝手に自転車本を批評します。
基本的にネタばれを気にせずつらつらと書いていきますので、気になる方は注意してください。

肥満自転車 加藤五十六 著

『メタボ医師の経験的自転車生活』という副題で分かる通り、著者の加藤さんの本業はお医者さんです。自転車界隈ではそこそこ名前の知られた方であったようです。
体重が100kgを越えていた時期もあった著者が、趣味である自転車生活についての考えを綴った一冊です。2010年出版ということもあり、機材関連の内容はやや古くなっていますが、全体としては問題なく読めると思います。

本業の分野でも著作があったので、リンクを貼っておきます。こちらは完全に専門書らしく、未読になります。

肥満肯定+自転車ハウツー=健康・ダイエット本ではない

仕事柄、ダイエットや健康について聞かれることも多いため、その勉強になればと思い本書を手に取りました。が、そういったことはほとんど書かれていませんでした。(笑)
基本的な内容は肥満の自転車乗り特有の注意点や豆知識で、それはそれで面白く読めました。

エピローグにも「肥満のままいかに自転車を楽しむかを主眼にした」という旨の文章があるので、意図的にこのような内容にしたことが伺えます。
世の中に数多ある「自転車で健康になろう」とか「自転車でダイエット」といった本とは明確に違った内容ですので、かなり尖った本と言えます。

ただ、アマゾンレビューを見るとやはりと言うべきか、読む側の期待と内容のミスマッチが起こってしまっているようです。この本に興味を持たれた方は、上に書いた通り「健康・ダイエット本ではない」ということを念頭に読まれることを強くお勧めします。

さて、読んでみた私の感想としては、肥満者を理解するためにはいい本ですが、それ以外に関しては、、、というテンションです。少し詳しく以下に書いていきます。

知らなかったメタボの自転車事情

私は自転車店で働く者の端くれですので、体形には気を使っています。太った店員に運動の相談とかしにくいですよね。(笑)
そのため、太っている人特有の症状などは知らないことが多く、新鮮に感じることができました。

下りについて一つの章を割いているのは肥満者向けならではでしょう。普通の自転車乗りよりも、ブレーキに人一倍気を使わなければいけないということが伝わります。

また、熱効率はパフォーマンスを悪化させるというのも興味深い話でした。私も日中全く走れなかったのに、夕方涼しくなってくると元気が出てくることがあります。太っている方は、この熱効率が悪く、注意と対策が必要ということは、非常に納得できました。

それ以外にも「へー」と思う箇所は多く、特に自転車店で働くスリムな方は読んでおいて損はないと思います。

自転車論はややマニア向けな印象

一方で自転車に関することなどはちょっとマニアックで、受け入れずらいと感じた部分もあります。いくつか挙げてみます。

・ママチャリ全否定
・車体以外の初期費用が7~8万必要
・ビンディングペダル推奨

この辺りは、スポーツ自転車愛好家からすると、肯定意見の方が多いかもしれません。ただハッキリ言って、一般の方からは理解しにくいことで、なおかつ初心者がスポーツ自転車へ敷居の高さを感じさせる要因になります。

スポーツ自転車の価値観というのは、閉鎖的・排他的な環境で育まれてきました。そのため、一般的な価値観とのバランスを欠いていると感じてしまいます。一般的には非常識なことを、正しいという極論を振りかざして押し付けるようなところがあり、それはこの本(著者)というよりは業界全体に通底する問題だと改めて感じました。


そもそも論だが、医者が肥満であることを省みなくて良いの……!?

すでに書いたことではありますが、私がこの本を読む前の内容予想としては「医者である著者が自身も肥満であった経験から、健康・ダイエットを推奨し、その方法を書いた本」でした。

しかし、内容は肥満を推奨しているように感じてしまう場面も多かったです。そもそも論ですが、医者が肥満であることを省みなくて良いのか……!?というのが、読書中ずっとノイズとなってしまいました。医者が100kgを超えるような肥満を、肯定的に書いているというのは、違和感を覚えざるを得ませんね。

太った人特有の症状などはなかなか新鮮で、それだけで読む価値はあります。これから、メタボの方への接し方は少し変わってくると思います。とはいえ、万人におススメはできるものではなく、普段メタボな方とよく接するような仕事をされている方限定でお勧めとさせていただきます。

強めの自己肯定意識がスポーツ自転車という閉鎖的なコミュニティで醸成されてできた本というのが、私の中での評価となります。

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