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プロコーチが、コーチ業で生計を立てるための最低限必要な3つのスキルと必要不可欠な1つのマインド

プロコーチとして生計を立てるためには「クライアントを獲得すること」、そして「その契約を継続すること」が必要です。返せば、このふたつができていれば、プロコーチとして生きていけます。

では、そのふたつを実現するためには、どんなスキル、そしてどんなマインドが必要なのでしょうか?

その答えは10人のプロコーチがいれば、10通りの答えがあります。そのそれぞれの答えは、そのコーチのスタイルや信条を表すものかもしれません。ここでは私の考える、『最低限必要な3つのスキル』と、『必要不可欠なマインド』を1つお伝えします。


最低限必要な3つのスキル

私が考える、最低限必要なスキルは、「聴く力」「共感力」「受容力」の3つです。スキルというとその「行動」に着目されますが、私が伝えたいのは『その行動によってクライアントに“何か”を起こすことができる力』と認識をしています。


1.聴く力

コーチのみなさんには釈迦に説法ですが、“きく”には3つの漢字があり、それぞれによって意味が違います。

「聞く」は門に耳を近づけ、その隙間から聞くという字を書きます。「音・声を耳に受ける」という意味があります。

「訊く」は聞き手が聞きたいこと、知りたいことを訊くことです。つまり、聞き手の情報収集のための手段です。

「聴く」は耳で十四の心を聴くと書きます。つまり、相手の発する言葉だけでなく、その奥、その源にあるさまざまな心、想いも感じるほどに「聴く」ということです。

ここで、「コーチの赤本」からひとつの則を記します。

〈第73則〉
クライアントの「いま」を聴くことで、クライアントの「これまで歩んできた人生」を聴け。

コーチに必要なスキルのひとつ目はこの「聴く力」です。

これはクライアントの話に耳を傾けながら、全身でクライアントの“心を聴く”。その心を携えるに至ったこれまでの“人生を聴く”ということです。

今このセッションの場で顕在化しているクライアントの課題、テーマを聴きながら、クライアントのこれまで生き重ね、頑張ってこられた人生、大切にしてこられたものに想いを馳せ、祝福し、そのクライアントの本当の課題、本当に望んでいるものは何なのかを推し聴くということです。

クライアントは、これまで経験したことのない次元の、「聴いてもらう体験」をしていただくことになるはずです。

“努力”は“夢中”に勝てません。
この、コーチの『全身で聴く』をもっとも助けてくれるのは、クライアントの“存在そのもの”に対する強い好奇心、「聴きたい!」と夢中になることなのかも知れません。

プロコーチに必要なスキルのひとつ目はこの「聴く力」です。


2.共感力

これもコーチングを学ぶなかで、何度もでてくるものです。

読んで字の如く、「感情を共にする」ことですが、このコーチにとって当たり前の『共感』をここで挙げたのは、たくさんのコーチのセッションを見るなかで、時々『共感』と『賛同』を混同しているコーチを見るからです。

再び「コーチの赤本」からひとつの則を記します。

〈第7則〉
原則として、クライアントのネガティブなものには共感すれど賛同するな。賛同して良いのは過去の自分、そしてポジティブなものだけである。

この「ネガティブに賛同しない」に関して、ふたつの視点からお伝えしたいことがあります。

ひとつはクライアントの成長前進の視点
そしてふたつ目は、コーチの賛同動機の視点。このふたつです。

クライアントの成長前進の視点

ここで『共感』と『賛同』の分かりやすい簡単な例を先に示します。セッションでクライアントがこのように発言されたとします。

クライアント:「先日、Aさんが私に●●と言ってきて、すごく腹が立ったの!」

これに対し、コーチが共感するとは

コーチ:「そうですか。Aさんに●●と言われたんですね。それですごく腹の立つ思いをされたんですね。」

これに対し、コーチが賛同するとは

コーチ:「そうですか。Aさんに●●と言われたんですね。それはすごく腹が立ちますよね。」

まず、ここでこのクライアントがコーチに伝えたことは「真実」ではありません。『その時起こった出来事』を、『クライアントが捉えた事実』として『言語化』したもので、そこには『推測と判断が混在』しています。

人によっては、この同じ場面で悲しみの感情をもつ人もいるでしょう。怒り、悲しさ、怯え、寂しさ、自己否定、どのようなネガティブ感情であっても同じです。

その感情に至るまでのプロセスは仮説です。

極端に言えば、クライアントが『言語化した』そのほとんどは「真実」ではなく、そのクライアントの『価値観や恐れの心理のフィルターを通って“真実”として顕在化された』=“仮説”です。そのクライアントが“よく書く脚本”なのです。

その仮説に対してクライアントが出した『結論(考え・判断)』に共感してしまうこと、それがつまり『賛同』です。

もちろんこれは、そのクライアントが嘘を言っていると非難、否定しているのではありません。そもそも、人のコミュニケーションとは、その人の捉えた事実と推測と判断のやり取りです。

だから人は人間関係で悩むのです。衝突や葛藤が生まれるのです。正確には、その人がさらに幸せ、生きやすくなるための悩みや葛藤という個別課題と出会えるのです。我々コーチからすれば、クライアントがさらに成長、前進しやすくなるための尊い課題のひとつが見えた悦ばしい瞬間なのです。

人は、人との関わりにおいて、過去の体験から、その人特有の“いつもの感情”が反応してしまうポイントを複数持っています。そして、それらを慣れ親しんだ“いつものストレス”として長年携え続けています

コーチは、その感情までのプロセスが仮説であろうが、真実であろうがどちらでも構わないのです。

そのクライアントの反応するポイント、受けとり方の癖とその感情、つまりそのクライアントがさらに前進、幸せになるヒントが顕在化したということだけなのです。ただその出来事をギフトとして受けとるだけなのです。

では、クライアントの成長前進の視点において、『賛同』することはなぜ良くないのでしょうか。

それは、コーチの「それはすごく腹が立ちますよね。」の発言は、「怒るのはごもっともですよ」「そこで怒るあなたは正しい」というメッセージでもあるわけです。そこにコーチの価値観を“正しいもの”として持ち出し、クライアントが、これからもその類いの出来事において、同じように人に怒りを抱き、ご自身苦しみ続けることを許可容認することになり得るのです。

コーチの『賛同』が、クライアントの無限の成長前進の可能性に蓋をすることを意味しています。

コーチは目の前のクライアントが際限なくさらに成長、前進、幸せになるために関わるのです。そのためにクライアントが自発的に、思考そして行動変容を起こし続けていくためのサポートをする。それが我々コーチです。

コーチの赤本の「賛同して良いのは過去の自分」とは、クライアントの言葉に対して、寄り添い、その時の感情を含め、たくさんの想いを聴き切った上で、

コーチ:「その怒るお気持ち、とてもよくわかります。以前の私もまったく同じでした。とても嫌な想いを繰り返していましたよ。」

と、(偽りでないのなら)昔の自分もあなたと同じだったと、賛同すれば良いのです。自己開示すれば良いのです。そして同時に、「今はそのような場面で嫌な想いをすることがなくなった」ということが言語・非言語でクライアントに伝われば、そのクライアントは直ちに手だてはわからないまでも、この苦しみは仕方ないものではなく、これを乗り越えた先の明るいゴールの存在を感じることができるのです。これから目指したいと思うものが現れるかも知れないのです。

クライアントのネガティブな感情を共にし、受容し、そしてクライアントがそこにとどまることを善しとしない存在、それがコーチなのです。

私がふたつ目に挙げた「共感力」とはこの場合、唯一の“真実”である、「クライアントがその時に抱いた怒りの感情に“のみ”共感する」ことを指します。

非常に長くなってしまいますので、これ以上の詳しい説明は割愛しますが、ぜひ一度『共感』と『賛同』の違いについても含め、コーチが持つべき「共感力」について考えていただければと思います。

コーチの賛同動機の視点

ここでも、「コーチの赤本」からひとつの則を記します。

〈第1則〉
クライアントの絶対的味方であれ。味方であり続けよ。そして、クライアントの敵、恐怖、怒りの対象の味方であれ。

コーチはクライアントの味方でありますが、決して仲間、お友達ではありません。先の例文で述べたように、Aさんは、クライアントがさらに幸せになるためのきっかけを与えてくれる可能性のある、感謝すべき存在です。

しかし、クライアントはこのAさんを直ちに感謝の対象と見ることは困難です。

仮にコーチがクライアントに充分に共感、承認もせずに、「あなたはAさんに感謝すべきです」と伝えたとすれば、そのクライアントの中にコーチに対する反発心が生まれるかもしれません。コーチに自分を否定されたと捉えるクライアントもいるかもしれません。

当然、そうなればラポールの形成に時間がかかるでしょうし、もしかするとコーチング契約が切れてしまうかもしれません。

かえせば、手っ取り早くクライアントとの“安易なラポール”を形成する方法として、コーチもクライアントと同様にAさんを敵視する旨のアウトプットをすれば叶うのです。

クライアントの仮説からアウトプットされた感情に、「それはひどいですね! 私もすごく腹が立ちます!」と賛同すれば良いのです。被害者になりたがっている、または賛同者を増やしたがっているクライアントのその想いを叶えてあげれば良いのです。コーチではなく、共通敵をもつ仲間、お友達になれば良いのです。

「コーチング契約が切れることを恐れる」「この見込みクライアントからコーチング契約をもらいたい」「この人とのコーチングは苦手だ」「すごいコーチと言われたい」など、コーチがクライアントに好かれたい、クライアントに嫌われたくないの心理から賛同する、もしくは賛同したくなる…
つまり、コーチのために至って欲しい結果があって、そこに至らしめようとクライアントを心理的にコントロールするための賛同行為で、クライアントではなく、コーチが自分にベクトルを向けている状態です。

この賛同がコーチの無意識からか有意識からかは関係ありません。
コーチのこの心理からのネガティブ賛同は、クライアントの無限の成長前進の可能性を信じていないということであり、きつい表現をすると「クライアントに取り入る行為」「クライアントを馬鹿にしている行為」なのです。

もしコーチがそんなつもりなく、無意識にこのような賛同をしているのであれば、そのコーチはまだコーチングの本当の素晴らしさを知らない、自身が素晴らしいクライアント体験したことがないのかもしれません。

もしそれが有意識であれば、そのコーチは自分に自信がないのかもしれません。そして、自信のない自分を他人に知られたくないのかもしれません。

その答えはそのコーチは知っているはずです。

特に前者の場合は、私も含めた指導者も、自責で向き合うべきものなのかもしれません。

コーチの赤本第7則冒頭の「原則として…」は、クライアントがご自身をあまりに責め過ぎているなど、極度にエネルギーが下がり過ぎている場合はその限りでないということです。今の、エネルギーが下がりきったクライアントが前進するために、必要なフロントステップとして、意図をもった建設的なネガティブ賛同であれば良いのです。

いずれにしてもコーチは、“誰のために、どんな目的でコーチングをしているのか”という揺るがない軸を持ち続けていなければなりません。

ここでお伝えした共感力は、その共感のスキルではなく、その基盤となるコーチの心組み(マインド)です。しかし、この揺るぎない心組みの上にアウトプットされたそのコーチの共感は、それが言語、非言語問わず、力のあるものなのです。


3.受容力

クライアントのすべてを受け容れる力です。

「すべて」
とは何でしょうか。

それは、価値観・心理思考・言動・強み弱み・そして罪・過ち・存在のすべてです。

では、どんなときに受容の必要性に直面するのか、さらに「コーチがクライアントを受容することが困難な場面」とはどんな時でしょうか。それは、大きくふたつあります。

ひとつは、セッションのその場にコーチの価値観を持ち出し、クライアントのそれと比較し、「差違を感じた時」。そしてもうひとつは、クライアントの言い訳や逃げる心理、甘えや攻撃心、虚栄心、ポジショニング心理などといった「ネガティブを感じた時」。このふたつです。

いずれの場合も、受容力が低くなったコーチは自動的に聴く力、寄り添う力が低下し、当然ながらそのコーチングセッションは機能しにくい状態になります。このコーチの変化は、必ずクライアントに伝っています。

通常時はもとより、このような受容力が低くなる場面でも、どうすればクライアントをしっかりと受容できるのか。ここはコーチが乗り越えなければならない、大切な「壁」です。この壁を乗り越た『受容力』こそが、本当の意味でプロコーチに必要な3つ目のスキルだと私は考えています。

これら両方を私のひとつの体験からお話します。

 * * * *

私はコーチになった当初からいま現在も、法人の経営陣や個人事業主、そして営業マンとのコーチングセッションが多いです。

法人クライアントの社員さんたちは自らコーチングを望んだのではなく、会社からの指示でコーチングを受けます。なので、その法人の教育リテラシーにもよりますが、概ね多くの社員さんは、最初は決してコミットは高くありません。とても警戒されていますし、本音も出されません。なかには反抗的、攻撃的、そしてあからさまに拒否される方もいらっしゃいます。みなさん恐れているんですね。

私も逆の立場、サラリーマンのときなら、その恐れを猜疑心に変えて、自己防衛のために目の前のコーチをジャッジ、減点視点で観察し、コーチを否定する材料を探したかもしれません。

コーチングを始めた頃は、そのような社員さんたちとのセッションで、私自身の恐れや価値観、さまざまなものに向き合わせてもらいました。法人コーチングのなかで、コーチのこの受容することの大切さとその難しさを教えてもらいました。

私自身も過去に営業マンであり、経営者であったので、営業や経営に関して私なりのやり方やポリシー、価値観を握りしめています。あるべき経営者や営業マンの姿があったのです。殊にセールスに対するそれは大変強いものを持っていました。 その領域での、私の中の“正解”かつ“正義”です。

コーチングの現場で20代から60代のさまざまなキャリア、さまざまな階層のビジネスパーソンと対峙することは、さまざまな正解、さまざまな正義と触れるということです。

さて、私がコーチングを仕事としてスタートしたばかりの頃のことです。 関西に本社をおく法人クライアントの、ここ最近力をつけ始めた20代後半の営業マンBさんとのセッションでの一場面です。

私:「Bさん、先月の達成に続き、今月も達成ベースですね! 最近の表情や声の調子からも以前より明らかに自信がついてきたことが伺えます。姿勢にも表れていますね。それらもさらに売り上げを伸ばすことに繋がっているんでしょうね。それ以外にBさんが自覚されている最近活かせているご自身の強みはどんなことですか? 3つほど挙げてもらえますか?」

Bさん:「3つもないですけど、売り上げを上げるのは簡単というか、売り上げを上げるコツはわかりました。客をコントロールするコツというか…。」

このBさんの「売り上げを上げるのは簡単」と「客をコントロールする」の発言と、それを語るBさんのその表情にすでに私の感情は揺れ始めていました。続けて、

Bさん:「要は、客が何を言われれば喜ぶかを探って、タラし込めばいいんです。客が喜ぶ人間を演じればいいんですよ。あとは僕が本気を出したってことくらいですかね。」

この場面で冒頭で述べた、自分の価値観(正解・正義)との差違と、クライアントのネガティブの両面を見ることで、私はBさんを受容することが困難になったのです。

この発言を私は怒りの感情を抱きながら聴いていました。いや、“聞いて”いました。さらには、サラリーマン時代のある時期の自分自身を嫌な想いと共に思い出してもいました。その頃の自分とBさんが重なっていました。

その後、私はBさんを是正(矯正)すべくアドバイスっぽい説教をしていました。きっと私の表情も怖かったに違いありません。Bさんは反論もせず聞いていました。怯えていたのかもしれません。
完全にコーチングではありません。

ここでは私の価値観とBさんのそれとの差違を詳しく書きませんが、かつて私が営業マンとして売り上げを上げるために努力を続け携えたもの、クライアントに対するその想いを否定され、加えてBさんのお客様が馬鹿にされていると思い、嫌な気持ちになったのです。つまり「怒るに値する!」と推測・判断したんですね。

人は自分のとても大切にしてきた領域において、自分でない他の人の価値観に触れると自然と自分のそれと比較をしてしまいます。

そして、自分のそれと大きく対極した違いを見つけると、「まったく間違ってる!」「全然わかってない!」とか「何甘いこと言ってるんだ!」などと怒りや苛立ちなどのネガティブ感情を持つと共に、是正したい欲に駈られる、もしくは遠ざけたくなる、つまり「存在否定したくなる」のです。

コーチが、自身が経験のある熟知した領域のテーマより、まったく未経験の知らない領域のテーマのセッションの方が機能することはよくあることです。これはコーチの、そのセッションに持ち出す価値観の有無、価値観の大きさに差があるからです。持ち出したくなる価値観があるから、受容するのに一定の負荷がかかるのです。

時として、そこには詳しい者同士のポジショニング心理まで顔をだすこともあるかもしれません。

一方、この場面で私が感じたBさんのネガティブとは、「売り上げを上げるのは簡単」と「僕が本気を出したってこと」の発言とその表情でした。この発言と表情にBさんの虚栄心と傲慢さ、そして言い訳を見たんですね。

「本当は僕はいつでも簡単に売り上げを上げられるんですよ。そう、誰よりもデキる営業マンなんですよ。以前まで数字を上げられなかったのは本気を出してなかったからなんですよ。」

私はこんな解釈をして怒りの感情を持ったんですね。先の『共感力』で述べた“脚本”を書いたのです。前述の価値観の差違も相まって感情が増幅していたのです。

加えて、「君より私の方がデキる営業マンなんだよ」という私のプライドとポジショニング心理もザワついていました。今思えば、その時の私の怒りの動機はすごい数ですね。

ここでBさんの虚栄心と傲慢さ、言い訳心に、私が怒りの感情を持つに至ったロジックは実にシンプルです。それは私の中にも『虚栄心』と『傲慢さ』『言い訳心』があるからです。なければ気づかないですし、当然反応もできません。私のよく知る、馴染みの心理だからこそ、それを直ちにBさんの中に見つけることができたのです。

人にネガティブを見つけて受容することができないのは、ひとつにまだ自分のなかのその存在に気づいていない。次に気づいてはいるが向き合えずに、相手に自分を重ねて嫌な気持ちになる。最後はかつて自分の嫌いな部分として向き合い、苦しい思いをして手放したが、他人にそれを見ると過去の自分は忘れ、「まだそんなもの持っているのか!」「いつまでそこにいるんだ!」の怒りが湧く。

この3つのどれかです。
この時の私は、ひとつ目と3つ目が合わさった状態でした。

私はBさんとのその件以降も、数多くのビジネスパーソンとのセッションで、虚栄心や言い訳だけでなく、それ以外にも実にさまざまな心理に出会い、ときにコーチングの障害になりました。

そしてその都度、これからのすべてのクライアントとのより良いコーチングのために、自分と向き合い許す、もしくはリフレーミングし手放してきました。 そしてこれからも、まだまだ向き合うべきものとたくさん出会うことでしょう。

 * * * *

今も昔も、自分に向き合い許し、手放すことは苦しく痛みを伴うものです。

それを繰り返すことは、自身をどんどん生きやすくしてくれることとわかっていてもしんどいものです。向き合おうとする度、引き続き、慣れ親しみ、耐性のついたそのストレスを携え続ける選択をしたくなります。

しかし、それを乗り越えた先にあるさらに素晴らしいものの存在と、担当コーチのさらなる成長を望むクライアントの存在、クライアントのそのニーズが私にそれを続ける勇気を与えてくれています。

今では、他の人に自分が過去に向き合ってきたネガティブ心理を見ると愛しさすら感じます。
この状態こそが『受容』できている状態だと考えています。

最後に「コーチの赤本」からふたつの則を記しておきます

〈第52則〉
クライアントの自覚するネガティブ、クライアントがアウトプットしたネガティブ、それらすべての言動、思考心理を許せ。罪悪感や自己嫌悪感を伴ったその心理を許せ。寄り添い、心から許せ。クライアントが戸惑うくらい許し、受け止めよ。そして、アウトプットしたそのクライアントの勇気を讃えよ。感謝と共に、心から讃えよ。ただし、クライアントがそこにとどまることは良しとするな。
〈第114則〉
多くの人、さまざまなタイプ、さまざまな立場の人とセッションをせよ。そして、さまざまな心理、思考、感情、想いに触れよ。持ち得るかぎりの受容と許しをもって、たくさん触れよ。触れさせてもらえ。すれば、さらに受容的になり、いつしか、手に持っていたモノサシが無くなっていることに気づくであろう。人は受け容れられてからでしか前に進めない。クライアントの前進には、目の前の、何をも許す、何をも受け容れる寛容なコーチの存在が必要なのだ。


必要不可欠な1つのマインド

それは『クライアントのため』の一貫した揺らぐことのない強いマインドです。

セッションの時間は“クライアントのためだけの時間”です。クライアントのさらなる前進成長、幸せになるためだけの時間です。

そこには、コーチの如何なる我欲も必要ありません。存在させてはいけません。

●「すごいコーチと言われたい」
●「クライアントに素晴らしいセッションだったと言われたい」
●「クライアントに感謝されたい」
●「人のためになれている自分を感じたい」
●「イキイキ仕事をしている自分でありたい」
●「人が憧れる存在になりたい」…

いずれも主語は“私”、コーチです。クライアントはこれらコーチの欲を満たすためにお金を払い、貴重な時間を使っているのではありません。自分をコーチの欲のために利用されたいとは、まったく思っていません。

私もコーチングを学んでいた頃は、同期の仲間とのセッションで、その歓びを得るため・自分の存在承認欲を満たすためのセッションをしていた時期がありました。仲間が涙すると達成感を感じることもありました。なので、気持ちはよくわかります。

しかしそれは、自己肯定感が低く、条件付きでしか自分を愛せない状態の表れです。もちろんですが、この“私”主語の目的でのコーチング契約は、概ね長続きしません。これは、決してコーチはその歓びを感じてはいけないと言っているのではありません。プロコーチはその歓びを得ることを目的としてクライアントと関わってはいけないということです。

クライアントを主語にした目的を達成するために、コーチ自身がどのような関わりをし、どのような存在であるべきかを突き詰め続けていれば良いのです。コーチングとは、無限の可能性を持ち、なりたい姿、ありたい姿になれるクライアントのためだけのものです。

また、この『クライアントのため』の強いマインドには大変大きなメリットがあります。

それは、そのコーチに「たくさんの諦めない試行錯誤」と、「アウトプット先が明確なたくさんのインプット欲」を与えてくれることです。

『クライアントのため』のマインドがあることで、日々の生活のなかで、自分のクライアントにお役に立てそうなコンテンツ、情報のすべてが目に留まるようになり、それをインプットし、直ちにアウトプットしてみるというアクションへつながります。

それらのインプットには無駄がないばかりか、アウトプットという、何より自身の理解度をさらに深めてくれる機会を与えてくれるのです。このマインドは、インプットとアウトプットの反復をもたらし、継続してあなたというパーソナリティにもっとも最適化された力強いコーチングスキルをどんどんもたらせてくれるありがたい副産物です。

『クライアントのため』というマインドは、他と差別化された、あなたらしいコーチングスタイルを確立していくことを力強くサポートしてくれるものなのです。

是非、このマインドは強く携え続けてください。


スキルとマインド以外に大切なこと

最後に、スキルとマインドではないものをひとつ。

もしあなたがコーチングの中でも、パーソナルコーチングを生業にして生きていきたいのであれば、自身がコーチングで得たいセッションフィーと同じ金額のクライアント体験をしてください。

あなたが3ヵ月合計9万円のコーチングフィーを設定したいなら、もし6ヵ月更新で合計48万円のセッションを提供したいなら、その同期間同額のクライアント体験をして、そのコーチングでクライアントが得られる価値を体感してください。

そしてそのセッションでは必ず、その価格に見合う、「あなたにとって大切なもの」をテーマとして取り扱ってもらってください。

自分のため、そして将来お力になりたいクライアントのために自己投資してください。これは、コーチのインプットのための投資より価値があり、必要な投資です。

そのクライアント体験からいろいろなものが見えてくるはずです。そこで見えてくる自分、自分が提供しようとしているものの価値、そして自分の覚悟、コーチングとは何かをあらためて自身に問いかけてみる良い機会となるはずです。

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