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半側空間無視の神経機構

2つの注意経路
注意経路には主に背側注意経路と腹側注意経路の2つの経路が存在します1)(図1)。

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背側注意経路は頭頂間溝や上頭頂小葉の頭頂葉領域から前頭眼野の前頭葉領域を繋ぐ経路です。この経路は解剖学的に上縦束で繋がっています。上縦束は3つの線維束から構成されており、上縦束Ⅰは主に運動制御、上縦束ⅡおよびⅢが注意に関与しており、上縦束Ⅱが背側注意経路を構成していると報告されています2)。機能は、トップダウン的注意や選択的注意、持続的注意に関係していると報告されています1)。
一方で、腹側注意経路は側頭-頭頂接合部や上側頭回の頭頂葉と側頭葉の間の領域からか前頭回や中前頭回の前頭葉領域を繋ぐ経路です。また、この経路は右半球のみに存在しています(左半球は言語の経路)。この経路は解剖学的に弓状束で繋がっています3)。機能は、ボトムアップ的注意や注意の切り替えに関係していると報告されています。

神経機構の歴史
半側空間無視の原因部位は過去の先行研究でさまざまな報告があります(図2)。

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1990年代から2000年初めには、視覚情報処理に関係している頭頂間構や下頭頂小葉、右側頭-頭頂接合部4)や右上側頭回5)のような視覚や多感覚情報を統合するような領域の損傷により、半側空間無視が出現すると報告されていました。
一方で、上記のような領域ではなく頭頂連合野と前頭連合野を繋ぐ線維の損傷、つまり上縦束Ⅱ6)のような線維束の損傷が原因という報告もあります。
過去に上記で述べた領域や繊維束が原因部位であると報告があった原因として、上記で述べた領域や繊維束を損傷すると半側空間無視が出現するからです。

最も有力な神経機構
しかし、近年ではある1つの領域が原因部位ではなく注意に関連する領域間の失調、すなわち、注意に関連した領域と領域の情報伝達が上手くできないネットワークの失調であることが報告されています1)。
ある報告によると7)、半側空間無視で最も損傷が多い部位として側頭-頭頂接合部や上側頭溝、中前頭回などの腹側注意経路に損傷が多いことがわかっています。
これらのことからCorbettaらは以下のように半側空間無視の神経機構を提唱しています1)。
右腹側注意経路の損傷で同側の背側注意経路の機能的結合が低下し、対側の背側注意経路の機能的結合が増加することで左右半球間の不均衡が生じることで半側空間無視が出現すると報告しています。この神経機構は現在(2020年6月)で最も有力な説であると言われています。

以下では、腹側注意経路の損傷で背側注意経路に影響を及ぼす理由、急性期と慢性きの神経機構の違い、自己中心座標と物体中心座標の無視の原因部位の違い、近い空間と遠い空間の原因部位の違い、皮質下損傷による半側空間無視の神経機構、身体無視の原因部位、脳内表象(空間イメージ)の神経機構について説明しています。

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