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ずっと大嫌いだった「東京」という街のことが、少しだけ好きになった。

「僕は東京という街が嫌いだ。」

就職を機に東京へ移住してからの約4年間、ずっとそんなことを思っていた。人が多いところも、家賃が高いところも、密集するビル群も、みんなどこか忙しそうにしていて無機質なところも、高いお金を払わなければ大してご飯が美味しくないところも、その全てが嫌いだった。

僕は人並み以上に旅をする。少なくとも1ヶ月に2回程度は東京を離れ、地方へと訪れる。その度に程よい人の少なさや、豊かな自然、その地に暮らす人たちの余裕や、地域ならではの美味しいものに魅了される。今思えば、東京での生活に息苦しさを感じていた僕は、自身を解放する手段として、無意識のうちに旅を選んでいたのかもしれない。

古い記憶を思い出していた年末年始

今年の年末年始にふと過去のことを振り返る機会があった。"昔の自分は何になりたかったのだろうか"と、そんなことを考えていた。中学生の頃の僕には幼いながらに雑誌の編集者になりたいという夢があった。何か高尚な理由があったわけではなかったし、きっかけはテレビやドラマの影響くらいのものだったけれど、以降、大学生になるまでずっと抱いていた夢だった。

東京の大学へ進学したいと思っていた、18歳の自分

高校3年生になり、大学受験が近づいた頃、僕は東京の大学に進学したいと考えるようになった。当時、相変わらず雑誌の編集者になりたいと思っていた僕は、東京の大学に進学し、出版社でアルバイトを始め、卒業後あわよくば編集者になれればなどと、浅はかなことを考えていたのだ。東京という街に少しばかり憧れもあったんだと思う。

莫大なコストがかかる東京という街

一方で東京の大学に進学するとなると、莫大なコストがかかる。幸か不幸か僕の生まれ育った関西は、国公立の京都大学や大阪大学、私立大学の関関同立など、恐らく首都圏に次いで有名大学の多い地域だ。東京大学や一橋大学にでも入学しない限り、わざわざ莫大なコストをかけてまで、東京の大学へ進学する理由がなかった。都合良く日本有数の頭脳を持ち合わせていたわけもなく、MARCH程度の学力だった僕は東京の大学へ進学することを諦め、大人しく関西の大学に進学することとなった。

かつては雑誌の編集者になりたかった

大学へ進学した後も雑誌の編集者になりたいと思っていた僕は、大阪で出版社のアルバイトやインターンを募集していないか、定期的に求人媒体を眺める日々を過ごしていた。しかし2ヶ月、3ヶ月と待てど暮らせど一向に募集はなく、試しに対象地域を東京に変更して、いくつもの募集がヒットした時には、なんともやるせない気持ちになったことを覚えている。こうして半ば諦めるかのように雑誌の編集者になりたいという僕の夢は少しずつ鎮火していった。

やっと気が付いた「東京」という街の魅力

そんな過去のことを思い出しながら、年末年始にこれまでの自分について振り返っていた時のことだった。特に昨年1年は総評すると悪くはない1年ではあったけれど、一方で新しいチャレンジがあまりできず、2023年は色んなことに挑戦する1年にしようと自分の中で位置付けた。

そうした振り返りをする中で気付いたことがあった。それは東京在住の友人たちと、それ以外の地域に住む友人たちを比べた時に、変化を恐れず新しいチャレンジに対してより寛容な傾向にあったのは、東京在住の友人たちだということだった。東京のある会社で人事をしている友人と話をしていても、情報感度の高い学生は総じて東京都内の大学生だという。

また、大阪に住むある友人との会話の中で印象的だった言葉がある。それは「東京でブームが起きてから2年越しに、ようやく大阪にもサウナブームがやってきた。」という言葉だった。今や世間的には空前のサウナブームだと言われているけれど、その発端はやはり東京であり、大規模な流行やムーブメントは基本的に東京から始まるのだろうということを考えさせられた。

多くの人が行き来する東京

これはよく考えれば当然のことで、東京という街には様々な地域から、様々な想いや考えを持つ人たちが集まり、資本も企業も人口も密集している。多様な価値観に触れる機会が多いからこそ、東京の街に住む人たちは新しいことに対してより寛容な傾向にあり、結果としてそれがブームへと発展していく。つまり言い換えれば、物理的なチャンスとの遭遇率が高く、精神的にも新しいことにチャレンジしやすい環境が整っていることこそが、「東京」という街の魅力であり、本質なんじゃないかと思う。

人は多いし、家賃は高いし、電車はいつだって満員だし、愛想のない人ばかり。おまけにご飯もそんなに美味しくない。相変わらず僕はそんな東京という街のことが嫌いだけれど、かつての僕がこの街で雑誌の編集者を夢見たように、最近になってようやく、何者にでもなれるこの街のことが少しだけ好きになった。今はもう雑誌の編集者になりたいだなんて思ってはいないけれど、なりたい自分になるために、僕はこの街でやりたいことに挑戦し、会いたい人に会いにいく。そうやって、このまま、この街で、もう少し頑張ってみようと思う。

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