きっと笑いがとりたかったんだ、僕は。
どうして学校の先生になったんですか?
先日、そうやって生徒に聞かれた。
「教えるのが好きだからかな。」
って端的に答えていたこともあるし
「いろんな仕事やってみてさ、純粋に生徒の成長を喜べるこの仕事の魅力に気がついたんだよね。売り上げのためじゃなくて、生徒の成長のために時間を使えるって素敵じゃん。面白いよ、センセー。」
とか何だか素敵っぽいことを言っていたこともある。
「この質問に答えるためには、私の人生を語らなきゃならなくて、誰の人生も5分では語れない。」
そう切り返して逃げることもできるけれど、やっぱりちゃんと考えておいたほうがいいなぁ。私は・・・どうして学校の先生になったんだろう?
原点の日のことは、覚えている。いつのことだったかは不明。おぼろげだけれど嬉しかった記憶として頭の片隅にある。きっと美化されている思い出だろうから、事実とは違うかもしれないけれど・・・。
確か上の妹が、算数の「等式の変形」(因数分解の小学校バージョンみたいなやつ)が分からなくて困っていたんだ
どうやって伝えれば良いかを一生懸命考えて、図で式を表すことを思いついた。
青と緑の二つのブロックを書いた。
□ ■
それぞれの前に「2×」を書いて「+」で繋いだ。
2×□ + 2×■
ブロックが二つに増える。そして足す。青2つ、緑2つ。全部で4つ。
□□■■
次に青+緑をかいた。
□+■
その前に「2×」を書いてみた。わかりやすいように( )をつけよう。
2×(□+■)
青緑が二つに増える。青2つ、緑2つ。全部で4つ。
2×□■
=□□■■
ほら、おんなじになるだろう?
先にかけても、まとめてから後でかけてもいいんだよ。
そんなことを言ったような気がする。少なくとも頭の中の美化された少年の私はそう言っている。
妹は、「わかった!」と言った。
母親は「あんたは教えるのがうまいねぇ。」と言った。
これで記憶はおしまい。
この「わかった!」と「あんたは教えるのがうまいねぇ。」が私の原点なのかもしれないな、と思う。あの時に「そうか、教えるのがうまいのか、僕は」と思ったのを覚えているんだ。覚えているのはその感情だけだから、きっと物語は半分創作だ。だって手元に「青」と「緑」のペンが都合よくあったとは思えない。昔は赤鉛筆と青鉛筆が真ん中でくっついたやつしか使っていなかった気がする。赤と青だったのかな。それとも真っ黒だったかも。
もう一つの記憶。
確か学芸会の練習だ。演目は「おじぞうさん」。
キツネたち、子どもたち、おじいさんおばあさん。動かないおじぞうさんを中心に、いろんな人がそこに訪れる。春から始まり、四季を経て次の春へ。
どんなストーリーかは覚えていないがとにかくそんな話だ。
私は主役である「おじぞうさん」をゲットした。
主役だけど一切動くことがなくて、舞台の中央に立っているだけ。セリフもたくさんあるわけじゃないけれど、何だか誇らしかった。
小学校の劇は、複数人で主役をやることが通例なので、「えんどーくん」もおじぞうさんだ。「えんどーくん」が春から夏。私は秋から冬の寒い時期を受け持った。えんどーくんはクラスで1・2を争う長身の持ち主で、私は「前ならえ」をしたことがない安定のミニマム男子だったので、夏から秋に変わる幕が開いた瞬間、舞台の上には衝撃が走った。
「めっちゃ縮んどるやん!!!」
観客の誰もがにこやかになるあの瞬間が好きだった。お母さん方が、楽しそうにその瞬間の衝撃を語っている姿を見て、「背が小さいのも悪いことじゃない」と思えた。観客に関西人はいなかったはずなので、「めっちゃ縮んどるやん」も私の想像の産物だ。思い出は、面白い方向に進化するのだ。
演技をするのが、好きだった。
みんなに褒められるし、自分の中でもどうしたらいいか分からない落ち着きのなさを、最大限に発揮できる場所だと思った。
先生が「じゃあ、にっしぃ、お手本を見せてくれ」。って言って他の役も私にやらせた。
楽しくて楽しくて、嬉々として「子ども役」とか「おじいさん役」をやった。思いっきりやると、みんなが笑う。どんなに「おだって」もふざけても、怒られない。舞台の上が大好きな場所になった。(「おだつ」=調子に乗る)
人前に立って、何かをすると、笑いが返ってくる。
笑いが返ってくると、とんでもなく、嬉しい。
おだちたがり屋の少年の生きる場所だった。
いじめられっ子の中学生時代を終え、高校に入った年に、その思いは花を咲かせる。
次の記憶は、「演劇同好会」に誘われ、保健室の扉を開けた記憶だ。演劇同好会の顧問の先生は養護教諭だった。通称「鉄仮面」と呼ばれるクールな女性だ。(本当は鉄仮面でも何でもなくて、不器用で、でも一生懸命で、笑顔が素敵な方だった。私は彼女が大好きだった。)
保健室で「君たちが入ってくれれば、同好会は部になれるの!」と漫画のようなセリフを言われ、その日に見学に行く予定だった山岳部をキャンセルした。山ではなく、舞台に登ろうと決めた。
その年の高文連。
数少ない男子部員として消去法的に主役をゲットし、舞台に立った。脚本は、少年の成長を描いたコメディ。たくさん笑いをとった。客席が「どっ」と湧く。その瞬間「ドーパミン的な何か」が頭の中にブワーッと出る。みんなが笑っているのが嬉しくて楽しくて、夢中になって演技をした。そして、部活動となった初年度から、全道大会への切符を手にした。
笑いがとりたい。
これが原点となった。でも、ぶっちゃけ日常から面白い男ではなかった。
調子こきのチョロチョロ男子。臆病で真面目な、勉強だけはできるのび太くん。
だから、他人となって舞台で笑いを取ることにハマっていった。
「どうして先生になったの?」
の答えは、見つかっていないけど・・・
きっと私は、笑いがとりたかったのだ。
これを生徒の前で話すのは、やめておこう。
笑いをとるために「笑いを取りたい思い」は邪魔になる。
純粋に、彼らを笑わせるのだ。何度も、何度も。
そして「わかった!」と言わせてやる。絶対に。
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