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散歩中の声 夏至の夜

この一歩一歩を私は
ほとんど瞑想状態で歩いている

途切れた雲に
月の虹彩が
映っている
田んぼの黒い水鏡は
静かで
蛙の鳴き声を吸い込んでいく
街路灯は
黒い海に浮かぶ船のよう

なにをも思わず
私は歩いている

苦しいことが確かにあった
嬉しいことがそこまであった

どんな日もある
それでもいつしか代わり映えのない
日常は訪れる

言いたいことがある
声をかけたい人がいる

もちろん愛はそこにある



けれど
今はほうっておくの


なぜ?って

それは
みんなが通り行く道だから


一人より二人
一人ぼっちじゃない
それも、少しの慰めにはなる
けれど
本当のところは
ひとりでなんとかするしかない

穏やかなこの道のりを
私ひとりが信じて歩けば
次に歩くひとにも伝わる

散り散りになった思いで
誰かを傷つけてきたかもしれないけれど
最後には
どんでん返し
覚悟を持って穏やかに歩くだけ


私の記憶は
鮮明な心の声を消すことはない
あの日
どんな気持ちで窓を見ていたか

小石を
川の音を
月を
涙を

じっと呼吸することを覚え
呼吸の仕方が下手だったことを
こんなにも長く知らなかったことに驚いた

錨をはずして
ゆったり待つ
出港前の船は
寂しげな賑わいで満ちている





どん底にある
そこに眠る小石を拾うため
深く深く


祈りの道

小石は
大切に磨かれ
月の光に照らされる
時を待つ

夏至の夜
この宇宙の中で
どれだけの星が輝いているのだろう


記憶で彩られ
また
同じ道をいくとしても
けして同じではないということを
また記憶していく
この道のりを
愛してやまない



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