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【自治体DX推進のためのフレームワーク】  「3つのSmart」の詳細

はじめに

前回は、「自治体DX」を整理するためのフレームワーク「3つのSmart」の概要をご説明しました。

①目の前の業務の効率化を進めつつ、自治体とのやりとりの非効率や不便を改善すること:Smart Government
②働き方を見直すこと:Smart Workstyle
③①と②を土台にして、課題解決できる組織を目指すこと:Smart Solutions

今回は、3つのSmartのより詳しい内容を説明します。

(このnoteにおける掲載内容は私個人の見解であり、会社の立場や意見を代表するものではありません。)

Smart Government

Smart Governmentは、一般的に言われている自治体DXの概念に近いと思いますが、業務の生産性を上げつつ、住民サービスの不便をとりのぞき、ストレスなく行政とやりとりできるようにすることが求められます。


業務の生産性の向上

業務の生産性については、自治体の場合まだまだ上げる余地がありますが、ツール類の導入と職員のマインドセットの両面からのアプローチが必要になります。

Web会議によって出張が不要になり、業務効率化につながったように、導入する余地のあるツールはたくさんあるはずです。
ペーパレス化、電子決裁など、昔から存在している解決方法も十分に浸透しているわけではありません。
一方、いずれも盲目的に導入して効果が出るものではありません。
例えば、電子決裁については、大量に添付資料があるものを無理して電子決裁しようととすれば、かえって手間が増えるかもしれません。

自治体の業務自体に「いらないもの」はないかもしれませんが、業務の内部プロセスには無駄が山ほどあります。「それってそもそもやる必要ありますか」という議論が普通に起こるような職場にしていくことが、一番の業務効率化への近道です。
マインドセットを変えれば、「どうすれば最も効率化できるのか」を現場の実情に即して考えることができるようになり、自律的に現場での改善が進むはずです。


行政とのやりとりを便利に

「行政とのやりとりを便利にする」という観点は、従来それほど重視されていなかったように思います。

コロナ禍以前は、自治体とオンラインでやりとりするという発想はなかったといっていいでしょう。
手続きのために庁舎に来庁することは普通でしたし、自治体同士でも、たった1時間の会議のために市町村の職員が県庁所在地に集まることもよくありました。
こういった「当たり前のようにやっているが、実はめちゃくちゃ無駄なこと」は徹底的になくし、自治体とやりとりする際のストレスをなくすことはDXのベースでしょう。

自治体間のやりとり、自治体―住民間のやりとり、自治体―企業間のやりとりなど、いくつかのパターンがあると思いますので、それぞれで非効率・不便の要因になっているものを洗い出すことが必要です。

自治体―住民間のやりとりの代表例として、行政手続のオンライン化が挙げられますが、とにかく入口だけオンライン化することを目指し、バックオフィスはアナログだったり、大してユーザーにとって便利にならなかったりということではやる意味がありません。「便利にする」という大目標を常に意識する必要があります。

Smart Workstyle

自治体DXを進める際には、職員の働き方に対する意識を変えることが不可欠です。
この際、日々の働き方だけでなく、自らの「キャリアパス」への考え方も見直すことで、組織の活性化につなげることができます。


働き方の見直し

コロナ禍を機に、世の中では働き方に対する考え方が大きく転換されようとしていますが、この流れに乗れるかどうかで自治体の人材活用の成否が決まると言っても過言ではありません。

感染対策として導入された在宅勤務は、長時間の通勤を避け、自分や家族との時間を大事にする契機となっており、通常の働き方の一つとして受け入れられつつあります。
人によって抱えている家庭の事情は様々なので、子育てや介護などの必要性によっては、業務との両立の観点から業務時間を柔軟化し、選択できるようにすることも必要です。
世の中では「多様性」の認識が広がっています。職員それぞれ個性がありますし、生産性が上がる働き方は異なるはずです。

これらに対し、行政の動きは、早いとは言えません。
在宅勤務の活用可能性やフレックスタイム制などの柔軟な働き方について、人事院で制度化に向けた議論がようやく開始されていますが、時代のスピード感についていけるでしょうか。

時代にあった働き方の実現が、優秀な人材を獲得しつつ、組織を活性化させるためには不可欠です。
自治体DXは組織経営の問題ですが、その中心は「人」ですので、働き方の問題抜きには自治体DXを語れないと考えています。


キャリアパスの見直し

働き方の見直しを進めていくと、自ずと今後の職員のキャリアパスをどう考えるのかという問題に行き着きます。
なぜなら、組織をより活性化させ、個人が能力を発揮できるようにすることが組織改革において求められているなかで、働き方とその仕事の内容は表裏一体だからです。

自分の仕事にやりがいがあり、自分の考えるようなキャリアアップができるという点を押さえなければ、組織改革としては片手落ちになります。
そのため、資格取得などの自己研鑽を後押しすることや、副業による外部での活躍機会を作っていくことに加え、ゆくゆくは人材の流動性を高めるためのリボルビングドアの構築も必要になってくるでしょう。
さらには、人事評価を厳格にするなど、頑張っている人が正当に評価される制度づくりに知恵を絞る必要もあります。

ワークスタイルという言葉を若干拡大解釈している感は否めませんが、こういった働き方に紐づく組織の課題は、全てセットで対応する必要があるでしょう。


Smart Solutions

「皆が幸せに暮らしていける社会」をつくることが自治体の最終目標です。そのために、先ほどの二つのSmartを土台として、地域課題解決を進められる組織を作ることがSmart Solutionsです。

まずは、今行っている施策が、地域課題解決の観点から必要不可欠なものかどうかを総点検する必要があります。

そして、今後職員が地域課題解決ファーストで行動できるようにするためには、マインドセットを変え、新しい技術にアンテナを高くする必要があり、人材育成のあり方の再検討が求められています。


事業の総点検

自治体のミッションの原点に戻ると、現在自治体で行なっている仕事の棚卸しをする必要があることがわかります。

自治体が行う業務のなかで、法律に基づいて国から降ってくる業務については、基本的に裁量の余地は大きくありません。
国からの業務以外で、自治体独自の仕事を作っていくわけですが、旬が過ぎた事業を漫然と続けているものも多いですし、住民のニーズの再確認と、事業の手段の適切さの確認は不可欠です。

もうすごく基本的なことに聞こえると思いますが、ここを押さえずに前例踏襲で続いている事業は多々あります。
自治体では、油断するとどんどん事業を積み上がっていきますので、事業が本当に住民の幸福につながるようなことなのか、不断にチェックする仕組みが必要になります。


人材育成

改めて、課題解決を進めることがミッションだと確認した上で、実際に課題解決を進める手段については、職員のリテラシーを高めることでしか対応できません。

世の中では色々な技術が登場しています。
例えば、三重県で実証実験を行なっていただいたサグリ株式会社さんは、衛星写真を用いて耕作放棄地の分析を行い、各自治体の農業委員会の目視確認の手間を大幅に削減する取組を進められています。
私は、一緒に実証実験をさせていただいて初めてこのような解決策があることを知りましたが、日頃からアンテナを高くすることの大切さを痛感しました。

新たな技術動向は、既存のOJTや受け身の研修ではフォローに限界があります。
自ら意識を変え、日々の情報収集のあり方を変える必要がありますし、実際にどのような技術の活用方法があるのかを身をもって体験することが重要です。

三重県では、令和2年度に、「スマート人材育成」と称し、公募で集まった20代〜30代半ばまでの職員20名の体験型研修を実施しました。
最新の技術の動向を学び、実際にそれが現場でどのような活用されているのかを理解することを研修の核として、スマート農業やスマート漁業の現場で学んでもらいました。

座学も大事ですが、現場でどのように技術が応用されているかを自分の目で見ることが何より大事だと考えています。


まとめ

以上、3つのSmartの詳細についてお伝えしました。

もちろん、このフレームワークが絶対の正解ではありませんが、私は、自治体DXをあまり狭い意味に捉えたくないと思っています。
なぜなら、コロナ禍を契機とした、今回の変革の波に乗らなければ次の機会はなく、自治体経営が完全に危機に陥るからです。

3つのSmartは、一見デジタルでないことも含まれていますので、すぐには腹落ちされない方も多いでしょう。
しかし、組織が抱える問題点を洗い出し、時代に合った組織に脱皮することが自治体DXの目的ですので、このくらい広範囲に改革を進めることが必要だと確信しています。

3つのSmartの各項目については、さらに論点を深掘りする余地があり、それぞれ記事を書きたいと思っていますので、ぜひまた皆さんのご意見をお寄せいただけると嬉しいです。

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