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しゃべりたくてしゃべりたくて、しゃべりたかった娘

母業をストライキして、心に厳重な鍵を閉めていた私。

私が頑なに接触を拒絶すれば、娘は自分で寝坊せずに起きて学校に行ったり、溜まった洗濯物を洗うことも畳んでしまうこともできます。

夫も、私にお願いしてもやってもらえないと観念すれば、ウーバーで二人分の夕食を用意したり、娘の美容院の予約も、水着の名前付けも、サッカーの出欠連絡や合宿の説明会、移動教室のための買い物…と、できないと言ってお願いしておきながらひとつひとつ終わらせていました。

普段、どんだけ甘えてんねん。

もう面倒くさいから、夏休みもこのままでいっかー。と、思っていました。

それなのに、こっそり合宿の手引きを見ると、夏休み開始早々に実施される合宿初日は、あいにく夫が夜勤で朝不在の日。
集合は自転車で10分ちょっとの公園に朝7時。

去年は私も合宿に同行したし、荷物も多いし、自転車置きっ放しもなんだから、二人で頑張ってバスに乗って行ったのですが、娘一人でそれができるとも思えません。

だいたい、それに遅刻しようものなら、多大な迷惑がかかることは目に見えていて、さすがに「今年はサッカーのことは夫に任せていますから」は通用しないことは私にもわかります。

そんなことになったら、余計に面倒くさいしなぁ。


それよりも面倒くさくなって、私の心の扉をこじ開けてきたのは、仲直りの仕方が独特な夫でした。

最初は、プイッとしている私に対して怒っていて、ちゃんと喧嘩している状態が続くのですけれど、徐々に挨拶をし始め、ご飯に誘い、ボディタッチをしてきたかと思えば、マッサージを施したりして、私の拒絶具合を測りながら距離を縮めてくるのです。

その様子があまりにも滑稽で、私もちょっと笑っちゃったり、最後には、こちらの態度もお構いなしに、普通に、本当に普通に話しかけてくるので、拒絶することすら面倒くさくなってしまいまして、長きに渡るストライキを終了せざるを得なくなってしまうのでした。


「ねぇねぇ、ツムギ、お父さんが普通に話しかけてきて面倒くさいんだけど、ツムギはどう思う?」

「え?どっちでもいい。そっちが仲直りしたいならするし、したくないならしないし」

「ツムギの気持ちを聞きたいんだけど?」

父親の助けを借りながら、なんとか素直に話せるようになった娘を見て、とりあえず私も、大人げなく意地を張るのをやめることにしました。


姉のところにプチ家出をしたときに買ってきたまま渡せずにいたお土産を、それぞれに手渡したときのツムギの喜びようと言ったら。

「わぁ、喧嘩していてもお土産買ってくれていたんだね!」

「散々悪口言った後に買ってたから、姉に笑われたわよ」

「こんなにたくさんの洋服!しかも、ツムギが着たことないようなデザインばっかり!」

「そろそろTシャツとパンツ一辺倒のファッションから卒業して欲しいと思っているのよ」

「ケイトとツムギの好みが似てきたね!!」

「似てきたんじゃなくて、ツムギが喜びそうで可愛いものをちゃんと選んでいるのよ」


その日はもう遅いからと寝かせたけれど、昨日は「おかえりなさい」から「おやすみなさい」まで、こんなにベッタリ一緒に過ごしたのは久しぶりだと感じるくらい、夫の帰りが遅かったこともあり、二人の時間を過ごすことができました。

仕事から帰って、玄関に明るく出迎えてくれた娘と、洗濯物を一緒に畳んだり、お好み焼きを作って食べたり。

移動教室の話も、始まったプールの話も、短く切った髪型についてや、夏休みにやりたいこと、自由研究のアイディア、今一番欲しい物、そして、ようやく新しい学校で見つけた好きな男の子の話まで。

次から次へと出てくる話題。

ツムギのマシンガントークは夫が帰ってくるまで、止まることはありませんでした。


これこれ。
私がイメージしていた母娘って、正にこれ!

こういう時間があれば、多少言う事を聞かなくったって、口答えされたって、普通の母娘のように、また何事もなかったように日常生活が送れるのだと思いました。


仲直りをした夜、ツムギは夫と私に、初めて聞く話をふたつ話してくれました。

ひとつは、こちらに引っ越してきたばかりの時は、知らないおばさんと住むの勇気がいるなぁと思っていたという話。

もうひとつは、覚えていないと言っていた三歳の時に三人で行ったマザー牧場の夢を、10回ぐらい見た事があったという話。


娘は娘で、心境の変化がありながら、私と向き合ってくれていたのだと思いました。

こうやって他人同士の私たちは、ちょっとずつちょっとずつ、本物の家族になっていくのですね。

小学校最後の夏休みを目一杯満喫する気満々の娘。

きっと、『THEこども』として過ごす夏は本当に最後になるのでしょう。

間に合ってよかった。

全部やろう!
時間が許す限り、やりたいこと全部やろう!


もう私自身も、たぶん大丈夫なんだろうと思っています。

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