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ポスト資本主義的金融論(仮)

2019年も引き続き資本主義やポスト資本主義について考えていこうと思う。今回はこれからの金融について。

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リーマンショックに触れるまでもなく、現行の資本主義における大きな課題のひとつが市場原理に基づく金融システムにあること、その廃止を唱えなくても、修正を迫られていることには、大きな異論はないのではないか。

そんな中、昨年後半、新しい金融のカタチについての気づきを与えてくれるニュースや文章に出会った。一見、それぞれ全く関係の無いもののように見えるけれど、そこには、これからの金融を考えるとき、文脈として通底するヒントがあるように思う。

1.信用金庫

まず、大きなヒントとなったのはこちらの記事。

記事の中で、城南信用金庫の吉原毅さんは以下のように語っている。

コミュニティ内では、そんな公害はだめでしょうとか、その働き方は非人道的ですよね、といった風に自浄作用が働きます。お金以外の情報も見えますから。人と人の関係の中で、政治的、社会的に解決される。コミュニティの中にもマーケットはありますが、社会の中に経済が組み込まれているんです。そういう意味で、ローカルエコノミーは、暴走しにくいエコノミー。

最後の「暴走しにくいエコノミー」というのが、新しい金融を考える上でポイントとなる概念だと思う。株式会社制を取る銀行は、株主の意向に沿って利益を上げる必要があり、仕組み上”暴走しやすい”。(もちろん”必ず暴走する”ということではない。株式会社制の長い歴史を通じて多くの暴走しないための仕組み、いわゆるガバナンスの仕組みが構築されてきた。前職で僕は、この企業のガバナンス構築支援の仕事をしていた時期があるけれど、完璧な仕組みを作ることは難しい、というか不可能だ。そもそも、そうした仕組みを構築しなければならないという事実それ自体が、企業が暴走しやすい性質を持っていることの証拠でもある。)

一方、協同組合組織である信用金庫には、そのような暴走は起こりにくい。上の引用にあるように、コミュニティによる自浄作用が働くからだ。コミュニティの力が暴走を食い止めるのだ。

2.YELL BANK(BASE)

次にヒントとなったのは、上の記事と同時期に発表された「YELL BANK(エールバンク)」。僕自身も開業当初から使わせてもらっているネットショップ作成サービス「BASE」による金融サービスだ。

このサービスにはとても驚いた。

BASEのネットショップオーナーは、BASEがそのショップのデータから与信を把握し、資金提供を受けることができる。しかも、その支払いはショップでの売上から差し引かれる。つまり、売上が無かった月は支払いも発生しない。信用の少ない個人事業主などにとっては、過去の実績で判断してもらえる点が画期的であると同時にリスクも少ない。

そして、ここで強調したいのは、この仕組みも「暴走しにくいエコノミー」であるという点だ。なぜなら、資金提供をするBASEは、提供先のショップに売上が発生しなければ支払いを受け取ることができない。仕組み上取り立てができない以上、相手を信頼し、むしろ応援することに力を注ぐことになる。極めて暴走しにくい仕組みだ。ここでは、テクノロジーとビッグデータが暴走を食い止めている。

3.イスラム銀行

最後にヒントとなったのは、昨年読んだ『緑の資本論』(中沢新一/ちくま学芸文庫)で学んだイスラム銀行の存在だ。

イスラームは(その原理においては)いっさいの妥協なしに、利子を厳禁している。 (・・・) 貨幣が貨幣を生むことを、これらの規定は禁止している。(・・・)イスラームは利子・利潤の発生を「分子のレベル」でコントロールすることによって、資本主義という黄金の子牛像のまわりで繰り広げられる経済活動が、爆発的な展開に突入するのを、発生の現場で不断の監視を続けることによって、阻もうと試みてきたのだ。(『緑の資本論』P.65-67)

イスラム世界では、イスラム教の教えに従い利子を取ることが禁止されているため、銀行は無利子銀行として営業している。つまり、お金を貸しているということ自体から利益を得ることはできない。では、どうやって利益を出しているのかといえば、銀行と事業者が一緒になって事業を成功させ、そこで生まれた利益を分け合う。(※他にもいくつか利益をあげる仕組みがあるので、興味のある方は調べてみてください)

貸し手と借り手の共同の努力によって、お互いが利益を得ることを目指す。『YELL BANK』とも共通する考え方だ。

お金がお金を生む利子という不労所得は、資本主義の暴走の根源のひとつであり、イスラム世界はそれを拒否している。ここでは、宗教的倫理が暴走を食い止めている

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ここまで3つの金融のカタチを紹介してきた。
これらは全く違う姿をしているけれど、共通しているのは「暴走しにくいエコノミー」であるという点だ。それぞれが暴走を食い止めている力を整理すると以下のようになる。

<何が暴走を食い止めるのか?>
1.信用金庫 → コミュニティの力
2.YELL BANK → テクノロジーとビッグデータ
3.イスラム銀行 → 宗教的倫理

市場原理による金融システムの暴走は、現代資本主義が抱えている大きな困難である。その暴走にはどうにかして対抗しなければならない。そして、実はすでに対抗のためのヒントは多く存在しているのではないか。

今回紹介した3つの金融のカタチは、どれも万能ではないし、それぞれに課題を抱えている。しかし、ここから暴走を止める力を抽出、組み合わせて、新しい金融システムを作り上げることは、ポスト資本主義時代の金融のカタチを作ることにつながるのではないか。

これからも引き続き考えていきたいと思う。

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