#03 デザイナーがクライアントとしてデザインを依頼
みなさん、こんにちは。
株式会社LegalOn Technologiesでコーポレートブランディングを担当している前川と申します。
前回は、入社早々ロゴをリニューアルすることになり、なんとかメンバーと一緒に完成に漕ぎ着けたところまでお伝えしました。今回は、その後のコーポレートサイトのリニューアルに際し、人生初の「自分がクライアントになる」という経験についてまとめた記事になります。
逆の立場
ロゴ制作が一段落したら、次にコーポレートサイトの改修も始めなければいけません。ですが、社内でウェブサイト制作のリソースがなかったため、外注することになりました。
そこで、あることに気が付きます。
外注されたことはあるが外注したことがない……
正確には、アートディレクターとして、所属するデザイン会社から外部のフォトグラファーやイラストレーターに外注することはしばしばありましたが、プロジェクトを丸ごと外注に出すのは初めてだということに気が付きました。
人生初のクライアント体験です。
ということで、まずは良きクリエイティブパートナーとして、一緒にコーポレートサイトを制作していただける制作会社を選定しなければいけません。予算もそこそこかかるので、決め打ちでキミにきめた!というわけにもいかず、社内の人に紹介してもらったり、前職のツテを辿ってみたり、インターネットで調べたりしながら、数社にお声がけさせていただき、コンペ形式にすることにしました。
ただし、コンペ依頼時にはまだ社名変更のことは社外秘だったので、新しいロゴやそれらを使ったキービジュアルをトップにあしらって…みたいなことをお伝えすることができません。本当は提出物に新VIに基づいたトップページのデザインイメージみたいなものを入れたかったのですが、それができない状況だったので、ここは割り切って、弊社にとって良きパートナーとして、このプロジェクトを完遂できるか?という観点に絞って選考させていただくことにしました。
良きパートナーとして
良きパートナーとはなんぞや?という話ですが、今回、このnoteを始めようと思ったきっかけの一つに、自分が考える「受注側と発注側のより良い関係性」を整理したかったというのがあります。自分が今まで受注側として少なからず不満に感じてきたことを、今度は発注側になったことでそれらを改善していきたいという思いがあり、書き始めた……というのが本当のところです。
と、小難しい前提を書いてしまいましたが、要は……
受注側も発注側も立場は対等であるべき!!
ということを言いたかっただけです。
決して、お金を払っている発注側が上でもないし、クリエイティブが出来る受注側が上でもありません。双方が互いに手を取り合い、一つの目標に向かって最善の方法を取ることが大切です。そのプロジェクトがうまくいくかどうかの責任は受注側と発注側で50:50なのです。「いやー、制作会社の対応が悪くて〜」みたいなことを言っていてはいけない!と僕は考えています。
そして、ここでポイントになってくるのが発注側のスタンスです。なぜなら、普通にしていると、人間の感情的にどうしても「お金を払っている方が優位」になってしまうからです。なんだかんだ言っても、制作会社は我々発注側の担当者のことを「お客さま」扱いしてくれます。そこで気を良くして、制作会社側の提案に耳を傾けなくなることで、発注側の担当者の好みが成果物に影響してしまい、本来の目標から逸れてしまいがちになります。
一方で、受注側としては相手あっての商売なので、担当者レベルであろうと、先方が気に入ってくれて最終的にお金を支払ってくれればビジネスとしては成立します。たとえ、本来の目標から少しずれたところで着地したとしても、まあ終わったしお金ももらえたので良しとするか…というように課題がうやむやにされてしまうこともあるような気がします。
原点
おそらく、それで世の中は回っていて、それで良いのだと思います。
しかし、我々は何のためにデザインをし、何のために仕事をしているのでしょうか?
社会に出て数年経ち、仕事にも慣れ、スキルも着々と上がり、それなりに仕事を任され、いつしか自分が仕事を仕切るようになり、気が付くと、なんか良い感じに仕事ができるようになっている自分……
そんな時に思い返してみてほしいことがあります。
あなたはどうしてデザイナーになったのですか?
僕は「デザインという行為が楽しい!」という思いからでした。
人によっては、有名な○○○○さんに憧れて……とか、デザインで世の中を良くしたい!みたいなこともあると思いますが、やはりどんな人でも、思いの核には「デザインが好き」というのがあるのではないでしょうか?
自分の経験上の話で恐縮ですが、デザインが好きで、デザインを楽しんでいる人の方が良い成果をあげている傾向にある気がします。これはデザイナーに限った話ではないかもしれません。どんな仕事においても、同じことが言えると思います。
少し話は逸れましたが、発注側は受注側により良い成果をあげてもらいたいので、発注側は受注側にそうしてもらえるような環境を提供する必要があります。
「良い成果をあげられる環境」とは一体何でしょう?
それは、「決して、どちらか一方が優位ではなく、お互いが各自の責任や立場において、楽しんで仕事ができる環境」です。めちゃくちゃ飛躍した理論かもしれませんが、これがちゃんとしていないと、お互い後で必ずモヤモヤします。
そして、モヤモヤしたということは、成果に納得しきっていないということなので、その仕事は良い仕事だったとは言えないと僕は考えています。
良い仕事をしてもらうために
今回、僕にはクライアントとして、制作会社と協働して最高のコーポレートサイトを期限までに作り上げるミッションがありました。通常であれば、まずは要件をお伝えし、これでなんか良い感じに作ってくださいというオーダーになると思います。しかし、それだけでは、これまで書いてきた「良い仕事をしてもらうための環境」は提供できません。
ということで、今まで自分が受注側だった時にクライアントにして欲しかったことやしてもらってうれしかったことを思い返し、今回クライアントとして実践したことをいくつかピックアップしようと思います。
1. 自分の思いを伝える
まずは、要件以外に、今回のコーポレートサイト改修に際して、どんなウェブサイトにしたいかということをなるべく自分の言葉で言語化してお伝えするようにしました。発注済み段階では、業務委託契約の中で秘密保持契約も結んでいるので、社名変更のこともお伝えし、その他、こちらが知っている情報はなるべく全て正直にお伝えするようにしました。あえて少し冗談まじりで会社の愚痴のようなことを言うことで相手に共感してもらい、同じ目線に立つ……みたいなこともしてみたりしました。
2. 相手の考えを聴く
提案の中で自分が違うと感じたものに対して、なぜそうしたのか?という意図を聞くようにしました。もしかしたら、表現の手段が違っていただけで、根本的な考え方は合っているかもしれないからです。これをただ「なんか違うんで、再考してください」だけだと、意図するものからどんどんかけ離れる可能性がありますし、相手も頭ごなしに案を却下されてはモチベーションが下がります。なので、ここのコミュニケーションはとても大切にしました。
3. 良いところは良いと言う
実際、会社対会社で取引をしていますが、案件進行中は結局人と人との付き合いになると思います。なので、たとえ、上司が「なんか違う」と一蹴したとしても、自分が良いと思ったものは「良いと思う」と言うようにしました。「良い仕事をしてもらうための環境」の一要素として、「気持ち良く仕事ができる環境」があると思います。良いと思ったことはちゃんと良いと褒めることで、現場が良い雰囲気になります。良い雰囲気になると相手も気分が良くなり、より良い結果を出そうという心理状態になりますし、こちらの多少のわがままも受け入れてもらいやすくなります。「返報性の原理」というやつですね。
4. 提案の幅のコントロール
すでにインナーブランディングとして新ロゴマークを展開したキービジュアルも社内で制作していました。ですが、必ずしもそれらにとらわれる必要はないと制作会社にお伝えし、提案に幅が出るようにしました。なぜなら、コーポレートサイトはあくまでアウターブランディングの一環なので、なるべく第一印象で何をやっている会社か(何系の会社か)が分かるようにしたかったからです。
これは、自分がアートディレクターという「アートワークをディレクションする立場」だからこそ強く意識したことですが、自分の思うようにさせようとしすぎず、制作会社にお願いすると決めた以上、あくまで方向性の舵取りはするが、細かい表現の手法については、先方が良いと思って作ったものを信頼するというスタンスを取りました。
5. 手戻りを少なくするための社内調整
人間、一度作ったものを反故にされるのは非常にストレスです。そして、クリエイティブ作業の大半は「修正作業」です。何度も言いますが、「良い仕事をしてもらうための環境」の一要素として、「気持ち良く仕事ができる環境」というのがあり、その環境からストレスはなるべく排除したいものです。ですが、なんでもかんでも受け入れて一切修正依頼をしないわけにもいきません。なので、修正してもらうにも納得して修正してもらう努力は必要ですし、できるだけ理不尽な理由やタイミングで修正が発生しないように社内各所に根回しをする必要があります。
ここまでくると、自分が何屋さんか分からなくなってきますが、これはこれでインハウスデザイナーの仕事の面白みだと前向きに捉えるようにしました(笑)。
ということで、出来上がったコーポレートサイトがこちらです。見た目の部分ではトップのメインビジュアルや背景にWebGLという技術を使ったパーティクル(粒々)表現という提案をしていただき、自分が作った10連ポスターだけでは感じられないテクノロジー感のあるウェブサイトに仕上がりました。
最後に
今回僕がクライアントとして気をつけたことは受発注の関係性においてだけではありません。上司と部下、社内の部署同士や組織づくりにおいても同じことが言えると考えています。決して馴れ合いではなく、お互いが良好な関係性を保つことで、より良い成果を上げられるようになる。
きれいごとに聞こえるかもしれませんが、僕はこれが成功への近道だと考えています。
実は、この案件中に一つ上司に注意されたことがあります。それは「前川さんは、外注を慮(おもんばか)りすぎる。そんなに気を使っていては、目標が達成できないかもしれない。時には厳しくしないと……」というものでした。
ですが、僕はこのやり方が一番良い結果になると信じているし、厳しくするときは厳しくしているつもりだったので、そのようにしている意図を説明し一定の理解を得ました。これも上司部下の関係性であろうと目標を共にした仲間とは対等であるべきという考えからです。
今回、制作会社側の窓口をしていただいた担当者さんは若い方でしたが、今回の進め方はとてもためになったと褒めていただきました。やはり、誰だって褒められると嬉しいもので、僕もこの案件を一緒に完遂することができて良かったなと思えました。
この話について、もしかすると読者のみなさんの中でさまざまご意見があるかもしれませんが、少なくとも、当事者は「気持ち良く仕事ができ、良い成果を上げられた」と感じていますし、僕はデザイナーになりたいと思った当初の思いのまま、素直にデザイン(仕事)を楽しめたので、これからもより良い成果を上げていけるだろうという自信につながっています。