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スポーツアナリティクス/機械学習の論文をどこで発表するか?

この記事は【スポーツアナリティクス/機械学習の研究について、どこで論文が読めるか?】の続編として書きました。そのため導入については前の記事をご覧ください。今回はこの分野で論文をどこに発表するか?について話したいと思います。

私は上図のようなアプローチで主にスポーツアナリティクス/機械学習などの研究をしている大学の教員です(HPはこちら)。
あと、私は最近発表されたSports Analytics Research Platform(SARP)のオーガナイザでもあり(下図)、「スポーツアナリティクスを軸に、学問・競技・立場を超えた知のネットワークを作る」ことを目指して活動しています。
今回のテーマである様々なジャーナル・学会については、このリンクに整理されています。

Sports Analytics Research Platform(SARP)のページです。「スポーツアナリティクスを軸に、学問・競技・立場を超えた知のネットワークを作る」ことを目指して活動しています。ぜひ一度覗いてみてください。https://note.com/jsaa/n/na10abc45b3e6 

この記事では、「これからこの分野で論文を書こうとしている人」だけでなく、「この分野で論文を書く人がどんなことを考えているか」を知りたい人や、「近い分野の研究をしているけど、この分野に興味があって論文をどこに出したら良いかわからない方」についても参考になるような記事になればよいかと思っています。
特に、(狭い意味で)この分野で継続的に論文を出している研究者が世界的にも(もちろん日本でも)非常に限られている印象があるので、もっと研究者が増えることを願っています
まだ混沌としていますが、研究としての課題は数多く残されている、未来がある分野だと思います!

前回、大まかに投稿先は以下の6つに分けられるということを紹介しました。

1. スポーツ科学系のジャーナル論文
2. 情報系のジャーナル論文
3. 上記1,2の両方の話題を含むジャーナル論文
4. スポーツアナリティクス系の国際会議論文
5. 情報系の国際会議論文
6. 情報系の国際会議ワークショップ論文

おそらく、他分野と比べてわかりにくいなという印象を持ったかもしれません。実際その通りで、似たような研究をしている人たちでも、少しの観点の違いで全然違う場所に投稿したりしています(私も投稿先として上記の6つを大まかな基準で研究ごとに選んでいます)。
論文を書くという作業は大変なので、投稿する場所を間違えた、という感じになるのは避けたい、と多くの研究者は思っているのではないかと思います。
私はこれまで色んな場所に投稿して多くの失敗を重ねてきたので(今も試行錯誤中ですが)、それらの経験を共有できればと思います(私の業績についてはこちらをご覧ください)。

前提として、まずなぜ論文を書くか、ということについては、そもそもは新しい科学/工学的な知見を世界中に共有するためということだと思います。
新しい知見であることを示すためには、先行研究(先人の論文)をきちんと理解した上で、他人(査読者)が納得できるような手続きで研究を行う、ということが必要です。
そのため私はきちんと査読がされていれば、発表する場所に関わらずその論文の内容(重要な問題が妥当な方法で解決できているか?)が重要だと考えているのですが、コミュニティ(例:世界のその分野、日本の周辺分野など)で評価されるということを無視しすぎるのも良くないと思っています。
例えば、継続的に研究活動を行うための研究費や研究ポストを獲得するためには、そのコミュニティで評価されるということが重要です。

しかしこのスポーツアナリティクス/機械学習分野の課題は、(簡単にいうと)世界のこの分野で評価されるのは4,6の投稿先なのですが、現状、周辺分野(科学、工学)で評価されるのは4,6以外であるという点です。
そのため私は、研究ごとの内容や、その論文を主に書いた著者の状況、あるいは研究プロジェクトなどのバランスを考えて投稿先を選ぶ(勧める)ようにしています。

次はそれぞれの投稿先について、簡単に特徴を述べてみたいと思います。
具体的なジャーナル・学会名については、SARPのリスト私の業績などを参考にして頂けたらと思います。
上記については、私も探り探りで全てはカバーできておらず、どの選択肢が一番良いかは状況による、という感じになっていますので、変に印象付けないためにも、具体的なジャーナル・学会名はできるだけ避けています。
(ジャーナル名・会議名である程度類推できると思いますが、質問やご指摘などありましたらnoteのコメントやTwitterHPにあるメールなどでご連絡お願いします)

1. スポーツ科学系のジャーナル論文
 私は最初に研究を始めたときに、ここを主戦場にしていました。実験デザインや計測データの正確性が重要視されます(つまり、実際のスポーツの試合の戦術的な分析研究などは敬遠されがちです)。編集者(Editor)との相性が相当大事で、スポーツアナリティクス/機械学習の専門家が現状ほぼ見当たらず、このトピックではかなり苦戦しています(査読に回るのが難しいです)。昔は分野におおらかだったジャーナルでも、どんどん(私たちにとって望ましくない方向に)専門化が進んでいる印象です。私の場合は、上記に合致した研究テーマの場合か、時々探りを入れるために投稿する場合が多いです。

2. 情報系のジャーナル論文
5. 情報系の国際会議論文

 最近は機械学習分野で論文を書くことが多くなってきました。基本的にはトップ国際会議での業績が一番重要、というわかりやすい世界だと思います(その分競争も熾烈です)。
国際会議は締切が厳密で(トップ/メジャーな国際会議だと)採択率をかなり低くするため、査読結果は辛口になりがちですが、ジャーナル論文だと(時間は掛かりますが)コメントは建設的で良い点もあります。
国際会議の中でも、競争が緩めで建設的な雰囲気の学会もあり、そのようなところは学生の初めての英語での発表機会などに勧めたりしています。
いずれにせよ、きちんと論文を書けば1のようにそもそも査読してもらえないということはほぼありません。
私の場合は、スポーツだけでなく、他のデータ領域でも使えそうな方法論を開発した時に投稿先として選びます(私自身がメインの研究では、発想を広げるために、あるいは戦略上の理由から、最近はできるだけここで発表するように心掛けています)。

3. 上記1,2の両方の話題を含むジャーナル論文
一般誌(NatureやScienceなどが有名)とスポーツアナリティクス系の雑誌に分けられます。
私が情報系に分野を変える前は、有名な一般誌に投稿し続け、最終的に採択率が高めなジャーナルに採択されたというパターンが多かったのですが、1のようにそもそも議論させてくれない場合が多く、最近はより建設的な2や5を選択肢とする場合も多いです。
後者は最近投稿し始めたので、経験値は少ないのですが、やはりテーマが合致している場合が多く議論が建設的になるため、学生の投稿先の選択肢として選ぶことが多いです。

4. スポーツアナリティクス系の国際会議論文
6. 情報系の国際会議ワークショップ論文

 上記や前回の記事で書いたように、世界の(狭い)分野としては一番熱く最先端で、今活躍する研究者とも知り合いになれる可能性が高く、競争率も高いのですが、認知度が低くアカデミアとしての業績になりにくいというのが唯一の残念な点です。これは私のような研究者が世に発信して認知度を高めていき、徐々に解決していくのを期待するしかなさそうです(そのため前回の記事でも強調しました)。現状では、研究業績に余裕のある場合に挑戦するのが良いかもしれません。私のいる研究室でも、ようやく色々と準備が整い、挑戦できるようになってきました。

以上の特徴は現時点の私の感想に過ぎず、過去の10年でそれぞれ状況が変わってきた印象もあるので、今後も大きく変わっていく可能性は十分あるかと思います。
この分野で論文を書く人がどんなことを考えているかを知りたい方」や、「これからこの分野で論文を書こうとしている方」にとっては、細かい情報に思えるかもしれませんが、どの投稿先を目標に設定するかで、参考にする論文も変わってきますので、重要な話かなと思います。
(一般的な論文の書き方などの助言については、それほど他の分野と変わらないはずなので、他の書籍や記事などを参考にして頂けたらと思います)
あと初めて投稿する時に気をつけないといけないのは、フェイクやハゲタカと呼ばれるジャーナルや国際会議に投稿しないことです(似た名前のフェイクジャーナル・会議も存在するので、初めて投稿するときは、入念に調べたり知り合いに確認するなど気をつけてください)。

近い分野の研究をしているけど、この分野に興味があって論文をどこに出したら良いかわからない方」にとっては、少しは参考になる情報を提供できたかもしれません。
私の印象にはなりますが、現状は(狭い意味での)この分野の研究者の数は非常に少ないですが、近い周辺分野の研究者の数はかなり多いと感じています。
そのような研究者の(あるいは興味がある)方々が、この分野に参入して頂き、一緒に盛り上げていけると非常に嬉しく思います
繰り返しになりますが、現状は混沌としていますが、研究としての課題は数多く残されている、未来がある分野だと思います!
質問やご助言などありましたらコメントやTwitterHPにあるメールなどでご連絡お願いします。


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