見出し画像

スポーツアナリティクス/機械学習の論文はどこで読めるか?

この記事は【スポーツアナリティクス Advent Calendar 2022】の23日目の投稿として書きました。

執筆者は藤井慶輔です。現在は名古屋大学の教員として、スポーツなどの複雑な運動を対象とした機械学習などの情報技術について研究しています(初めましての方は、こちらをご覧ください)。

私たちの研究のアプローチを表す図。業績はスポーツ以外も含まれます。

現在は自分が所属する研究室の学生らと研究活動を行っている中で、どこで関連する論文が発表されているか?どこで発表するか?という話をよく行います。たまに学外の方にも聞かれるのですが、少し事情が複雑なので、この機会にこの場で共有しておこうと思います。
あと、私は最近発表されたSports Analytics Research Platform(SARP)のオーガナイザでもあり(下図)、今回の話題は重要だと思うのですが、広く(浅くても)知っている方が経験的に非常に少ないような気がしますので、知りたい方のお役に少しでも立てられたらと思います。
記事のタイトル(どこで読めるか?)の答えとしては、SARPのこのリンクから読める、というのが答えですが、せっかくなので一次情報(論文)がどういうところにあるか、ということについて話したいと思います。

Sports Analytics Research Platform(SARP)のページです。「スポーツアナリティクスを軸に、学問・競技・立場を超えた知のネットワークを作る」ことを目指して活動しています。ぜひ一度覗いてみてください。https://note.com/jsaa/n/na10abc45b3e6 

前提として、スポーツアナリティクス/機械学習の研究領域は、私が知っている他の研究領域(共同研究経験のある機械学習や神経科学、動物行動学、認知科学、自動運転分野など)と異なり、少し事情が複雑で、とてもわかりにくくなっています。
神経科学や動物行動学のコミュニティならある程度共通の「トップジャーナル」が知られていますし、機械学習や人工知能分野では「トップ/メジャーな国際会議」というのが存在します。
スポーツアナリティクス分野では、強いていえばMIT Sloan Sports Analytics Conferenceがトップ会議かなと思いますが、選ばれている研究にはかなりバイアスがあるような印象があります(詳しくは後ほど述べます)。


MIT Sloan Sports Analytics Conferenceのページ。次回は3月3,4日に開催される。

この記事では、スポーツ研究の中でも、私の興味がある、スポーツのゲーム中(制限・制約の無い状況)のデータ・情報を用いた、現場への応用を目的としたスポーツアナリティクスや機械学習に関する研究についての話として、読んで頂けたらと思います(少し目的が違っても応用は出来るかと思います)。
まずは、論文を「書く」人より「読む」人の方が圧倒的に多いと思いますので、「読む」方から先に話をしたいと思います(論文を書く人のための記事に関しては別途投稿したいと思います)。

非常にざっくりとまとめると、

1. スポーツ科学系のジャーナル論文
2. 情報系のジャーナル論文
3. 上記1,2の両方の話題を含むジャーナル論文
4. スポーツアナリティクス系の国際会議論文
5. 情報系の国際会議論文
6. 情報系の国際会議ワークショップ論文

の6種類になるかと思います。具体的なジャーナル・会議名はSARPのページにあるのでご覧になって頂けたらと思います。
スポーツ科学の国際会議は、論文を発表する形になっていなく、抄録を提出して会議で情報交換するだけのものが多いので、情報を探す時には不向きであることが多いです。
問題は、色んなところに論文が散らばっている点と、特にどれが一番見ておいた方がよいかは目的による、としか言えない点にあるかと思います。
全部定期的にチェックするのは不可能なので、目的を持ってGoogle Scholarでまず調べるのが良いと思います。
特に1-3のジャーナルについては、(私も含め)なんでそんな雑誌に投稿する/掲載されるの?と一見思われる場合が多くあり、詳しくは次回書きたいと思いますが、ジャーナル単位で探すのは一般的には効率性の観点からあまりおすすめしません(1-3の区別についても次回書きたいと思います。読者の都合というより、論文を書く研究者の都合になっている場合が多いです)。
2,3,5,6ならarXivに投稿される場合も多いので、arXivで探してみるというのもたまに行っています。
arXivは査読前の論文を投稿できるプラットフォームですが、いち早く情報を入手できるので、投稿から掲載まで1年以上掛かる場合も多いジャーナルよりも、arXivをチェックしているという研究者も多いと思います(ただ質は保証されませんのでご注意ください)。
5は非常に数が多いので(大きな会議だと1つの会議で2000本くらいある場合もあります。例えばNeurIPS 2022)、キーワードで検索する場合が多いです。

最新の動向を探してみるなら、国際会議の方が情報が早いことが多いので、4,6は大体会議ごとにチェックしています。4,6について、いくつかおすすめのものがありますが、3つほど紹介したいと思います。

(i) MIT Sloan Sports Analytics Conference (MIT SSAC)
日本でも取り上げられることの多い有名な学会です(2022年で16回目)。インパクト重視で、読むだけなら良いのですが、参考にして論文を書く側からすると記述が不十分だったり少し不満を感じることがあります。あとこれまで、メジャースポーツ・トップチームの分析重視で、そんなデータ持ってないよという印象だったのですが、MIT SSAC 2023(今回)はResearch paper competitionの説明に、"require all papers to be open-source."と明記されていて民主化の流れを感じており、多くの人が参考にできるのではないかと期待しています。

MIT SSAC 2022の1つの論文。SARPではこのように紹介されています。
画像を押せば論文に飛べます。

(ii) Machine Learning and Data Mining for Sports Analytics (MLSA) :
機械学習とデータマイニングの主要な国際会議(ECML-PKDD)で開催される、スポーツアナリティクスと機械学習のワークショップです(2022年で9回目)。ワークショップというのは、競争的な本会議(ここではECML-PKDD)に併設されて、特定の研究トピック(ここではスポーツアナリティクス)に関して開かれる会議のことを指します。ECML-PKDD自体が機械学習の主要な国際会議だからか、投稿数もそれなりに多く(公表されていませんが)競争的で、論文としても本会議のようにきちんと書かれていることが多い印象です。私たちも2021年に挑戦してダメでしたが、2022年は無事採択され発表を行ってきました(2022年修士を卒業した寺西真聖さんが主著の研究です)。

MLSA 2022に採択された、サッカーの軌道予測に基づくオフボール選手のプレー評価に関する論文の、SARPでの紹介イメージ。画像リンクの一番下に、この論文があります。
日本語スライドはこちら。https://speakerdeck.com/keisuke198619/26 
コードも一部、論文・スライド中のリンクで公開しています。

(iii) International Workshop on Computer Vision in Sports (CVsports):
コンピュータビジョンのトップ会議(CVPR)で開催される、スポーツにおけるコンピュータビジョンのワークショップです(2022年で8回目)。今後のスポーツアナリティクスに画像認識技術は重要になっていくと思いますので、個人的にも最近力を入れている領域です。CVPRが画像処理のトップ会議なので、こちらも競争的でレベルが高いと思います。2022年は、筑波大のスコットアトムさんと内田郁真さんが筆頭の論文が採択され、発表が行われました。

CVsports 2022に採択された、サッカーにおける魚眼カメラとドローンカメラの映像データセットと追跡アルゴリズムに関する論文の、SARPでの紹介イメージ。
画像リンクの一番下から2番目に、この論文があります。
データセットとコードも公開しています。https://atomscott.github.io/SoccerTrack/ 

スポーツアナリティクスに興味がある人は多いと思いますが、最先端の議論がどこで行われているかについてはあまり知られていないと思いますので、参考になればと思います。
次回は、論文を書く、投稿する人のための記事について書いてみたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?