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【本要約】失敗の本質

本記事は『失敗の本質』(ダイヤモンド社)の要約・解説の記事です。本書は、大東亜戦争の敗戦から日本的組織の問題点を研究。現代にも通じる日本組織の欠点や破綻する組織の特徴を学ぶことができます。コロナのような有事に組織が機能しないことが露呈した今、改めて失敗する組織の傾向を理解しておくことが重要です。


いま、本書を読むべき理由

大東亜戦争における諸作戦の失敗を、組織としての日本軍の失敗ととらえ直し、これを現代の組織にとっての教訓、あるいは反面教師として活用することが、本書の最も大きなねらいである。(P23)

本書は、大東亜戦争(≒太平洋戦争)を題材に、戦争の敗退を決定づけた主要な戦いにフォーカスを当て、その際、どのような戦略的失敗があったのか、戦略立案、実行する組織にどのような欠陥があったのかを帰納的なアプローチで分析することで解き明かします。

本書では、失敗の本質について、幾つか要因を挙げているのですが、これが戦争という特殊な状態だけの話ではなく、現代にも適用できるのが本書のポイントです。

刊行は1984年ですが、残念ながら指摘されている部分を教訓として活かせた組織は少なく、その結果が「失われた30年」に代表される日本の停滞です。そして、現在もその兆候は見られ、まさにコロナによって露呈しています。

本記事の想定読者としては、組織の管理職層、特に自社に危機感を感じている中堅管理職に向けて書いています。本書で挙げられている「失敗の本質」を所属する企業や個人に当てはめながら読んでみてください。

有事の際に機能しない組織

平時において、不確実性が相対的に低く安定した状況のもとでは、日本軍の組織はほぼ有効に機能していた、とみなされよう。
しかし、危機、すなわち不確実性が高く不安定かつ流動的な状況で日本軍は、大東亜戦争のいくつかの失敗作戦に見られるように、有効に機能しえず、さまざまな組織的欠陥を露呈した。(P25)

旧日本軍は、世界的にみても非常に優秀な組織だったと言われています。しかしながら、それは平時の際で、戦争など変化の激しい有事の際は非常に脆い組織だったことが分かっています。

翻って現代の日本でも、コロナ禍での政府や自治体の対応からは旧日本軍に見た有事での脆さが見えます。これは政府や自治体に限らず、多くの企業で有事対応に弱いことが浮き彫りになったのではないかと思います。

後ほど失敗する組織の特徴を列挙しますが、コロナ発生時に「トップが明確な方針を打ち出さない」「中長期の視点が抜けた短絡的な議論」「事なかれ主義でやり過ごそうとする空気」などを自社に感じたのであれば、危険なサインです。

日本軍の失敗と米軍との比較

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この表は、日本軍と米軍を戦略観点、組織観点から比較した表です。この2国間の戦略的、組織的な差は、特に有事に決定的な違いを生みます。

ここで重要なのは、なぜこのような組織、戦略になってしまうのか、両者を分つものは何かという根本的な部分を理解することです。

どうやら以下がキーワードになりそうです。

・過去の成功体験に対し、過度に適応しすぎる
・自己認識の甘さと学習棄却の放棄
・情緒的な判断と「空気」

それぞれ簡単に解説します。

失敗の本質①:過去の成功体験に対し、過度に適応しすぎる

進化論では、次のようなことが指摘されている。恐竜がなぜ絶滅したかの説明の一つに、恐竜は中生代のマツ、スギ、ソテツなどの裸子植物を食べるために帰納的にも形態的にも徹底的に適応したが、適応しすぎて特殊化し、ちょっとした気候、水陸の分布、食物の最適応できなかった、というのがある。つまり、「適応は適応能力を締め出す」のである。(P349)

日本の失敗の一つは、変わりゆく時代に適応できなかったことが挙げられています。言い方を変えると、過去の成功事例に過度に適応しすぎた結果、新しい時代に適応することが難しかったといえます。

本書で紹介されている日本軍の例を挙げます。
日本軍の戦い方は、陸軍は白兵戦至上主義、海軍は艦隊決戦主義でした。これは過去の戦い(日露戦争など)での成功をもとに定められた戦い方です。「これで勝ってきたんだから、ここの精度を高めていけば勝てる」というのが当時の日本軍の考え方でした。しかし、時代は絶えず移り変わります。陸軍は白兵戦より戦車に、海軍では巨大戦艦から航空主兵への転換が行われていました。

日本はこの時代の流れに適応できず、結果、艦隊決戦主義の象徴たる「大和」はその役目を何一つ果たすことなく、沈没しました。

翻って、現代に置き換えると、この話は「イノベーションのジレンマ」であると言えます。

「イノベーションのジレンマ」とは、一度イノベーションを起こし成功した会社が、そのイノベーションに固執することにより、時代の変化に対応できず、破滅するというものです。わかりやすい例がカメラメーカーのコダックで、デジタルカメラというイノベーションを起こしましたが、スマートフォンの登場により倒産にまで追い込まれています。

「イノベーションのジレンマ」とは、まさにイノベーションという過去の成功に適応しすぎた結果だと思います。所属する組織のビジネスモデルがずっと変わっていない、過度に現状のビジネスモデルに効率化を進めている場合、このアンチパターンに嵌っている可能性があります。

回避策としては、組織内にゲリラ部隊的な遊軍を持つことだと言われています。イノベーションのジレンマでは、外部からの破壊的イノベーションにより組織が崩壊することを示唆しています。これを外部ではなく、内部から意図的に起こすことが一つの回避策になります。

具体的には、社内の新規事業に投資を行う、M&Aを行うなどが有効でしょう。海外などの傾向を見るにうまくいきやすいのはM&Aでスタートアップを人材ごと買収するケースです。代表的な例として、Instagramを買収したFacebook(現:Meta)などがあります。

また、過適合の罠は個人にも言えます。特に、大企業に長年所属していたサラリーマンが40代を過ぎ、市場価値を生み出せない傾向がキャリアにはあります。

回避するためには、キャリアを定期的に棚卸し、意図的に変化を生み出す必要があります。最も具体的かつ選択しやすいのは転職だと思いますが、現在は副業解禁などの流れもあるので、それらを活用してみても良いかもしれません。

また、日々の生活の中でも、Googleの20%ルールのように、自身の中にルーチンワーク以外の行動パターンを意図的に作り出すことが有効だと思います。

失敗の本質②:自己認識の甘さと学習棄却の放棄

学生にとって、問題は絶えず、教科書や教官から与えられるものであって、目的や目標自体を創造したり、変革することはほとんど求められなかったし、また許容もされなかった。(P331)

過去の成功にとらわれすぎのがよくないという話をしました。
ではこれから脱却するために何が必要かというと、正しい自己認識と学習の棄却になります。噛み砕いていうと、「あ、もう自分はイケていないんだ…」という認識と、「これで成功してきたんだ!を捨てる」ということだと思います。

少し話がそれますが、私の好きな将棋棋士の米長永世棋聖がかつてインタビューでこのようなことをお答えになられています。

経験豊富だということが若者に対していちばん自分自身が劣るということをあるとき気がついた。自分自身の頭にカスが溜まっていくのだが、それが愛おしくてたまらないのである。これを超えるために若いものに教えを乞う。

将棋という勝敗が明確な厳しい世界で、この正しい自己認識と学習棄却ができたからこそ米長永世棋聖は長年トッププレイヤーとして活躍されたのだと思います。絶えずこれまでの自身の得意戦型を改め、若手から学ぶ姿勢が、最年長で将棋界最高のタイトルである名人を獲得したことに繋がっていると思います。

本書に話を戻すと、日本軍は組織として「正しい自己認識」と「学習棄却」に失敗しています。自己認識という点では、自己戦力の過大評価及び敵戦力の過小評価があったと言われています。また、戦争勃発時の上官の多くは、これまでの戦争での戦果を評価された人間です。組織として若返りやローテーションを行う機能がなく、硬直化してしまい、結果として古いやり方を捨てることができませんでした。

現代に置き換えましょう。
危惧すべきはここ数年で上場している企業だと思います。上場している企業というのは何かしらの成功体験があるはずです。そして役員の多くはその成功の立役者たちではないでしょうか。そのビジネスモデルが現在も有効なものであれば、それでも問題ありませんが、もし、ビジネスモデル自体が変化を求められている業界で、役員陣の顔ぶれが変わらない場合は危機感を抱くべきでしょう。

回避策としては、「学習棄却」する機能を内包しておくことだと思います。組織として学習棄却を内包した制度として有名なのがサイバーエージェントの「CA8」です。これは2年に1回役員をローテーションするという制度で、積極的に若手を登用することで話題となりました。2018年に廃止されていますが、それはサイバーエージェントがすでに制度に頼らずとも学習棄却できる組織になったからであって、制度の有効性は高いのではないかと思います。

個人としては、転職や配置転換などを意図的に起こし環境を変えてしまうか、パラレルワークなどが有効ではないかと思います。そこまでドラスティックにできない場合は、まずは独学など、リカレント教育に注力することが必要だと思います。

失敗の本質③:情緒的な判断と「空気」

空気が支配する場所では、あらゆる議論は最後には空気によって決定される。(P284)

ここまで、「過去の成功に縛られていたこと」「自己認識が甘く、過去の知識に縛られていたこと」が失敗の本質であると解説して参りました。

よく勉強されている方なら当たり前のことだと思いますし、日本企業もよく「変革を!」と声高に挙げているトップは多いと思います。
しかし、実態として変革がうまくいった企業は多くありません。みんな大事なことは気づいているはずなのに、実際にはうまくいっていない。なぜでしょうか。

答えは「空気」にあります。
例えば、「大和」の特攻を例にあげましょう。大和が沖縄に出撃する際には、すでに巨大艦艇は時代遅れになり、このままでは出撃しても確実に米軍の飛行艇に沈没させられることは目に見えていたといいます。当時の人がこのことを理解していたかというと、実は理解していました。では、論理的に考えて勝機のない戦いに、なぜ出撃したかと言うと、無駄なものに投資したことの責任を取りたくないという情緒的な判断と、それが許容された「空気」にあります。

社会学者である山本七平氏は、著書である「空気の研究」(文藝春秋)にて、判断基準には以下の2つがあると示しています。

・「論理的」判断基準
・「空気的」判断基準

表面上は「論理的」判断基準を採用しているようで、結局のところほとんどが「空気的」判断基準によって決められていると指摘しています。

「空気的」判断の何が問題かというと、現実の問題から目を逸らしてしまうことです。なぜか空気が盛り上がると、「やれるんじゃないか」と現実の問題から目を逸らしてしまいます。戦艦大和の悲劇的な判断は、今日の日本企業でも多く行われているのではないかと思います。

企業の変革には、多くの向き合いたくない現実があります。変革を行えば、収支が合わない部分が出てきたり、既存の人材が不要になったり、自社のへっぽこっぷりが露呈したりなどです。このことに論理的に向き合うのではなく、「とはいえ、仕方ない・・・」と空気的な判断を下している企業だと永遠に変革は難しいでしょう。

回避策としては、「水を差す外部の意見を意識的に入れる」ことと、「原点に立ち返るようにする」ことです。

空気というのは、村社会のような単一でクローズな環境によく発生します。組織の多様性を保つ、オープンな議論の場を設けることが必要でしょう。また、いい意味で「いや、現実はこうだよ」と水を差してくれる外部の意見を意識的に入れられるような組織体制にしておく必要があると思います。

もう一つは原点に立ち返ることです。これには「空気」によって積み上がったものをリセットする役割があります。会議の後半で「そもそも…」というと、議論の場が一気に凍り付くことがありますが、議論が空気に支配されて間違った方向にいっている時は勇気を出して切り出す必要があります。より大きく企業単位で見れば、ミッションや企業理念に立ち返るということだと思います。変化の激しい世の中だと、世間の意見であれもこれもとなりがちですが、そもそも何のために企業があるのかに立ち返って判断することが必要になります。

まとめ

今回は日本組織についての良書「失敗の本質」を要約・解説しました。

最後に、総括した感想と補足としては【仕組みを考え抜く】ということを挙げさせていただきます。

仕組みを考え抜く

本書を読んで思ったことは、いかに人間が間違えるかということです。失敗の本質はまさに人間の特性にあるのだと思いました。

組織にしても、個人にしても、人間の特性である以上、誰にでも起こるし、逃れられないことを前提にすべきだと思います。「自分は大丈夫、自分の会社は大丈夫」という考えこそ、まさに失敗のパターンでしょう。

では、どのように対応すべきかというと、仕組み作りが重要だと思います。回避策の説明を行ってきましたが、この実行において意思ではなく、仕組みがワークすることが重要です。管理職はこの仕組みを考え抜くことが仕事ではないかと思います。その際に、失敗パターンを知っておくことはすごく役に立つと思うので、管理職の方はぜひ本書を参照ください。

今回の記事は以上になります。
ご一読いただき、ありがとうございました。

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