「歴史データ×経済学」の可能性(経セミ2022年2・3月号 付録)
このnoteでは、『経済セミナー』2022年2・3月号の特集「『歴史データ×経済学』の可能性」の巻頭鼎談:
の中で、トークの題材となったトピックの関連情報や、その背後にある研究、参考文献や資料、補足情報などをリンク付きで紹介しつつ、ちょっとだけ本号特集の内容を覗いてみたいと思います!
コンピュータの性能向上や、テキストや画像認識技術の発達などなど、技術進歩とともに、歴史的な史料の活用可能性に改めて注目が集まっています。こうした進展は、史料を批判的に精読・精査して過去の事実を紡いでいく歴史研究はもちろん、史料の情報を数量的に扱えるようなデータセットとして構築し、因果関係を説明するための経済学の実証研究の可能性も広げてくれるものです。
歴史的なデータを活用した実証研究の方法と具体例を紹介したものとして、以下のような書籍も2021年に出版されています!
そこで、本号の特集では「『歴史データ×経済学』の可能性」と題して、経済史を研究するための多様なアプローチや考え方を紹介しつつ、鼎談登壇者、ご執筆者の先生方ご自身の研究・分析なども交えて解説します。
巻頭に配置した鼎談「経済史のすすめ」では、岡崎哲二先生(東京大学)、小島庸平先生(東京大学)、山﨑潤一先生(神戸大学)の三名にお集まりいただき、主に日本経済史に関するさまざまなテーマや史料、具体的な研究例などもご紹介いただきつつ、ご自身たちが「経済史」という分野にどう向き合ってきたか、どうやって史料をみつけ、どのように読み解いていくか、さらには経済史という分野の現在の動向と今後の展望などについて、じっくりとディスカッションいただきました。
鼎談記事は、以下のような構成になっています!
以下では、大まかに当日のディスカッションの流れに沿って、各ポイントで紹介された参考文献や資料、背景情報などをまとめる形で、本誌の記事をフォローアップしていきます。ぜひ、本誌とあわせてご覧ください!
ちなみに、小島庸平先生は2021年にご著書『サラ金の歴史』でサントリー学芸賞を受賞されました!(なお、2020年にはご著書『大恐慌期における日本農村社会の再編成』で日経・経済図書文化賞も受賞)
以下のような気軽に読める関連記事も複数公開されているので、まだの方はぜひチェックしてみてください!
■「経済史」という分野にどう向き合ってきたか?
鼎談の冒頭では、まず三名のバックグラウンドと、現在関心を持って取り組んでいる研究についてご紹介いただきました。
岡崎先生には、現在進めている研究プロジェクトを大きく次の2つ、「イノベーションと企業成長」「技術変化と賃金・所得分配」についてご紹介いただきました。本特集の中でも、前者のプロジェクトに関連する研究から2つの紹介記事を、共同研究者である大山睦先生(一橋大学)、中島賢太郎先生(一橋大学)にご寄稿いただいています:
後者に関連する研究としては、以下が紹介されています。
小島先生は、戦前日本の農村史をテーマに、1930年頃の大恐慌期における「救農政策」の歴史的な意義などについて検討されています。また近年は、戦後も含めた日本の消費者金融についても研究されています。
山﨑先生は、実はご専門は開発経済学なのですが、日本も昔は途上国であり、その中で日本経済の歴史的なデータを活用した研究にも取り組まれています。江戸時代の大名や、明治時代の鉄道敷設の影響に関する、以下の3つの研究をご紹介いただきました。
自己紹介の次は、三名がどのように経済史研究にこれまで取り組んできたのかを語りつつ、最近の動向についてもご紹介いただいています! その中で、経済学の実証研究における「信頼性革命」の影響についても語られています。これと関連する2021年ノーベル経済学賞についての詳しい解説は、以下の川口大司先生の記事をご覧ください(経セミnoteにて、無料で公開中)。
■ 歴史学としての経済史、経済学としての経済史
次の話題は、「経済史」への多様なアプローチ、研究スタイルについてです。経済史を研究する学問として、ここでは特に「歴史学」と「経済学」のアプローチに焦点を当て、それぞれの目的や位置づけ、両者の違いや関係について、詳しく議論しています。
たとえば、経済史の主な日本のジャーナルと国際ジャーナルとして以下が挙げられていますが、
双方のジャーナルに掲載される論文でとられているアプローチや分析の(傾向的な)違いや特徴を解説したうえで、そのような違いがなぜ生じているのか、両者には親和性や補完性があることはもちろん、歴史学的な視点から見て、経済学の理論・計量分析に基づく歴史解釈への懸念などなど、幅広く議論しています。ここでは、以下のような研究例にも触れつつ、このテーマのディスカッションを深めています。
■ いかに史料と出会い、向き合うか
次のテーマは、「どのように史料を発見し、読み解いていくか」です。ここでは三名それぞれの視点やご経験に基づいて、具体例も交えながら史料との向き合い方について語り、議論していきます。
小島先生が研究対象である長野県飯田市の研究所を訪れて史料を発見するお話や自治体の文書館の先進的事例、岡崎先生が本郷の古書店で偶然史料をみつけたエピソード、山﨑先生たちが有名な江戸幕府の史料(『柳営補任』『寛政重修諸家譜』)の電子化を進めているお話などなど、印象深い議論が続きます。
その中では、現代の技術のもとで従来から使われてきた史料を再活用していくことが新たな発見につながるといったお話や、見慣れた資料をパラパラ見ていたときに改めて重要な発見をして、それが後にAmerican Economic Reviewに掲載される論文につながったという事例、さらには史料・文書の管理における日本の課題・問題点などについても議論されています。
ここで紹介された文献や資料は以下の通りです。
■ 史料・データの管理体制に問題あり?
この節では、前の議論で指摘された問題点の中で、(国際的に比較して)日本の史料管理に携わる国立公文書館のスタッフの数の少なさなどのお話から、日本の史料やデータ管理体制における問題点についてディスカッションされています。この問題は、何も歴史的な資料やデータに限らず、現代の政府統計や行政記録の管理と活用にもつながる問題だということで、いろいろな点が議論されています。
■ 経済史・非経済史研究者間の交流と協働
次は少しトピックを変えて、経済史の専門家と、経済史以外の分野の専門家が共同で経済史をテーマとした研究に挑むことの重要性や新たな可能性について、ここでもやはり三名のご経験に根差して、具体的にお話をいただきつつディスカッションを深めていきます。
山﨑先生が日本経済史を扱いつつ単著で英語の論文を執筆されたときのご苦労なども詳しくご紹介いただいています。また、小島先生、岡崎先生の実際の共同研究の事例や、実際に共同研究まではしなくても、日常的な交流・意見交換などを通じて得られたことなどもお話いただきつつ、分野を超えた協働について議論します。その難しさや、共同研究を成功へ導くポイントについても語られています!
■ 今後の展望とメッセージ
鼎談の最後のテーマとして、三名の先生方からそれぞれの視点で、「経済史」という分野の今後の可能性についてコメントをいただいています。
今後ますます、歴史的なデータを用いた分析は盛んになっていくだろうという見通しや、経済史の中で「ジェンダーの視点」がより重要となるだろうという展望、加えて史料の電子化が進んで活用可能性がどんどん広がることで、新しい研究も可能になるだろうといった話題をご提供いただいています。
また、「そろそろ戦後も経済史の範疇に入ってくるのではないか」ということで、戦後史の研究の重要性を指摘する一方、ここで立ちはだかってくるであろう壁についても検討を深め、さらなる研究を進めるうえでの課題を明確にすべく、議論をしています。日本の戦後史を対象とした研究として、ここでは以下のものが言及されました。
そして最後に、読者の皆様に向けて経済史の魅力と可能性を、それぞれに語っていただきました!
また、歴史学・経済学双方のアプローチを俯瞰するための入門書・教科書として、以下の書籍をご紹介いただきました。
■おわりに
以上、やや長くなってしまいましたが、『経済セミナー』2022年2・3月号の特集・鼎談で議論された内容をざっくりと追いつつ、そこで紹介された情報をまとめてご紹介しました。
本号の特集は、以下のようなラインナップでお送りしています。鼎談で議論された内容をさらに突っ込んで、歴史学的なアプローチと経済学的なアプローチの経済史研究の違いや関係性などを整理する記事や、ご自身の研究+関連するトピックをわかりやすくご紹介いただく記事など、非常に面白い内容の論考が並んでいます!
なお、公文譲先生には、The Economic History Associationの2019年アレクサンダー・ガーシェンクロン賞(Alexander Gerschenkron Prize)の受賞を記念したインタビュー記事を、弊誌2020年2・3月号に掲載させていただきました(同賞はThe Economic History Associationが、その年に提出された北米以外の地域を対象とする経済史、歴史分野の最も優れた博士論文に対して贈るものです)。現在は、インタビューのロングバージョンを以下で公開中です。
本誌の特集を1つのきっかけとして、経済史というトピックに関心をお寄せいただければ大変うれしく思います。
サポートに限らず、どんなリアクションでも大変ありがたく思います。リクエスト等々もぜひお送りいただけたら幸いです。本誌とあわあせて、今後もコンテンツ充実に努めて参りますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。