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経済学をどう学ぶ?~『経済学を味わう』より~

こんにちは、経セミ編集部です。2度目の投稿です。最初の投稿は、最近の刊行物をざざっとご紹介しました(リンク)。

今回の投稿では、新学期にちなんで、「経済学ってどうやって学んでいけばいいの?」という疑問に少しでもお応えすべく、『経済学を味わう:東大1、2年生に大人気の授業』で紹介されている書籍やウェブサイトなどを抜粋してご紹介します。

なお、本書の「はしがき」は以下で公開中です!

もちろん、ここで紹介されているもの以外にも良い本やウェブサイトはたくさんあるので、それらも別の投稿で随時ご紹介していきたいと思います。

■どう学び始める?

さて、本書『経済学を味わう』の「あとがき」は、以下のトピックで構成されています。「あとがき」という割には、8ページも割いて、読者の皆さまを経済学の沼に誘うべく、編者の先生方(市村英彦先生、岡崎哲二先生、佐藤泰裕先生、松井彰彦先生)がじっくり語っています。

1 経済学がキャリアを広げる
2 どのように学び始めればよいか
3 専門的な学習に向けて
4 博士課程への進学のために

まず、本書の「あとがき」では、定番であるマンキュー先生『入門経済学』で経済学全体の基本的な内容について道筋をつけたうえで(ちなみにマンキュー先生はブログが有名です)、

本書の各章末コーナー「次のステップに向けて」で紹介されているさまざまな文献やウェブサイトに、興味がわいたところから目を通してみることをオススメしています。

以下、この投稿では、経済学の基礎(「コア科目」と呼ばれたりします)に当たる部分 = ミクロ、マクロ、計量 を中心に少しだけご紹介します(各章では以下に挙げた以外にも、もっと詳細なガイドが掲載されています)。

たとえば、

【ミクロ、ゲーム理論】
ゲーム理論なら第1章(松井彰彦先生)で、梶井厚志先生戦略的思考の技術』、松井彰彦先生高校生からのゲーム理論』といった新書や、お二人による共著『ミクロ経済学 戦略的アプローチ』などのテキストを紹介しています。


【マクロ】
マクロ経済学なら第3章(楡井誠先生)で、ティモシー・テイラー先生マクロ経済学の入門書や(なお、ティモシー・テイラー先生は、アメリカ経済学会が発行する、最先端の議論を教育現場に届けるためにノンテクニカルに解説する専門雑誌Journal of Economic Perspectivesの創刊時からのマネジング・エディターも務められています)、宮尾龍蔵先生『コアテキスト マクロ経済学(第2版)』

北尾早霧砂川武貴山田知明先生による経セミ連載『定量的マクロ経済学と数値計算』(以下のリンクは、同連載のサポートサイトです)などを紹介しています。


【実証・計量】
実証分析、計量経済学なら第4章(山口慎太郎先生)、第5章(市村英彦先生)で、中室牧子津川友介先生による『「原因と結果」の経済学』や、岩波データサイエンスVol.3『因果推論』に加えて、

ウィスコンシン大学マディソン校のハンセン先生(Bruce E. Hansen)が公開している大学院修士課程向けの本格的な計量経済学のテキストを紹介しています。

上記はごくごく一部で、各章ではさまざまな文献が紹介されています。入門向けからちょっと(?)歯ごたえのある本格的な文献まで、各トピックごとに揃っていますので、きっと参考にしていただけると思います。

【論文・研究紹介のコーナー】
教科書などの他にも、第4章(山口先生)では、東京大学政策評価研究教育センター(CREPE)が公開している研究紹介コーナーも紹介しています。CREPEに関連する先生方の最先端の研究論文の内容を、インタビューに基づいてまとめまとめた記事が公開されています。

また、第6章(古沢泰治先生)では、Centre for Economic Policy Research (CEPR) というイギリスの研究機関が運営している「Vox EU」という政策ポータルサイトも紹介されています。これは、最近では、新型コロナウィルスのさまざまな影響を経済学の視点から考察した記事などもたくさんアップロードされています。英語ですが、短くて読みやすい記事も多いので、英語の練習も兼ねてぜひ!


■学部上級から修士課程に向けて

学部で本格的に経済学を学び始めるにあたっては、「あとがき」でもう少し体系的なザ・教科書も紹介しています。

【ミクロ】
ミクロ経済学を本格的に学ぶにあたって、本書の「あとがき」で紹介されているのは、神取道宏先生の『ミクロ経済学の力』と、奥野正寛先生による編著『ミクロ経済学』です。どちらも東大の講義が元になって生まれた一冊で、すでに有名な本です。

【マクロ】
マクロ経済学では、二神孝一先生堀敬一先生による『マクロ経済学』と、齊藤誠岩本康志太田聰一柴田章久先生4名の共著『マクロ経済学』です(どちらも同じタイトルですが…、以下のリンクは言及した順番です)。どちらかというと、前者は理論を中心とした丁寧な解説が魅力で、後者はGDP統計などの経済統計の仕組みとマクロ経済学の繋がりから、幅広いトピックスとデータを合わせて解説されています。いずれも、修士課程進学を視野に入れた勉強を進める際の定番書となっているのではないでしょうか。

【計量】
計量経済学は、以下の3冊が入門書と体系書として紹介されています。まず以下の本は、最初に計量経済学を学ぶ人向けの一冊です。田中隆一先生という、教育経済学、応用計量経済学の専門家が、「習うより慣れろ」という感じで、基本的な回帰分析の扱い方と留意点、さらには「差の差推定」などの因果推論の基本的なトピックㇲを解説します。同書内では「Stata」という統計ソフトが使われていますが、ウェブ資料として「R」「Gretl」に準拠した分析用資料も公開されています。

以下の本は、ストック先生ワトソン先生という二人の有名な経済学者が書いた海外の定番テキストの(第2版の)翻訳書です。かなりの分量ですが、確率・統計から懇切丁寧な解説と分析事例が満載です。線形代数などのおさらい付録も付いています。なお、原著の第3版に準拠して、「R」という統計ソフトで実践するためのテキストがウェブで公開されています(リンク

逆に以下は、国産の定番書。西山慶彦先生奥井亮先生という計量理論の専門家と、川口大司先生という労働経済学で実証ミクロ経済学の専門家、新谷元嗣先生というマクロ経済学の専門家による共著で、幅広いトピックと丁寧な解説・サポートは海外のテキストにも引けを取らない一冊です。

【経済数学】
学部の専門課程から修士課程を視野に入れた学習でどうしても避けられないのが数学。本書の「あとがき」でも、学生さんの多くが「もっと早くやっておけばよかった」と口にする、と述べられています(笑)。

豊富な例題と丁寧かつ直観的な解説で、一から経済数学をスタートアップできる一冊が、尾山大輔安田洋祐先生の編著経済学で出る数学(略して、経出る)』です。

『経出る』よりも上のレベルで、経済数学を体系的に学べるのが、岡田章先生の『経済学・経営学のための数学』。ロングセラーで信頼の一冊です。

以下は、石井惠一先生による、例題を豊富に盛り込んだ線形代数の体系的なテキストです。線形代数は初めてやるときはなかなか慣れなくて頭がこんがらがりますが(中の人だけ?)、手を動かして何度も間違えてはやり直すうちにだんだん慣れてくるかなと…。

以下は北海道大学大学院理学研究院の黒田紘敏先生が公開している『微積分学入門』というテキストです。

以下は、ホーエル先生著の有名な確率・統計の入門書です。

以下は、東京大学経済学部の久保川達也先生が執筆された、数理統計の本格的なテキストです(統計検定1級「統計数理」をカバーできる程度のレベル・内容とのこと)。久保川先生のウェブサイトに同書の補足情報があります。


■博士課程で学ぶために

「あとがき」では、このあと「博士課程への進学のために」という括りで、海外の留学を視野に入れた方々に向けた学習の目安と案内も提供しています。本書で経済学を知った方にはとても高いハードルに見えて、「こんなの無理ゲーじゃん……」と思わざるをえないような内容かもしれません。でも、大丈夫。上記までの内容をきちんと学び終えた頃には、きっとどっぷり経済学沼にはまっていて、さらに、ご自身のキャリアの目的に照らしてもっと勉強してみようと思われる方々にとっては、いつの間にか手の届きそうだなと思えるようになっている、、、かも??

また、このレベル以上で経済学を学ぶ際に必要となるものとして本書の「あとがき」で強調しているのが、なんといっても英語。でも英語ができれば、専門論文にも果敢にアタックできるし、海外の大学・大学院で使われている講義資料や講義ビデオなんかも利用できるようになります。たとえば、線形代数や微積分のテキストでおなじみのストラング先生の授業はMITのオープンコースウェアで閲覧できますし、テキストもダウンロードできます(詳しくは本書「あとがき」でご案内しています)。

また、経済学の理論・実証を色々な場面に実装するためのツールとして、「プログラミング」の学習も強く推薦されています(今なら、特にPythonがオススメとのこと)。プログラミングや英語については今回の投稿ではご紹介できなかったので、またの機会に!

数学・英語、それとプログラミングは経済学を学び伝えるための言語、表現方法という位置づけで紹介されています。操れる言語が増えると、コミュニケーションできる対象がぐっと広がり、可能性も無限に広がるとのことです。

ついつい長々と書いてしまいましたが、続きはぜひ、本書をお手に取ってご覧ください!!

なお、本書の「はしがき」は、以下のリンク先で公開中です。本書が生まれた経緯や、ねらい、構成とセールスポイントなどがまとまっています!




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