見出し画像

「ナッジ」のトリセツ:経セミ6・7月号

『経済セミナー』2020年6・7月号(通巻714号)の制作も、徐々に佳境となってきました。今年はいつもと違うゴールデンウィークになってしまいますが、皆さまはいかがお過ごしでしょうか。

今号は、私たち編集部でも(といっても二人ですが…)、在宅勤務中心でいつもとは違うフローで準備を進めています。慣れてきたりこなかったりの毎日です。

でも、家で過ごす快適な方法や商品のお知らせがたくさん届いたり、テレビも懐かしの再放送など面白いものがたくさんやってますし、もちろんゲームもいろいろ出ているし、楽しく過ごしています(太らないように気を付けねば)。毎日のお料理もなんだかんだ楽しいので、そのうちオススメのレシピでも投稿しようかな…。まあ、もともと引きこもりですしね。もちろん在宅勤務が快適になるグッズも揃えています。最近は、トラックボールがイチオシですね!

というわけで、今回は、特集のラインナップをご紹介します。テーマは「ナッジ」で、冒頭の鼎談と5本の記事で構成しています。いずれの記事でも、ナッジをどのように活用するか、ナッジはどのように有効なのか、その限界や留意点はどこにあるのか、といった点を、たくさんの事例を交えて解説しています。

■【追記2020年7月11日】経セミe-book発売中!

本特集のみをバインドしたe-bookが、『経済セミナーe-book no.21 ナッジで社会は変わるのか』として発売中です!(定価500円です) ぜひご利用ください!

■鼎談:竹内幹×星野崇宏×山根承子

まずは、竹内幹先生、星野崇宏先生、山根承子先生の3人による鼎談です。「ナッジ」とは、人々の行動経済学的な特性をふまえて、人々が「望ましい」行動を自発的にとるようにそっとひと押しするもので、行動変容を促すコミュニケーションの仕組みです。鼎談では、それが経済学や、星野先生のご専門であるマーケティングの視点からどのように位置づけられるか? 企業や政策担当者からどのような期待と注目を集めているのか? といった疑問にお答えいただくところから始まり、それぞれの視点からじっくりと議論しました。

細かい内容はまた別の機会にご紹介するとして、特に印象深かったのは、ナッジを活かすためには、現場の担当者のデータ分析や(行動)経済学に対する理解も大事、というお話が出たことでした。

竹内先生のご紹介は以下でするとして、星野先生は、統計学やマーケティング・サイエンスがご専門で、以下の1つ目の書籍はルービン流の因果推論のテキストとして有名です。2つ目は、マーケティングでデータをどう使うかを体系的にまとめた本です。履歴データなどの企業の業務データを「集まるデータ」、市場調査などで収集するデータを「集めるデータ」として、それぞれの特徴と、それに適したさまざまな分析手法を解説しています。

山根先生は、『今日から使える行動経済学』という入門書を出版されています(山根承子+黒川博文+佐々木周作+髙阪勇毅著)。本書の7ページから「通りすがりの行動経済学者」として山根承子先生ご自身もマンガで登場します!(紹介は最後の文献紹介でもう一度)

(追記4/27)なお、竹内先生には前号(2020年4・5月号掲載)では巻頭インタビュー「この人を訪ねて」のコーナーにもご登場頂いています。政策現場で注目されるナッジについて、経産省ナッジユニットにも参加される竹内先生に語っていただきました(後日、ロング版も【こちら】で掲載予定です)。


■経済学としてのナッジ

続いて、竹内幹先生に、ナッジを経済学の中に位置づけて、全体を俯瞰する記事をご執筆頂きました。タイトルは「経済学としてのナッジ」。ナッジとは何か、現在のように普及するようになったきっかけや実際の取り組み(英米のナッジユニットなど)の紹介に始まり、経済学でいうところの「望ましい意思決定」の観点からナッジをどう位置づけられるのかを、規範的な側面から議論します。最後にナッジの悪用可能性についても触れています。

竹内先生は、他にも行動経済学や実験経済学に関連する記事を公開されています。たとえば以下のような記事。以下のサイトにまとまっていますので、ぜひご覧ください!

・「『となりの人は石鹸で手を洗っていますか?』 新型コロナウイルス対策にも。手洗いを促す行動経済学とナッジ
・「行動経済学『ナッジ』は政策を変えるのか?
などなど。

■マーケティングに活かす

西尾チヅル先生には、マーケティングにおけるさまざまなナッジをご紹介いただきました。タイトルは「マーケティングに活きるナッジ」特に、セールスプロモーションや価格戦略における具体的な応用と、その背後にある考え方を詳しくお話いただいています。

また、企業にも求められる環境配慮型プロダクトの普及など、社会問題に貢献するための活動でもナッジが活用されていることなどをご紹介頂きます。ポイントは顧客の消費スタイルやライフスタイルに働きかけるという点です。それにより、環境負荷の低い新製品の導入をオススメする取り組みが紹介されています。西尾先生のご専門の1つは環境マーケティング。マーケティングの幅広い射程も感じて頂けるのではないかと思います。

■予防医療や健康維持に活かす

佐々木周作先生には、医療・健康の分野で活用されるナッジを解説いただいています。中でも「社会比較ナッジ」に着目した内容となっています。タイトルは、「『他の人は〇〇しています』:医療・健康分野の社会比較ナッジの使い方」なのですが、社会比較ナッジとはそのタイトルの通り、他人の行動や社会の雰囲気に自分の行動が影響されてしまうというクセに着目したナッジです。予防医療や健康の維持、そして現在問題になっている「感染拡大防止」に威力を発揮するナッジの事例を紹介いただくとともに、社会比較ナッジで人々の行動に介入することの是非についても議論します。最後の点は、非常に重要な内容だと思いました。

なお、佐々木先生は政府や自治体等の取り組みにも積極的に参加されており、この分野の入門的な内容を非常にわかりやすく紹介するビデオ「政策現場のための行動経済学入門」をyoutubeに公開しています(前編=バイアス/後編=ナッジ)。きっと参考になりますので、ぜひご覧ください!

■ナッジで職場が強くなる?

黒川博文先生には、職場やチームの運営に人々の行動経済学的なクセを考慮した仕組みを設計することで、より効率的で強い組織を作るための方法を解説いただきました。タイトルは「職場を活かすナッジ」。特に、報酬の仕組みの作り方、構成員の努力の引き出し方、そして、人々の先送り行動に配慮したコミットメントの仕組みの作り方などを具体的に紹介頂きます。また、それぞれでナッジを使うことの留意点についても詳しくお話いただいています。

なお、黒川先生はご自身のホームページ内に「行動経済学の本棚」というコーナーを設けて、その名の通り、行動経済学に関する本や、有益なウェブサイトや資料などを紹介しています。経セミを読んだあとに参考になるものがたくさん紹介されているので、ぜひご覧ください!

【黒川先生「行動経済学の本棚」(以下は構成)】
 1.行動経済学になじむ
 2.行動経済学をつかむ
 3.行動経済学を新書で学ぶ
 4.ノーベル経済学賞受賞者を深く知る
 5.行動経済学を教科書・ハンドブック等で学ぶ
 6.行動経済学の応用とトピックを深く学ぶ
 番外編:動画(TED)で学ぶ行動経済学

■環境への意識も高める?

牛房義明先生には、「環境政策に活きるナッジ」という記事で、私たちにとっても身近なごみ問題から、温暖化のような地球規模の環境問題までが対象になる環境政策の中で、どのようにナッジが活かされているかをご紹介頂きました。

特に、宮城県南三陸町における家庭の生ゴミ分別を徹底してもらうための取り組みにナッジを活用した事例、および大阪府で行われた省エネを意識した行動変容に関する実証実験の事例などを詳しく解説いただきます。

■ほかに、行動経済学を学ぶには??

行動経済学やナッジを学ぶには? と言われてまずオススメしたいのは、大竹文雄先生の『行動経済学の使い方』です。基本的なアイデアから応用例まで、コンパクトながらもたくさんの話題が詰まっていて面白いです。巻末には、応用例等の背景にある研究論文も、解説付きでまとめられています。

また、経セミで連載中の室岡健志先生が執筆された「ナッジ:公共分野における適用可能性および留意点」(『行政&情報システム』2018年2月号)という記事も、非常に参考になると思います(以下、室岡先生のホームページで公開中です)。

さらに、ナッジが広まるきっかけになったともいえるのが以下の、リチャード・セイラー(行動経済学に関する業績で単独でノーベル経済学賞を受賞!)とキャス・サンスティーン(こちらはハーバード・ロースクールの法学者。幅広い分野で著作があり、邦訳書も多数)による以下の本。ナッジの税制その他公共政策への応用などもたくさん含まれているのはもちろん、「リバタリアン・パターナリズム」という造語に基づいて規範的な部分も詳しく議論されています。

こちらは、上記のサンスティーンによる本。ナッジの有効性を世界中の国々で調査して検証した結果を中心にまとめられています。「ナッジ(Nudge)を用いることを検討している担当者、そしてナッジに警戒心をもっている人々の必読書」(大阪大学大学院経済学研究科 大竹文雄氏[解説]より)。ちなみに、調査が行われた国は、日本、アメリカ、アイルランド、イギリス、イタリア、オーストラリア、カナダ、韓国、中国、デンマーク、ドイツ、ハンガリー、ブラジル、フランス、ベルギー、南アフリカ、メキシコ、ロシア、とのこと。すごいっすね。

行動経済学のもっと色々なトピックが知りたい! でも難しいのは嫌!という場合には、冒頭でもご紹介した、山根承子+黒川博文+佐々木周作+髙阪勇毅『今日から使える行動経済学』がオススメです。お気づきだと思いますが、本書の著者4名のうち3名に、今回の特集にご登場頂いてしまいました。

この本では、職場、マーケティング、セルフコントロール、投資と、4つのパートで本当にやさしく、しかも漫画付きで行動経済学アイデアを解説してくれます。

もちろん、経セミで連載中の室岡健志先生「行動経済学:人の心理を組み入れた理論」もオススメしたいです。こちらは、ミクロ経済学を一通り学んだことのある方を対象に、「伝統的な経済理論を土台に、その拡張として人の心理的な要素を組み込んだ理論」として、行動経済学を体系的にまとめていこう、という目的で始まった連載です。

第1回はイントロで、現在はじっくりと異時点間の選択をめぐる理論と応用・実証例を解説中です(以下は、本連載のサポートサイト)。連載は現在のところ全12回を予定しています。後続もどうぞご期待ください!


この記事が参加している募集

推薦図書

サポートに限らず、どんなリアクションでも大変ありがたく思います。リクエスト等々もぜひお送りいただけたら幸いです。本誌とあわあせて、今後もコンテンツ充実に努めて参りますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。