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経済実験のフロンティアに迫る!:経済セミナー2023年12月・24年1月号特集、参考情報の紹介

『経済セミナー』2023年12月・24年1月号の特集は、「経済実験のフロンティア」です!

今回は、実験経済学の過去・現在・未来を徹底的に語りつくした巻頭鼎談と、経済学における実験をどのように研究・教育に活かせばよいかを実践的に解説する5本の記事で構成しています。

今回の特集ラインナップは以下の通りです:

https://www.nippyo.co.jp/shop/magazine/9168.html

この note では、そんな経済実験にフォーカスした本特集の内容と、参考情報をご紹介していきたいと思います。
参考情報はリンク付きでご案内していますので、本誌とともにぜひご活用ください。


■ 経済実験の現在・過去・未来に迫る:鼎談

巻頭は、大阪大学の花木伸行先生、京都大学の三谷羊平先生、京都大学の依田高典先生による鼎談「経済学における『実験』の可能性」です。

実験経済学といえば、2002年にノーベル経済学賞を受賞したヴァーノン・スミス(Vernon L. Smith)、2019年にフィールド実験への貢献でノーベル経済学賞を受賞したバナジー(Abhijit V. Banerjee)、デュフロ(Esther Duflo)、クレーマー(Michael R. Kremer)などの研究者が特に有名です。

現在は、現実社会の実地=フィールドで、オンラインで、あるいは実験室でと、さまざまな場所で、多様なツールを活用して経済実験が行われています。被験者を無作為にグループ分けして、介入の因果効果を測るための方法としても注目され、研究にとどまらず政策やビジネスの施策の効果を検証するという実践面でも注目されています。

鼎談では、経済学で実験研究がどのように生まれ、何をきっかけに主要な研究方法の1つとして確立され、普及・発展し、今後はどんな方向に進んでいくのか。以下のような流れで詳細な解説を交えてディスカッションいただきました。実験は、データを生成するための手法の1つと位置づけ、どうすれば適切な実験が行えるのかなど、方法論の観点からも詳しい解説が盛り込まれています。

鼎談のラインナップ

実験室実験」(ラボ実験)、「フィールド実験」に加えて、アンケート調査を活用して実験を行う「サーベイ実験」の3つに着目して、それぞれの実験の特徴や進め方、研究の最前線ではどんな実験が行われているか等々、詳しい解説をいただいています。

また、特に最近盛んに行われている「オンライン」環境での実験についても詳しく紹介します。オンラインで行われる(バーチャルな)実験室実験や、クラウド上で参加者を集めて行われる実験、オンラインアンケートを活用した実験など、さまざまな事例が紹介されます。

オンライン実験が今日のように普及するようになったきっかけとして、以下のツールが紹介されています。これら2つについては、続く記事でも詳しく紹介しています。

oTree:オンライン実験のためのプラットフォーム

Qualtrics:サーベイをオンラインで実施できるプラットフォーム

また、実験の方法論についても詳しく紹介しています。たとえば、ヴァーノン・スミスが提唱し、実験における統制を考えるうえで必須の理論として確立されている「価値誘発理論(induced value theory)」についても、統制の際に重要になる5つの条件:(1) 非飽和性、(2) 感応性、(3) 優越性、(4) 情報の秘匿、(5) 類似性なども交えて丁寧に紹介していきます。

さらに、実験研究をまとめる際に気を付けるべきポイント「SANS」について紹介しています。Sは「Selection of Sample」、Aは「Attrition」、Nは「Naturalness」、最後のSは「Scaling the finding」です。本誌ではそれぞれについて、以下の文献に基づいて解説を行っています。

List, J. A. (forthcoming) A Course in Experimental Economics, University of Chicago Press

書籍はまだ出版されていませんが、以下のスライド【リンク】では内容の概要が紹介されれているので、気になる方はぜひチェックしてみてください!

https://s3.amazonaws.com/fieldexperiments-papers2/papers/00755.pdf

フィールド実験は、その特徴に応じて「人工的フィールド実験(Artificial Field Experiment:AFE)」、「枠組み型フィールド実験(Framed Field
Experiment:FFE)」、「自然型フィールド実験(Natural Field Experiment:NFE)」の3つに分類されます。この分類を挙げて、以下の文献に基づいてそれぞれのタイプの実験の特徴について解説しています。

Harrison, G. W. and List, J. A. (2004) “Field Experiments,” Journal of Economic Literature, 42 (4): 1009-1055.

https://www.aeaweb.org/articles?id=10.1257/0022051043004577

実験の規模を大きくしていっても同様の結果が成り立つか否かは、研究の「外的妥当性」の観点からも重視されています。「スケールアップ」と呼ばれるこうした問題のサーベイとしては、以下の2点が挙げられています。いずれも「ナッジ」研究にフォーカスが充てられています。

DellaVigna, S. and Linos, E. (2022) “RCTs to Scale: Comprehensive Evidence from Two Nudge Units,” Econometrica, 90(1): 81-116.
三谷羊平(2023)「ナッジ研究の動向と課題──環境資源経済学を中心に
『環境経済・政策研究』16(1): 18-29。

フィールド実験についても、さまざまな具体例とともに、そのメリット・デメリットや、最近のホットトピックや将来に向けた展望について、さまざまな角度からディスカッションをしています。

その中では、依田先生たちが行ってきた、電力のダイナミック・プライシングの社会的効果をスマートメーターのデータを活用して測定したフィールド実験研究も詳しく紹介されています。以下の書籍で、依田先生たちの一連の研究が、その方法論から詳しく解説されていてオススメです。

依田高典・田中誠・伊藤公一朗(2017)『スマートグリッド・エコノミクス──フィールド実験・行動経済学・ビッグデータが拓くエビデンス政策』有斐閣

https://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641165052

また、実験やアンケート調査の基礎的な方向から、因果推論と機械学習を活用した最新の分析事例までを紹介した以下の本も、本特集に関連する内容をさらに深掘りするうえでとても参考になります。

依田高典(2023)『データサイエンスの経済学──調査・実験、因果推論・機械学習が拓く行動経済学』岩波書店

https://www.iwanami.co.jp/book/b633348.html

鼎談の最後には、経済実験を通じた学習・教育は、理論を実感を持って学ぶために非常に有効ではないかということで、その可能性についても議論されています。直近では、本特集にもご参加・ご執筆いただいた、花木先生・島田先生による以下のテキストが発売になります!

花木伸行・島田夏美(2023)『実験から始める経済学の第一歩』有斐閣

https://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641151178

以上、ざっと鼎談の流れや、そこで紹介されている資料・文献の一部をご紹介しました。実験経済学の流れや意義、最新の動向や方法論・ツールまで、いつもより多めのボリュームで非常に丁寧に紹介しているので、ぜひご活用いただけたら嬉しいです。

続いて、5本の寄稿記事についてもご紹介します。

■ オンライン実験の進め方:oTreeによる実践

まずは、立命館大学の竹内あい先生にご執筆いただいた、「オンライン実験の進め方:oTreeによる実践」です。

ここではまず、「オンライン実験とは何か?」「通常のラボ実験と比べてどんな特徴があるのか?」を詳しく解説します。

そして、オンライン実験を実際に実施するための手順や、オンライン実験を実施する際に利用できるプラットフォームの1つである「oTree」について、詳しく解説を行います。

鼎談で紹介されたオンライン実験の特徴・実施方法・ツールをさらに深掘りし、詳しく解説するような位置づけになっていますので、ぜひあわせてご覧いただければと思います。本稿では、以下のようなツールが紹介されています。

oTreeと、その日本語ドキュメンテーション

oTree Hub

oTree Hub

Heroku

■ オンライン・サーベイ実験の進め方:実践方法とツール

続いて、大阪大学の下平勇太先生には、鼎談でも紹介している、調査(サーベイ)形式で行う実験、サーベイ実験の魅力や進め方、実施のためのツールなどを詳しく紹介いただきました。

実施のためのツールとして、簡単なものでGoogleフォームも紹介されていますが、より本格的なツールとして、「Qualtrics CoreXM」を挙げて、詳しく解説を行っています。

また、上記のツールを使わずに、自らプログラミングを行ってウェブページを開発し、クラウドサービスを通じて公開して実験を行うような進め方の例も紹介されるとともに、それを支えるツールについても紹介しています。

  • プログラミングを支援するJavaScriptライブラリ

その他、「他者との相互作用がある行動実験」として公共財ゲーム実験独裁者ゲーム実験の実施例、質問紙調査による選好測定の例なども紹介しています。

なお、「サーベイ実験」は、2022年10・11月号の特集「いま、政治の問題を考える」の中で、関西学院大学の善教将大先生に「サーベイ実験で読み解く民意と投票行動」と題して、政治学で人々の「ホンネ」や投票選択のメカニズムを探るために開発され、近年用いられるようになってきた「サーベイ実験」におけるさまざまな手法とその特徴を、実際の研究事例とともに解説いただきました。こちらもぜひ!

■ ラボからフィールドへ:実験による行動開発経済学の進展

3本目の記事は、一橋大学の會田剛史先生が、開発経済学におけるフィールド実験研究の発展を解説しています。タイトルは、「ラボからフィールドへ:実験による行動開発経済学の進展」。

この「ラボからフィールドへ」というのは、ラボ実験で標準化されて、妥当性が担保された実験手法を実地(フィールド)で行うような実験のことで、「フィールドラボ実験(Lab-in-the-Field Experiment)」と呼ばれています。この実験については、以下のハンドブックに収められた解説論文が、体系的・包括的な解説を提供しています。

Gneezy, U., & Imas, A. (2017). Lab in the field: Measuring preferences in the wild. In Handbook of economic field experiments (Vol. 1, pp. 439-464). North-Holland.

取り上げているトピックは、選好の計測と比較、現実の社会経済行動の規定要因としての選好、選好の内生化、貧困と選好の相互依存関係などです。

■ 経済学における実験・調査のベストプラクティス

4本目の記事は、大阪大学の北村周平先生に、「再現性の危機」をふまえて、近年注目されている透明かつ再現可能な実験・調査を行うための方法をご紹介いただきました。主に取り上げるのは、「事前登録」と「Pre-Analysis Plan(PAP)」の2つです。

再現性を扱った2022年6・7月の特集(経済学と再現性問題でも話題になったものですが、本稿ではより具体的に、これらの取り組みを解説いただいています。

「なぜ研究の透明性を高めることが必要なのか」から説き起こし、これらの取り組みの意義とエッセンスを紹介していきます。その中では、以下のような情報源を参考に、それぞれを解説していきます。

AEA RCT Registry(主な事前登録先)

AER: Submission Guidelines(アメリカ経済学会の論文投稿ガイドライン)

Pre-Analysis Plan(PAP)の作成で参考になる情報(本誌記事ではこれらをふまえた簡潔な解説をいただいています)

多重比較補正の様々な方法について(世界銀行ブログ):

また、以下の北村先生のホームページ内にアップされている、以下の2つの資料もぜひご参照ください!

■ 経済実験を通じた教育の実践

5本目、最後の特集記事は、信州大学の舛田武仁先生と島田夏美先生にご自身たちの経験もふまえておまとめいただいた、「経済実験を通じた教育の実践」です。

実験への参加は、学んだ理論の意味を肌で感じられる重要な体験となりえるものです。さらに、実験の計画・実施、論文を書くための分析に取り組むことで、チームでの協働、プロジェクト管理、プログラミング、実証分析など、さまざまなスキルを身に付ける機会も得られます。舛田・島田先生の記事では、こうしたスタンスから、教育現場で実験を活用するための工夫をご紹介いただきました。

記事では、学生と経済実験の関わり方や、実験者の視点から継続的に実験参加してもらうための環境づくりなどについて解説いただくとともに、修士論文・卒業論文での経済実験実施例もご紹介いただきました。授業を運営される先生方はもちろん、実験に参加してみたいと思っている学生の皆さまにも参考になる情報がまとめられています。

■ おわりに

『経済セミナー』2023年12月・24年1月号の特集「経済実験のフロンティア」の内容と、そこで紹介されている情報源・参考文献をざっと紹介しました。本誌は、経済学における「実験」の最新動向がつかめて、役に立つツールや方法論に関する情報も得られる内容となっています。

コチラ】では簡単に立ち読みもできます。

ぜひお手に取ってご覧いただけたら幸いです!


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