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『鬼滅の刃』人気の一因は女性活躍?『北斗の拳』と比べてみたら、女性の扱いが全然違った


鬼滅の刃、大人気ですね。
私もご多分にもれずドはまり中。

この作品が社会現象になっている一因は女性ファンが多いことかなと私は思います。
少年漫画だけれど女性にも人気が出れば、単純計算でファンは倍になりますよね。

そして女性に人気の理由は、作中で女性キャラクターが活躍しているからではないかと考えています。
その理由をつらつらと書いてみたいと思います。


※若干のネタバレ含みます。

『鬼滅の刃』のあらすじと登場人物

主人公は竈門炭治郎(かまど・たんじろう)という少年。鬼に家族を殺され、唯一生き残った妹の禰󠄀豆子(ねずこ)は鬼にされてしまいます。

↓炭治郎


妹を人間に戻す方法を探すため、鬼殺隊(きさつたい)という鬼退治のプロ集団の仲間入りをして、鬼を倒しつつ妹を元に戻す方法を探すという物語です。

準主役ともいえるのが、我妻善逸(あがつま・ぜんいつ)と、嘴平 伊之助(はしびら いのすけ)。

↓金髪の人が我妻善逸

↓伊之助


『幽遊白書』の、桑原、鞍馬、飛影。
『るろうに剣心』の左之助みたいなもんです。
(わからなければスルーしてください)。

見ての通り、主役と準主役の3人は全員男です。

女性に助けられる男性主人公たち

注目してほしいのが、鬼殺隊のメンバー。
「柱」とよばれるトップクラスの剣士の9人のうち2人が胡蝶しのぶ(こちょう・しのぶ)と甘露寺蜜璃(かんろじ・みつり)という女性です。
企業にたとえるなら、女性役員が2人いるようなもの。
女性比率は22%です。

↓胡蝶しのぶ


↓甘露寺蜜璃

2020年7月の調査で、課長以上の女性管理職の割合が7.8%であることを考えると、22%というのはかなり高い数字です。

しかもこの女性2人は、お飾りではなく相当な実力者。
窮地に立たされた炭治郎たちを守るシーンも出てきます。

甘露寺蜜璃(かんろじ・みつり)が炭治郎たちに守られるシーンもありますが、それはその場にいた剣士の中で蜜璃がいちばん強かったから。
敵を倒せる可能性が高い人を残すため、炭治郎たちが盾になろうとしたのです。


今までの漫画にはあまりない、女性の守られ方ではないでしょうか。

自分を偽らず、強さとかわいらしさを両立する女性像

甘露寺蜜璃(かんろじ・みつり)は髪がピンクで巨乳の色気ムンムンなキャラクターですが、筋力ムキムキでギャル曽根ばりの大食いです。

その派手な外見と異常な食欲のせいで、縁談はことごとくダメになったそう。
そこで蜜璃は男性に選んでもらうべく髪を黒く染めて小食をよそおい、やっと結婚相手を見つけることができました。

でも蜜璃は「これで本当にいいの?」と考え、自分を活かし、自分を必要としてくれる場所を探し鬼殺隊にたどり着きます。

ただし、いちばんの入隊目的は添い遂げる殿方を見つけること。今風に言えば婚活のためです。

自分を偽って男性に選ばれるのを待つのではなく、受け入れてくれる男性を積極的に探しに行く。とはいえガツガツせずに、かわいさと優しさを持っている。

女性らしさを保ちながら自分の手で道を切り開く姿に共感する女性も多いのではないでしょうか。少なくとも私はそうです。

ちなみに蜜璃の身長は167センチと、舞台である大正時代の女性としては高め。
彼女に惚れている伊黒小芭内(いぐろ・おばない)という男性のキャラクターがいるのですが、彼の身長は162センチです。

女性は、小さく、弱く、受け身であるべき。
蜜璃は、そんな価値観をぶっこわしてくれる存在だと感じます。

同期の出世頭が女性


鬼殺隊に入るには最終戦別という、定期的に行われる試験をパスしなければなりません。

新卒一括採用みたいなもんですね。
主人公の炭治郎、準主人公の善逸と伊之助は同期入社のようなイメージです。
ほかにも同期が2人いるのですが、そのうち1人は栗花落カナヲ(つゆり・かなを)という女性。

↓カナヲ

彼女が同期の中でいちばん優秀で、柱である胡蝶しのぶから直々に訓練を受けています。
企業にたとえるなら、同期がドサまわりみたいな営業をさせられている中、彼女だけが本社勤務、みたいな。

一緒に訓練をした炭治郎たちがまったく彼女に歯が立たないシーンも出てきます。

こういうキャラは、最終的には男性キャラに抜かされて守られて胸きゅん的な展開が多い気がするのですが、22巻の時点でそうはなっていません。
最終決戦の最前線でバリバリ戦っています。

ついでに言うと、炭治郎の妹の禰豆子(ねずこ)も強く(なんてったって鬼だし)、戦闘シーンでよく活躍しています。

北斗の拳と比較してみた

令和に大ヒットした鬼滅の刃について語ってきましたが、時間を戻して昭和時代の名作、『北斗の拳』と比べてみたいと思います。

北斗の拳は、1983年(昭和58年)から1988年(昭和63年)まで、鬼殺の刃と同じく少年ジャンプに連載されていました。
アニメ化もされています。

「あたたたたたたたた!」「ひでぶ!」「お前はもう死んでいる」などのセリフや「ゆわっーしゃー!」から始まるインパクトのあるアニメ主題歌はかなり流行りました。

核戦争で荒廃した世紀末を舞台に主人公が悪党に立ち向かうというジャンプお得意のバトルものなのですが、昭和時代の女性観が反映されている箇所があります。

それは、レイという男性キャラクターとマミヤという女性キャラクターのやりとり。
漫画のセリフだけ抜粋しました。

リン(少女のキャラ):マミヤさんの戦う姿って、あまり幸せそうに見えない。マミヤさん、だれか好きな人とか愛している人いないの……
マミヤ:いないわ! わたしはもうそんな感情はなくしたのよ!

(レイと主人公ケンシロウが微妙な表情で聞いている)

マミヤ:そんなことにさく時間はないわ!

(レイがマミヤの前に立ちはだかる)

レイ:おまえが戦うことはない!
マミヤ:なぜ!
レイ:お前は女だ!
マミヤ:女!? フッ……。わたしはとうに女をすてたわ! 今あなたの前に立っているのは女ではない。この村を守るためのただの戦士マミヤよ

さらにひどいのはこの続き。
レイが南斗水鳥拳(かまいたちのように、目に見えない力で物や人を切り刻む技)で、マミヤの服を切り裂くのです!

おっぱいポロン。
(かろうじてパンツだけは無傷)

マミヤは両腕で胸を隠すのですが、レイはこう言います。

レイ:女でなければ胸を隠す必要もない!
マミヤ:は!!
レイ:いいか。女は自分の幸せだけを考えていればいいんだ

セイセイセイ!(レイザーラモンHG風に)
今だったらセクハラ、パワハラ、女性差別のオンパレード。
口で言ってもわからないから、体でわからせようとしたのでしょうか……。

まだまだ続きます。

レイは、真っ赤な血染めのケープ取り出します。
もともとは、レイの妹が結婚式でつけるはずだった白いケープ。ところが妹は悪党にさらわれ、彼女を奪い返す旅の途中で数々の敵と戦い、返り血で赤く染まってしまったのです。
それをマミヤの頭にかぶせ、こう言います。

レイ:女は武装よりもこれがよく似合う。アイリ(妹の名)がつけるはずだったケープだ……。おれが返ってきたら、純白のケープをプレゼントしよう!

ちょ、待てよ。(キムタク風に)
服を切り刻んでほぼ全裸にしたうえに、「俺が結婚してやる」といわんばかりの上から目線。
ほぼレイプ。

このやりとりの根底にある価値観をまとめると、こういうことです。

・女は戦うべきではない
・戦いたければ女をすてなければならない
・戦うような女は恋愛をしてはいけない
・女は結婚するのが幸せである
・戦いは男にまかせて女は自分の幸せを考えていればいい

「戦い」を「仕事」に置き換えると、当時の女性の位置づけがわかります。
・女は仕事をするべきではない
・ずっと仕事を続けるには女をすてなければならない
・仕事をしたい女は恋愛や結婚をあきらめなければならない
・女は結婚するのが幸せである
・仕事は男にまかせて女は家の中で家族の幸せだけを考えていればいい

1980年代は、共働き世帯より専業主婦世帯が多かった時代。
いまだったら差別的ととらえられるレイの振舞いも、問題にならなかったのかもしれません。


「おかしい」「やめて」と言えるだけも進歩している


今の時代、こんな漫画をジャンプに載せたら大炎上でしょう。

とはいえ現在でも、昭和的な価値観で女性を扱うレイみたいな男性がいて、たびたび炎上しています。
でも炎上するということは、「おかしい」「やめろ」と主張する人がたくさんいるということ。それだけでも、時代が変わりつつある証拠ではないでしょうか。

日本のジェンダーギャップ指数は153か国中121位という先進国にあるまじきクズのような状態で、男の老人が国を牛耳り女性差別は根強いけれど、確実に前には進んでいます。
少なくとも、北斗の拳が流行った1980年代よりはマシです。

1980年代に鬼滅の刃があったら、「女が男より強いのはおかしい」「女なのにかわいげがない」と批判されていたかもしれないし、そもそも受け入れられずにヒットしなかったかもしれません。

女性が最前線で男性に守られることなく戦う『鬼滅の刃』が何の違和感もなく受け入れられていること自体、かなりの進歩ではないでしょうか。

女性の生きにくさを嘆くのではなく、変わってきていることを喜び、自分にできることをやっていきたいと思っています。

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