日本にも旧市街が必要だ
欧州にある「旧市街」という概念
欧州の多くの街には、旧市街というものがある。
街の中心部にある、古くからの伝統的街並みだ。
このエリアでは、厳しい規制によって開発が制限されている。
そのおかげで古くからの街並みが今でも残り、その街の顔となっている。
ただ、当然旧市街だけでは現代都市として物足りないので、比較的自由な開発が許された新市街が郊外にできているケースが多い。
例えば、パリが代表的な例だろう。中心部に古くからの情緒ある石造の街並みを残している一方で、郊外に巨大な高層ビル群を構えて一国の首都としての都市機能を保っている。中心部だって開発した方がいいじゃないかと思う人もいるかもしれないけど、やっぱりあの石造のエリアがなければパリがパリでなくなってしまう。
旧市街は、街のアイデンティティのためにある。
何のために旧市街と新市街を分けるの?
重要なのは、『旧市街の価値は、新市街と完全分離することでこそ保たれる』ということだ。当然ながら旧市街には旧市街の価値があって、新市街には新市街の価値があるわけだけど、これを混ぜると双方の価値が失われてしまう。
食べ物に例えると、わかりやすいと思う。
カレーもお寿司もどちらもおいしい食べ物だけど、両者を混ぜて食べる人はいない。
街並みも同じで、新と旧を混ぜるのは、とてもセンスのない街づくりだ。
でも、まるでカレーとお寿司を混ぜたような、カオスな街並みが当然のように広がっている国がある。
そう、日本だ。
僕は京都に住んでいるけれど、景観条例で知られるこの町でさえ例外じゃない。今の京都は、古い町屋の隣に近代的なビルが隣接する、見渡す限りの無秩序だ。京都ですらこんな有様なのだから、他の街はもっとひどい。
日本はこれまで街づくりを完全に誤ってきてしまった。街並みが自分たちのアイデンティティを支えるものだということを忘れてしまっていたと思う。
未来への提案
最後に、日本の未来に向けての曲がりなりに提案をして終わりたい。
今からでも遅くないというと嘘になるかもしれない。ただ、今からでもできることはある。
狭いエリアでもいいから、日本の市町村は、古い街並みを守る地区を設定すべきだ。そのエリアでは、高さ規制やデザイン規制、屋外広告物規制などを徹底し、街区の情緒を守る必要がある。
そして、何よりも大事なのは「伝統的スタイルの建物を新しく増やす」という取り組みだ。日本の伝統的な木造建築は欧州の石造の建物ほど寿命が長くない。だからこそ、同じ街並みを維持するには、建て替えのサイクルの確立が必要だ。
旧市街区域の設定、そして伝統的建造物の建て替えサイクルの確立。
簡単に書いたけど、もちろん簡単なことじゃない。
でも、そうしていかないといけないと思う。
2022.6.28
文章:ティー(京都景観エリアマネージャー)
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