アメリカでのトレーニング第14回 「1年たっても怖いものだらけ」

 海外生活の中で一番困るのは、病院にいかないといけなくなったことだと思う。
 日本に帰ったときに健康診断を受けたら、とんでもない虫歯があることが分かった。歯医者さんからは「通常なら4-5回、毎週通ってもらう必要がある」との診断を受けた。
 「それは無理です。アメリカに住んでるので」というと、「じゃあアメリカの歯医者いくしかないね」とのことだった。
 怖い。アメリカの歯医者怖い。歯医者って日本でも怖いのに。

 生活で困ったときは、まずは語学学校のディレクターMBのところに相談にいく。
 「よし、私も行ってる歯医者に連れて行ってあげる。伝えとくよ」
 恐怖は解消されていないが、治療は受けられることになった。

 受診する前には問診がある。この問診がもう、めっちゃめちゃ大変だった。
あらゆる病気の既往歴を書かないといけないのだが、だいたい問診表に書いてある病気って、日本語でもなんの病気か分からない。英語で聞かれてもさっぱり分からない。どうせ大きな病気はしていない(はず)なので、全部NOにしたけど、それでも1時間かかった。

 翌日、いよいよ歯医者に出陣。とりあえず今日は初診なので、レントゲンを改めて撮ってもらって、費用のこととかを聞いて帰ろうと思っていた。
 ところが。
 「今日治療してしまおう。たいしたことはないから1回で直るよ」
んな訳あるか。1回で直らないって言われたからアメリカの歯医者にきてるんだ。
いよいよ不安が最高潮だが、医者が直るというのだから受けるしかない。

 ドクターはすごく陽気なおじさんだった。さすがはMBの紹介、こちらが留学生というのを理解してくれて、何度聞き返してもゆっくり答えてくれた。
「治療している間ヘッドフォンで音楽を聴いてもいいよ」といわれたがとんでもない。分からないなりにも先生のいうことは耳に入れておきたい。
 治療が始まった。麻酔をされて、徐々に口が麻痺していく。先生は麻酔が効くまで、俺の水泳のレース映像をユーチューブで流してはしゃいでいた。「このレースはどうだっ?」と聞かれても、こっちは麻酔された口で英語を発音しようとしているので、言葉になっていなかった。

 最終的に、1ヶ月かかるといわれた虫歯は、1回の治療で治ったらしい。なぜなのかはよく分からない。虫歯の治療って、消毒に消毒を重ねて、歯の形をとって、そして被せる、みたいなプロセスだと思う。でも、消毒は1回しかしていないし、形も取っていない。でも、今なぜか歯はふさがっている。明らかに簡易的な気がする。
 何はともあれ、俺の虫歯は治ったらしい。良く分からないが、ドクターが直ったというのであれば直ったのだ。2時間で麻酔は切れるといわれたが、なかなか切れなかった。寮生活のつらいところは、ご飯の時間が決まっていること。まだ麻酔が効いているが、無理やり食事をするしかなかった。

 確かに、しばらくは大きな問題なく生活できていたのだが、たまに治療した部分にスプーンとかフォークがあたると傷むことがあった。で、数ヶ月して日本にまた帰ったときに、日本の歯医者にいって、被せ物の種類を代えてもらった。このへんは専門的な話なので、正直よく分からない。でもまあ、病気はしない方がいい。

 3月にあったもう一つ大きな出来事は、われわれが練習拠点にしているLoyola大学で、パラ水泳の試合をすることになった。
 東海岸を中心に、トップ選手からこどもたちまで参加する。アメリカパラ水泳連盟のサイトをみていると、こういう小さな大会がしょっちゅう行われている。日本はまだまだ障碍者のレースは少なく、どうにか健常者の試合に参加させてもらって試合経験をつむしかないのが現状だ。

 ここで久しぶりの再開があった。リオパラリンピック100m平泳ぎ銀メダリスト、Tharon Drake選手。
俺と同じ障害で全盲なので、実はアメリカでのトレーニングを検討していたときに、彼が練習拠点としている場所も候補の一つだった。
 彼の練習場所を見学に行ったときの話は、通訳の新川さんがすでにまとめてくれているので参照していただきたい。
https://note.com/ryo_shinkawa/n/n6160ee892140

 俺が見学に行ったときは、コロラド州の山の上に住んでいたのだが、その後結婚して引っ越していた。どうやらここのところ体調が優れず、十分なトレーニングはできていないらしい。

 滞りなくレースが終わったあと、パラリンピック出場経験のある選手はテーブルにつき、こどもたちにサインをするという時間。選手の写真があらかじめプリントしてあって、それにサインをして配っていく。俺の写真もプリントしておいてくれていた。
 外人の俺って、アメリカのパラキッヅからすればスターでも何でもないので、こっち側に座ってていいのか?と思ったが、皆喜んでくれたのでいいことにした。

 その後、Drakeとその親戚、あとこちらも久しぶりに再会したNickと食事に行った。Nickはこの近所に住んでいて、McKenzieに片思いをしている。
「敬一久しぶりだな。McKenzieがいろいろ悪い英語を教えてるって聞いてるぞ」と言ってきた。
「お前のことはfriend zone(友達に過ぎず恋人にはなりえない存在)だって言ってたぞ」というのは黙っておいた。

 まあなんやかんやあるけど、米国での練習もあっという間に1年が経った。次回からは2年目に入ります。


#パラリンピック #水泳 #アメリカ #トレーニング #留学

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