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筋力・パワートレーニングとサッカーのパワートレーニング

7月のPITTOCK ROOMは「筋肉」がテーマです。

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今回は「筋肉」から連想して、「筋力・パワートレーニング」に関して、基本的な部分の確認から、ピッチレベルでの応用まで書いていきます。


■まず始めに動画で「筋力トレーニングの基礎」

まず始めに、筋力トレーニングの基本を動画で解説します。
基本中の基本なので、知っている人は見なくてもOKなレベルです。

・筋力向上と筋肥大(筋が大きくなる)の違い・筋力向上と神経系の適応・筋力トレーニングによって筋に起こる変化・筋肥大・筋力向上のための負荷設定(教科書的な基本)

の4種の動画(1つ2分ほど)です。


・筋力向上と筋肥大の違い


・筋力向上と神経系の適応


・筋力トレーニングによって筋に起こる変化


・筋肥大・筋力向上のための負荷設定(教科書的な基本)


■筋力とパワーの違いと捉え方

ここまでの動画では「筋力」の向上に関しての基本的な解説でした。

ここでいう筋力は「どれだけの力が発揮できたか」を対象物との関係の中でみています。
多くの場合、持ち上げた重量物の重さや、測定機器に対して発揮した力の大きさが「筋力」として数値評価されます。

バーベルやダンベルなどの重量物の重さがそのまま筋力の評価になることもありますし、環境が整っていれば、床反力の測定やBIODEXなどの機器を使った筋力測定を行うこともできます。

床反力の大きさや変化をグラフで表現↓

床反力の大きさと方向を矢印で表現↓

BIODEXでの筋力(関節トルク)測定↓

発揮した力の大きさは「筋力」として評価されますが、実際のスポーツでは、「短い時間で」大きな力を発揮することが求められます。

そう考えたときに重要なのが「パワー」です。

パワーは

パワー = 力(筋力)× 速度

として考えられます。
つまり、単純な力の大きさだけでなく、速度との関係の中で捉えられるわけです。

「パワー=力×速度」すると、
「パワーは、力も速度も高めればめちゃくちゃ高くなる」
と考えられそうですが、そうもいきません。

「力-速度曲線」と呼ばれる関係性があります。
これは、力と速度は、どちらかが大きくなると、どちらかが小さくなる
という関係性を示したものです。

つまり、どちらも最大値を出すということはできないということです。
100kgのバーベルを持ち上げる時と20kgのバーベルを持ち上げる時では、発揮する力は100kgの方が大きくなりますが、その時の持ち上げる速度は、20kgの時の方が大きくなります。

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実際の動きの中で発揮されているのは、全て「筋力」ではなく「パワー」です。(動きが伴うものであれば基本的には)
その運動が、100kgのスックワットでも、最大速度でのスプリントでもです。

力と速度の関係の中で、下の図から読み取れるように、筋力orパワーというわけではなく、

「力の要因が大きなパワー(速度は小さい)」(例えば高重量スクワット)
「速度の要因が大きなパワー(力は小さい)」(例えばスプリント)

あると考えるのがいいかと思います。

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この辺りは、こちらの2つの僕のブログ記事でより詳しく解説しています(図もこのブログから持ってきたものです)。
RFDという考え方も紹介していますが、これも大切なので、ぜひ読んで見てください。


■一般的パワートレーニングの考え方

パワートレーニングを行う時には、先ほど図やこの記事にあるように、力と速度の関係の中で必要なパワーの負荷設定をしてトレーニングします。

これは、ウェイトトレーニングやプライオメトリクスなど、一般的なパワートレーニングを考える時に必要な考え方です。


しかし、ただ力と速度の関係だけを考えればいいというわけではありません。
よくあるのが、

筋力強化のために100kgのスクワットを5回×3セット行っていたから、パワートレーニングのために、最大パワー(1RMの30〜80%の負荷)でトレーニングしよう。40kgの重さで素早くスクワットだ!

という捉え方です。
これは負荷設定という面では適切かもしれませんが、方法に問題があります。


動画で見てみましょう。

こちらは、ヘックスバーという器具を使ってのスクワットです(ポドルスキ選手)

次に、同じヘックスバーを使ったジャンプスクワットです。

スクワットでは、最終局面で、立位姿勢で終わるために、その前から速度を落としていかなければなりません。
主観的に最大努力で行っていても、実際には加速しているのは最初だけであり、徐々に減速して、最終的に静止してしまいます。
本来最大のパワーを発揮したいタイミングで、速度が低下してしまうのです。

対して、ジャンプスクワットでは、最終的に跳ぶ必要があるため、離地するまで身体重心を加速させ続ける必要があります。

これは、走る、跳ぶ、投げるなど、通常スポーツで行う運動を考えると自然なことです。

筋力だけでなく、パワーの向上には、ジャンプスクワットのように短い時間で大きな力を出すことと同時に、最後まで加速し続けるような運動が必要です。


そういう視点で見てみると、メディシンボール投げや、クリーン・スナッチなどのクイックリフトと呼ばれるバーベルエクササイズがパワーの向上に効果的とされるのがわかるかと思います。


では、ハードルジャンプはパワートレーニングでしょうか?

立ち幅跳びは?

バク転は?


考え方の基準がわかれば、「パワートレーニング=〇〇エクササイズ」という考えではなく、応用が聞くはずです。


■パワートレーニングの定義と目指すパフォーマンス

こちらのイクサポの記事で、パワーを分類しています。

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<基礎パワートレーニング>目的:筋量,筋力,パワーの向上→フリーウェイト,自体重,各種トレーニング機器を用いて高い外的負荷に対して動作を行うトレーニング

 <変換パワートレーニング>
目的:競技に関連した動きを,最大もしくは最大下で発揮する能力の向上
基礎筋力を動きに活用できるように,ジャンプなどの速く爆発的な動きを用いて行うトレーニング.プライオメトリック トレーニングが主に行われる.

<競技パワートレーニング>
目的:強度の高い競技特有の動きでのパワー発揮能力の向上
基礎パワー・変換パワートレーニングで養った能力を,加速・減速,スプリント,方向変換,押し動作などの試合中の動きに還元するようなトレーニング


先ほど、「実際の動き発揮されているのは全てパワーだ」と書きましたが。
上記の定義では、「筋力トレーニング」というものがありません。
「基礎パワー」として、パワーと筋力を分けない定義で考えています。


この記事で、ここまで書いてきたのは、この定義でいう

・基礎パワートレーニング
・変換パワートレーニング

に関してですね。

セルヒオ・ラモス選手は、この動画内では

基礎パワートレーニング→変換パワートレーニング

という順で取り組んでいることになります。


こちらの動画をみてみましょう。

これは、トレーニングコーチの間では有名な(だと勝手に思っています)、旧ソ連のトップレベルの高跳び選手の動画です。

高跳びという競技特性から、目指すべきパフォーマンスは「高く跳ぶこと」です。

動画のトレーニングは競技練習ともパワートレーニングとも捉えられますが、パワートレーニングと捉えても、全てのトレーニングが目的の「跳ぶ」というパフォーマンスを意識していることがわかると思います。

では、サッカー選手のパワートレーニングは、どんなパフォーマンスを目指して行われるのでしょうか。


■パワートレーニングとサッカーのパフォーマンス

筋力トレーニングやパワートレーニングを行なったとしても、それが実際のパフォーマンスを想定していないことや、先ほどの定義でいう「競技パワー」のトレーニングが行われていないことが多いです。


下の動画をみてみます。
アジリティトレーニングとして捉えることもできますし、休息時間やセット数を変えれば持久系トレーニングとしても行えます。

と同時に、減速や方向転換、シュートというパフォーマンスを意識した上での「競技パワートレーニング」と捉えることもできます。
(動画では少し強度(Intensity)が低いかなと思いますが、それは目的設定次第でしょう)


下の動画も、ボディコンタクトというパフォーマンスからみた「競技パワートレーニング」と捉えることもできます。


また、3vs3などのスモールサイドゲームは、多くの場合、持久系のコンディショニングトレーニングと捉えられます。
これも、減速・方向転換・スプリントや、サッカーのアクションが含まれる、より実践的な「サッカーパフォーマンス」を目指した、High-Intensityな「競技パワートレーニング」として捉えルことができます。


パワートレーニングは、筋力トレーニングとともに、競技練習とは切り離されて考えられることが多いです。
「クリーンやメディシンボール投げでパワーの向上!」のようにです。

クリーンやメディシンボール投げを行うこと自体は問題ないですが、そこから繋げる競技パワーのトレーニングが不足していたり、パワートレーニング全体としてどんなパフォーマンスを想定してのトレーニングなのかが曖昧であることが問題です。


「筋力・パワーが向上したのに。パフォーマンスに繋がらない」といった場合

目的となるサッカーのパフォーマンスが設定されていない状態
数値としてのパワーを追い求めてしまっている
競技パワートレーニングが足りていないために実際のパフォーマンスに転化されない

といった可能性が考えらえます。

だからと言って競技パワートレーニングだけでも、長期的な視点では、伸び代が減ってしまうかもしれません。


大切なのは、目的のパフォーマンスをはっきりさせた上で、基礎パワー・転換パワーのトレーニングを行うこと。
そして競技パワートレーニングも積極的に行なっていくことでしょう。


■まとめ

まずは目的となるパフォーマンスを設定すること、そこへ繋げるためにプログラムを組んで行くことが必要になります。

競技パワートレーニングに関しては、コーチとフィジカルコーチが連携することで、戦術的要素も含んだトレーニングにすることも可能です。
むしろその方が絶対にいいです。

そのためにも、コーチの方も、パワートレーニングに関して、必ずしもジムの中で行うだけではないし、逆にジムでのパワートレーニングが不要なわけでもない、ということを知っておく必要があるかと思います。


今回はこれで終わりです。

ありがとうございました!


■執筆者プロフィール

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松本圭介

大学4年間を筑波大学体育専門学群および同大学蹴球部に所属し、選手としてプレーしながら学生トレーナーとしても活動。現在は、理学療法士の養成校に在籍しながら、東京学芸大学蹴球部(関東大学サッカー2部リーグ所属)でトレーナー・フィジカルコーチとして活動中。

・個人ブログ
Sports Training Roomhttp://trainingfor.hatenablog.com

・サッカーコーチ向けフィジカル特化型マガジン
PITTOCK ROOMhttps://note.mu/masaaaa_826/m/mc15d058d53e9

・Twitter: DoKei56

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