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意外と知られていない食肉による環境負荷

現在、Green Innovator Academyの一期生として、代替肉を増やすことで食肉による環境負荷を減らす政策提言を考えている。
※代替肉とは、植物などの素材を肉のように加工したもの。例えば、「大豆ミート」や「プラントベースミート」などがあり、肉よりも環境負荷がかなり低いたんぱく源として注目されている。

プロジェクトを進めていく中で、肉の環境負荷や肉生産の現状が知られてないと痛感したので、noteにまとめておこうと思う。

家畜が食べているもの

家畜が何を食べていて、その飼料はどこで生産されているのか意外と知られていない。
広告やテレビで見る牛たちは広大な草原で放牧されていて、「牛=牧草だけ食べている」というイメージがついている人も多いだろう。

しかし、日本では、牛の放牧をしている農家は12%と少なく、牛の数で考えるとほとんどの家畜は草木も生えない工場で、主に穀物を食べて大量生産されているのが現状だ。豚と鶏に関しては、ほぼ100%が濃厚飼料と呼ばれる穀物類を食べている。
家畜がスーパーに並んでいるようなお肉になるまでにどのくらいの穀物が必要かというと、トウモロコシ換算で牛肉を1kg作るのに穀物を11kg、豚で6kg、鶏で4kg必要だ(トウモロコシはかなり栄養価の高い飼料なので、実際にはもっと必要になる)シンプルに考えて、飼料用穀物を家畜にではなく、食用にできたら少ない穀物生産で済むことは容易に想像できるだろう。

日本の肉生産に使われている飼料穀物は以下の通り。

農林水産省:飼料をめぐる情勢(イラスト版)より

飼料穀物の原料として、トウモロコシが1位(49%)と大豆由来が2位(13%)となっている。トウモロコシはアメリカとブラジルからほぼ100%輸入されている。日本では、トウモロコシはあまり食用とされていないが、世界的に見ても飼料用がかなり多くなっているために、大量生産せざるおえなくなっている。

農林水産政策研究所ホームページ 世界の食料需給の動向と中長期的見通しより

また、大豆に関しても自給率は6%と低く、国産大豆は納豆や豆腐などの食用に使われているため、飼料に使われている大豆のほぼ100%が輸入によって賄われている。

ここで、国内の食用大豆と飼料に使えわれている大豆油粕を重さで比較してみると、

農林水産省:大豆を巡る事情飼料をめぐる情勢より作成

飼料用に使われている大豆の方が圧倒的に多くなっている(これは、世界的に見ても同じで、世界で生産されている大豆のうち73.5%が家畜の飼料となっている)。もちろん、大豆油粕は食用の油を絞ったあとに出た産業廃棄物なので、単純な比較はできない。しかし、大豆よりも油分を多く含んでいる作物は多く、食用の油を大豆に依存する必要はない。

つまり、代替肉の導入が進み、食肉が減ることで、トウモロコシや大豆への依存度は大幅に下がり、「食の安全保障」と「環境負荷低減」につながるのではないだろうか。

「国内」だと肉の環境負荷は低く見える

日本で脱炭素と聞くと「再エネを増やそう!」「電気自動車や水素自動車がこれから普及するかも!」というような声ばかりが聞こえてきそうだ。日本が排出しているCO2は、電力や運搬によるものが多いように見えているからだろう。

World Resources Institute: This Interactive Chart Shows Changes in the World's Top 10 Emittersより作成

しかし、世界的にみると農業からでる温室効果ガス排出量は24%(そのうち、7割は畜産から)とかなり高い。日本人の1人当たりの食肉は、世界平均よりも多いのに、なぜ、日本では2%と低く見積もられているのだろうか。

それは、海外から船で輸送された際に出た温室効果ガスは入っていても、海外で生産されて日本で消費された食料や飼料は考慮されていないことが1つの要因と考えられる。

一例として、アメリカから輸入した牛肉について考えてみよう。

先ほど述べたように、家畜はトウモロコシや大豆を飼料にしていることが多い。これらの穀物類を生産するのに、「南米で」熱帯雨林が伐採されていたり、「アメリカの」地下水が大量に汲み上げられたりしており、環境問題となっている。
また、牛のゲップにはメタンガス(CO2の25倍の温室効果がある)が大量に含まれているため、「アメリカで」飼育されている最中に大量の温室効果ガスが排出されてしまっている。

これらの温室効果ガスや森林伐採によるものは日本が排出していないことになっている。
また、肉の消費量は増えており、牛肉・豚肉・鶏肉の輸入率は牛肉で65%、豚肉で51%、鶏肉で36%となっている。

農林水産省:その4:お肉の自給率より

飼料だけでなく、肉そのものも海外に依存しているため、日本人の肉消費による環境負荷が見えづらくなっている。

本当のCO2排出量

あまり目を向けられたくない情報かもしれないが、日本人の消費による環境負荷を少し紹介しようと思う。

国内だけでなく、輸出入まで考えると「本当のCO2排出量」が少しずつ見えてくる。
以下の図は、日本、ドイツ、スウェーデンは国外からの輸入が多いため、実際には国内の温室効果ガス排出量より、10%~65%排出量が多くなる一方で、インドと中国は、国外へ輸出している製品が多く、0%~20%排出量が少なくなることを示している。

Our World in Data: CO2 emissions embedded in tradeより

つまり、日本を含む先進国は、国外に温室効果ガス排出を押し付けているとも言える。

実際に、2005年から2017年の12年間に、EUは国際貿易によって350万ヘクタールの森林伐採に加担しており、2017年の国際貿易による森林伐採のうち、5%が日本の貿易によるものとされている。

POLOTICO: A by-the-numbers look at how EU appetites drive deforestationより

日本の貿易による森林伐採の内訳をみると、牛肉に関する製品が2位(1万4246ha)であり、日本人の食肉によって「海外の」環境が破壊され、気候変動や環境破壊に「思っている以上に」加担しているとわかっていただけたのではないだろうか。

Stockholm Environment Institute: Tracking the environmental impacts embedded in commodity consumptionより作成

もちろん、自国内で脱炭素化を進めることは大切だ。ただ、海外に温室効果ガス排出を押しつけて、自国の庭先だけが綺麗になっても地球規模の課題である気候変動は解決されない。

地球に住む裕福な1.2億人の地球市民(Global Citizen)として、「本当のCO2排出量」をもとに、国内の政策や個人の行動(Act Locally)を考えていく必要があるのではないだろうか。


その他に参考にしたもの

↑大豆栽培によるアマゾンの森林伐採(1986〜2020)

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