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【連続不定期更新小説】どうして僕らは分けてしまうのだろう ‐オンライン・オフラインを選択する時代-

プロローグ 書類の記入

目の前に一枚の書類がある。椅子に座った俺は、ペンを動かして机の上にあるその書類の記入を進め、必要事項を埋めていく。
IT化が進んだご時世だというのに、重要な書類に限って、紙媒体で提出するものが多いから皮肉なものだ。

記入を進めて、いよいよコース選択欄にたどりつく。
そこには、「オンライン・オフライン」という文字が印刷されている。
性別欄のように、「男・女」のうちどちらかを囲うような形で回答するのが通例だ。

俺は再び書類を見て「オンライン・オフライン」の文字を再度認識する。
俺はどちらの用語にも丸をつけず、2つをとり囲む大きな1つの丸を書いた。

その選択が重要になったのはあの病が流行してからだ

以前ある病気が世界中で流行した。その病は、感染力が非常に強く、移動手段が多様化した世界で大規模に流行した。病気の感染拡大防止のため、人々は移動を抑制しなければならなかった。都市封鎖の命令を出す国も多かった。飲食店やレジャー施設を中心に多くの店舗は、休業せざるを得なかった。

感染者の急激な増減、緩やかな増加と減少を何度か繰りかえした。病に対処できるワクチンが普及すると、やがて病は収束していった。収束した後数年たった時代を、僕らは今生きている。

病気が収束した後、人々は大別すると二種類に分かれた。
①オンライン:自宅からあまり外出せず、リモートワークを実施し、オンラインのコンテンツを楽しむ人々
②オフライン:積極的に職場に顔を出し、居酒屋での飲み会などオフラインを楽しむ人々

感染の危険が大幅に減少した現在だからこそ、オフラインでの他者との接触を存分に楽しみたいという人々と、病気の流行時にオンラインツールを利用することで自宅で問題なく生活できることに気づき、その生活を継続しようと考える人々が出てきたのだ。
オンラインまたはオフラインであるかということは、保守・革新、右派・左派といった区分よりも、人々を分類する基準となった。学校では、生徒は一定の年齢に達すると、オンライン・オフラインのいずれかを選び、それぞれの適性を高めるとされている学習プログラムを学んでいる。このコース選択は文系・理系の選択よりも大きな意味を持っている。

オンラインまたはオフラインどちらを中心に生活するかによって、行動様式は大きく異なる。職業に関しても、オンラインで可能な仕事とオフラインにて対応せざるをえない職種が存在する。
そのため、誰にとってもオンラインとオフラインのどちらのコースを選ぶかが、人生における大きな選択となるようになった。現在その選択は、どの大学を卒業したかということよりも、進路に大きな影響を与えている。さらに就活において、どこ大に行ったか以前に、大学、高校、専門学校いずれを卒業しているかよりも、オンライン・オフラインのコースどちらを選択しているかが、重視されるようになった

(つづく)
※数あるコンテンツのなかから、最後まで読んで頂きまして、ありがとうございます!遅れましたが、続きの第2話はこちらです!


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