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【旅行記】私と旅③「ドイツⅡ~ベルリン」

世界最高のオーケストラを持つ街

 ハンブルクから2時間ほど鉄道で南下すると、ベルリンに着く。

 ドイツの首都であり、移民の多い近代的な国際都市であり、世界最高のオーケストラ、ベルリン・フィルの街である。
 本気を出した時のベルリン・フィルは本当にすごい。個人がソリストとして活躍しているほど技術的なレベルが高いが、そんな集団が本気になって全力を出すとそれはもう計り知れない。フォルテは津波のようで、ピアノは蜃気楼のよう。しかもそれらは重厚かつ明晰で、決して軽薄になることはない。

疾走する喜び

 サイモン・ラトル指揮による「ダフニスとクロエ」が最高だった。
 決して繊細ではないし、官能的でもないし、ラヴェル特有の洒落っ気もガラスのような人工美も懐古的なペシミズムもない。どちらかというと「ダサい」演奏である。しかし、それでも「これはすごい」と心の底から唸らざるを得ない、有無を言わさぬ力があった。
 とりわけ印象的だったのは、最後の熱狂的なバッカナールの部分で、奏者たちが互いに顔を見合せながら、ニコニコしながらいとも軽々と実に愉快そうに演奏していたことである。彼らにとってはなりふり構わず全力疾走することこそが至上の喜びなのか?

 マーラーの交響曲第7番でもこれと同様の体験をした。どこまでも愉悦的で楽天的でありながら、巨大で深淵な狂気も孕んでいる。
 そのあまりの衝撃に大口を開けて笑ってしまった。感動のあまり落涙したのではない、笑ったのである。そんな経験は空前絶後である。
 

アプリオリに認められる芸術

 政治や経済、法律などと同列に芸術が存在し、当たり前に敬意を払われ、その喜びが広く享受される
 「芸術=贅沢な娯楽」というイメージの日本とは対照的である。これは何も日本に限らず、他のアジア諸国にも同様の傾向である。文化的な植民地意識が抜けない限り、芸術が浸透することはないのだ。
 アプリオリに芸術の存在価値が認められている。そういう環境の居心地の良さを体感できるのが、ドイツである。
 


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