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100万握ってワーホリ行ったら外資のエンジニアになって帰ってきた話

状況だけまとめてタイトルにしたらなんとも胡散臭くなった。

自分は現在カナダ在住で、アメリカのヘルステック企業でシニアフロントエンドエンジニアとして働いている。以前物議を醸した日本のエンジニア達は海外に出なければいけないという記事を書いたりした。

来歴を端的にまとめると以下の通りになる。

  • 日本では定員割れのモンスター高校を卒業後、4年間フリーター

  • 2017年に100万円を元手にカナダへワーキングホリデーを使って渡航

  • 2019年に未経験からエンジニアとして現地のスタートアップ企業に就職

  • カナダ、アメリカの複数企業で経験を積み、シニアフロントエンジニアへ

今回はありがたいことに、業界最大級のWebサイトビルダーであるWixの日本法人、Wix Japanでフロントエンドエンジニアのオファーを受ける運びとなった。

このポストでは、北米で在住しつつエンジニアとしてキャリアを積んだ上で、日本の外資企業のオファーを受けた理由と日本のエンジニアに伝えたい事をまとめていきたい。

はじめに

先に断っておきたいが、今回のポストは決して100万円あったらワーホリ行って外資いけるよ!というメッセージを伝えたいわけではない。

このポストの目的は、日本でエンジニアをしている、もしくは志している人々にエンジニアという職業が持つ可能性に気づいて欲しいというもの。

ソフトウェアエンジニアほど世界中どこに行っても使えるスキルはない。アメリカだろうとインドネシアだろうとJavaはJavaなのである。そんな職業の人が英語を使えるとどうなるか?今回の話はそんな世界中どこでも通用する職業だからこそ起こり得た話だ。

なぜ海外にいるのに今更日本で外資なのか?

前述した来歴を読んだ方には、こう思った方もいるかもしれない。確かに海外を目指すエンジニアの黄金パターンの一つに、外資企業に就職した後に海外転勤するというものがある。そういった観点で見れば今回の決断は逆行しているように映るだろう。

ここにはゴールの違いによる認識の差異がある。今回自分が日本でWixのオファーを受けるに至った最大の要因はキャリアアップであり、移住ではないのだ。シンプルにオファーを受け取った際に一番キャリアアップにつながると感じたのがWix Japanなのである。

ここからはWix Japanのオファーを受けるまでのキャリアをおさらいしていく。

1社目から現在に至るまで

自分は2019年にキャリアを始めてから現在に至るまで自分はもっぱらスタートアップ環境で働いてきた。1社目は残念ながらもう存在しないバンクーバーベースのスタートアップである、SherwaというゲーマーのためのSNSを作る会社にスタートメンバーとして参加した。

2社目はGeneracというアメリカでの業界最大手の発電機メーカーだったのだが、クリーンエナジーという比較的小さい部門かつ買収されたスタートアップがそのまま部門となっている状態だったので、労働環境やスタイルはどちらかと言えばスタートアップであった。

現在の会社である3社目のCylinderは、シカゴがベースの2024年現在シリーズBのスタートアップ企業である。会社にとっては自分が北米初のフロントエンドエンジニアであり、北米チームの立ち上げとチーム文化やコーディングルール等の立ち上げに携わってきた。

Wix Japanの話を頂いた時の状況

実はWix Japanからお話を頂いた時、他にもバンクーバーローカルの会社からオファーを頂いていた上に、現職ではカウンターオファーを貰っていた。カウンターオファーというのは会社に辞める旨を伝えた際に、”今より待遇をよくするから残ってよ”と逆オファーを受ける事である。人材の流動性が高い北米では割とよく聞く話である。

お金の話になるので怒られたらこの部分は削除するが、給料的には各々のオファーは下記の通りであった。$はカナダドルで換算、為替レートは2024年6月で計算する。

  • バンクーバーローカル企業: 約$145k (約1700万円)

  • Cylinder (現職): 約$180k (約2000万円)

  • Wix Japan: 約1500万円 (RSU込み)

上記3つを比べると、現職のカウンターオファーの太っ腹っぷりが見て取れる。サンフランシスコではないとはいえ、やはりアメリカ企業の資本力の強さが如実に現れている。もう1つ述べておきたいのは、Wixもローカル企業も自分の現給料よりも低くなってしまう事だ。現在自分が頂いている額は約$150k(約1750万円)である。

物価の違いと収入の絶対値

”物価違うし日本の方がいいじゃん”と思う方もいらっしゃるだろうが、基本的に収入の絶対値は多いに越したことはない。雑に例えるなら、日本では手取りの30%を貯金に回せてカナダでは15%だったとしても、絶対値が大きければ貯金額はその分大きい。新型のiPhoneが11万だったとすれば、日本で”相対的に”多い割合の貯金するよりカナダの”少ない”割合の貯金の方が買いやすい。この傾向は車などの大きい買い物であるほど顕著に現れる。もちろん投資も元手の絶対値が大きい方が有利だ。

上記を踏まえると、給料面だけを見るとWix Japanが一番魅力として少ないことがわかる。ならなおのこと受けた理由が分からなくなった読者の方も多いと思う。

最終的にWix Japanにした理由

いうまでもなくお金は大事だ。ならそれを超える何かがなければWix Japanという結論には至らない。今回の結論に至った理由を端的にまとめると、東京という環境とWixというブランドに額面の給料以上の価値を感じたのである。

まずなぜ自分が東京という街に魅力を感じたのか、おそらく一番大きな要因は日本でエンジニアをした経験がないという事である。仕事を日本でやりたいというより、東京という東アジア随一の街で作れる繋がりはとても魅力的に映った。

外国人エンジニアコミュニティにも参加してみたいし、大好きなReact NativeやTypeScriptの集まりにも行ってみたい。これから海外を目指したい人々を直接支援する事だって出来るし、国際的にレベルの高い日本のエンジニア方々と知り合うのはとても楽しみである。

もしこの記事を読んで興味を持ってくださった方はお気軽にご飯やお茶に誘ってほしい。東京、ひいては日本のエンジニアの本当のレベル感やエンジニアリング環境にはとても興味があるし、自分の経験を活かして誰かしらのキャリアにポジティブな影響を与えられたらこれ以上の幸福はない。

少し脱線してしまったが、次点で惹かれたのがWix Japanという特殊な環境である。Wixといえば全世界で2億人以上のユーザーを持つ業界最上級のサービスで、北米ではWordpressやShopifyに並ぶ知名度を誇る。

そんな会社が日本法人を立ち上げ、現在拡大のフェーズにある。どれほどWixそのものの開発に関われるかはまだ未知数だが、北米で成功を収めたサービスの拡大の一端を担うのはとても楽しそうだ。従業員もまだ数十人と、文化作りのフェーズにあるそうで、こんな大規模なサービスのEarly Phaseに立ち会える機会はそうそうない。

グローバルなキャリアを積むということ

大概の人は海外でキャリアを積むために永住権やグリーンカードを目指す。むしろそこに至ってようやく本番がスタートしたといっても過言ではない。ビザの制約がないというのはそれほど大事なことなのだ。

1つの会社に縛られるということは必ずしも良いことではない。ビザを補助してもらう関係上現地人に比べて少し不利な契約で働くことも少なくはない (それでも国際的なキャリアを積めるのだからお釣りが来るレベルのメリットである)。

カナダで永住権を得てからは自分の今後について考えることも増えた。特にWix Japanの話が挙がってからは、まだまだ北米でのキャリアは伸び代があったし、日本に帰ることは本当に正しいのかと日夜頭を悩ませる日々が続いた。

しかしそもそも"帰る"という表現が実態とずれている事に次第に気づいていった。海外に居ることが正しく、日本に帰る = 挑戦の終了のように考えてしまっていたのだ。実際にはそんなことはない。日本に行っても他国に行ってもキャリアは続くのだ。

上記の悩みは高学歴の人が抱えるジレンマと似たようなもので、キャリアの選択等大きな決断をする際に、高学歴で無くても出来るような選択肢を選ぼうとすると、"自分はこれをするためにハーバードに行ったのか?"と考えてしまう現象である。Educational Entrapment (エジュケーショナル・エントラップメント)と言ったりもするそうだ。

しかし海外でキャリアを積む最大のメリットは選択肢が増えることである。海外に行ったらずっとそこにいないといけない訳ではない。北米でキャリアを積み、自由度が上がったからこそ一度日本に行ってみるのだ。

エンジニアというキャリア

ここまでつらつらとWix Japanを受けるまでの経緯を書いてきたが、このストーリーを通して伝えたいのはエンジニアだったからこそ、日本か北米かの選択をすることが出来たことである。

自分は特段エンジニアとして特筆するものがある訳ではない。むしろ平々凡々なボリュームゾーンレベルのエンジニアなのである。しかし運良く北米でキャリアを始め、英語を使ってエンジニアとしての経験を積んだことで国を跨いでキャリア選択が出来るようになった。

学歴も、権威もないただのいち個人がここまでの自由度を持つことができるのはエンジニアという職業の国際色の強さを表している。俗に言うイケてるスタートアップでは日本国外出身のエンジニアがチームに居ることはさほど珍しい事でも無くなってきていると聞く。彼、彼女らがそうしたように、私たちも日本国外に出る事はできるのだ。

最終的に海外移住になろうと、日本に帰る事になろうとそこに根本的な違いはない。せっかくエンジニアという稀有な職業に就いたのだから、一度国外で経験を積んでみるというのは体験として面白いのではないだろうか。

これから少子化が進み、慢性的な人材不足に苦しむと言われている日本のエンジニア業界。国際的な経験を持つエンジニアの需要はよりいっそう増えていく。

これは長期的かつ希望的観測ではあるが、平均的にレベルが高いと言われる日本のエンジニア達にとって国際的キャリアを積む事がスタンダードになれば、ヨーロッパや北米のように著名な人物を呼んで国際的なカンファレンスが開かれたり、アメリカのAlchemist Accelerator出身のAutifyのように国際的に活躍する日系企業が増えていくだろう。

これから先、自分がどれほどの期間東京にいるかは分からないが、これから出会う人々や対面するチャレンジに期待が膨らむばかりだ。

もし読んだことがなければ、日本と海外のエンジニアの比較をまとめた以下の記事も目を通して頂けると嬉しい。エンジニアの海外就職のための情報発信は引き続きやっていくので、今後海外進出を考えている方はぜひそちらも参考にして頂けると役に立つことがあるかもしれない。

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