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福岡の「開幕」

1球1球投げるたびに、ベンチから選手の声が響く。
打球音、ミットにおさまるボールの音もいつもより大きく聞こえる気がする。
スタンドに観客の姿はなく、空席を埋めるかのようにいくつものボードが設置されている。
ベンチはいつもの風景に見えて、コーチ陣はマスク姿の人もいる。

今日から日本のプロ野球が開幕となった。
セ・パ両リーグの全チームが試合を行っている。
福岡と言えば地元球団の福岡ソフトバンクホークスが、ホームで千葉ロッテマリーンズを相手に対戦だ。

ただでさえ6月後半、通常よりも2ヶ月半遅れでの「開幕」。さらには「無観客試合」。今年のプロ野球をとりまく状況は、明らかに異なっている。
さらに福岡で言うと、ホークスの本拠地であるドームの名称が、「福岡PayPayドーム」に変わった。やっと旧名称である「福岡ヤフオク!ドーム」に馴染んできたかと思った頃の変更に、最初は違和感もあった。開幕してそれなりに経っていれば、スポーツニュースや福岡のローカル番組で耳慣れる部分もあったかもしれない。だが今は、開幕を迎えたこと自体が大きなトピックで、正直ドームの名前がうんぬんというのは二の次だ。

試合はテンポ良く進む。今日のホークス対ロッテ戦は7回終わって0対0の投手戦であることも、淡々とした具合に拍車をかける。選手が打席に入る際に音楽は流れるが、観客席からの音楽や声援は当然ながら聞こえない。選手の間合いのみで試合が進行していくことも、テンポの良さの一因なのだろう。

街の様子も当然違う。
ドームは福岡市の中心部からは少し離れた場所にあるが、ホークスの試合があるとなると中心部でもファンの姿を見かける。
地下鉄を利用して最寄り駅まで向かうのだろう。ホークスのユニフォームや帽子を身につけ、応援用のグッズをもった老若男女が多く駅構内を歩いている。
だが、今日の夕方は一切そんな姿を見なかった。おおよそプロ野球の開幕日とは思えない、いつもの、いや以前の「いつも」から考えれば異なる、金曜日の駅の姿だった。

今日の様子を見ていると、プロ野球は、観客の存在もプロ野球たらしめる一つの大きな要素なのだなとしみじみ思う。
スタンドを埋めるユニフォーム姿のファン、選手の声なんか全く聞こえないほどの歓声や音楽、選手が観客に向けて行うパフォーマンス。
そこから生まれるエンターテイメント性も、プロ野球の醍醐味だ。

自分は野球やホークスの大ファンというわけではないので、ドームには年に一度観戦に訪れれば良いほう。たまにテレビで観戦するくらいのものだ。
という程度の自分でも、今日の開幕戦を観ていると、シンプルな真剣勝負を目にしている印象の一方で何ともいえない寂しさを感じる。ホークスファンであれば尚更だろう。
まさに一球入魂というべき選手たちのプレーに、少しでも近い場所で一緒に熱狂する。これも「プロ野球」の姿なのだと感じる。

今日の開幕戦を、多くのファンはどこでどう過ごしているのだろう。
自分と同じように、家でテレビを観て応援しているのだろうか。
試合を観られるような飲食店が営業していて、誰かと一緒に食事をしながら開幕を喜んでいるのだろうか。

Jリーグも今後再開したり、徐々に日本のスポーツが新たに始まっていく。しばらくは今日のような無観客など、新型コロナウイルスの状況に配慮した運営になることは決まっている。

ドームやスタジアムなど、会場が観客で満たされ、ファンは選手のプレーに間近で一喜一憂できる。
反対に、選手はファンの熱気・熱狂を全身で受け取ることができる。
そんな「いつもの」プロスポーツがいち早く観られるようになることを期待している。

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