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魏志倭人伝に記された文様

「魏志倭人伝」と言われているものは、3世紀末に書かれた『三国志』の中の魏書30巻「烏丸鮮卑東夷伝」倭人条の通称である。

特に有名で未だに論じられているのは卑弥呼の存在と邪馬台国の位置である。九州説と近畿説で大きく二分しているが、最近では播磨説、四国説やなんと台湾説まで出ている。私は考古学者ではないし、考古学は新たな発見と研究によって頻繁に変化していく学問であるから、それは今後に期待するとして、ここでは当時の魏の皇帝から卑弥呼に下賜されたとする布の文様をさぐってみたいと思う。

【原文】
汝來使難升米 牛利 渉遠道路勤勞 今 以難升米為率善中郎将 牛利為率善校尉 假銀印靑綬 引見勞賜遣還 今 以絳地交龍錦五匹 絳地縐粟罽十張 倩絳五十匹 紺青五十匹 荅汝所獻貢直又特賜汝紺地句文錦三匹 細班華罽五張 白絹五十匹 金八兩 五尺刀二口銅鏡百枚 真珠鈆丹各五十斤 皆装封付難升米牛利還到録受 悉可以示汝國中人使知國家哀汝 故鄭重賜汝好物也

【訳文】
汝の使者、難升米と牛利は遠くから渡ってきて道中苦労している。今、難升米を以って率善中郎将と為し、牛利を率善校尉と為す。銀印青綬を与え、引見してねぎらい、下賜品を賜って帰途につかせる。今、絳地交龍錦五匹、絳地縐粟罽十張、倩絳五十匹、紺青五十匹を以って、汝が献じた貢ぎの見返りとして与える。また、特に汝に紺地句文錦三匹、細班華罽五張、白絹五十匹、金八両、五尺刀二口、銅鏡百枚、真珠、鉛丹各五十斤を下賜し、皆、装い、封じて難升米と牛利に付託する。帰り着いたなら記録して受け取り、これらの総てを汝の国中の人に示し、我が国が汝をいとおしんでいることを周知すればよろしい。そのために鄭重に汝の好む物を賜うのである。

さてここで上記から布らしき下賜品のみを抽出してみよう。
・絳地交龍錦五匹(こうじこうりゅうきん)
・絳地縐粟罽十張(こうじすうぞくけい)
・倩絳五十匹(せんこう)
・紺青五十匹(こんじょう)
・紺地句文錦三匹(こんじくもんきん)
・細班華罽五張(さいはんかけい)
・白絹五十匹(はっけん)

①絳地交龍錦五匹(こうじこうりゅうきん)
「絳(こう)」とは深紅色の意味で、「交龍」龍が交わっている文様の錦織の織物である。古代中国の単位である「匹」は約9.4mであり、よって五匹は47mということになる。
この時代の文様は神仙思想によって龍、鳳凰、麒麟などの神獣と戯れる仙人などから不老不死への憧れから用いられ、龍は天上界を表す文様として特に多く使われている。交龍文様はその名の通り龍が交じり合う形であり、青銅器や同時代に出土した絹布の「狂乱捲雲文(きょうらんけんうんもん)」に似たものではないかと推測する。

交龍紋方壺(紀元前771〜221)台湾歴史文物陳列館所蔵


狂乱捲雲文(後漢時代)

②絳地縐粟罽十張(こうじすうぞくけい)
「絳地(こうじ)」は上記の通り深紅の意味で、「縐(すう)」はちぢみまたは縮んだという意味で、粟文様は粟の粒のような文様であり、「罽(けい)」は毛織物の敷物のことである。
おそらく当時の粟文様は下記の青銅器のようなものが表現されていたのではないかと思われる。

青銅 蟠龍粟粒文提梁壺(春秋戦国時代)和泉市久保惣記念美術館所蔵

③倩絳五十匹(せんこう)
「倩絳(せんこう)」は茜色に染めた薄い絹布と思われる。また50匹とあるので約470mとかなりの長さである。

④紺青五十匹(こんじょう)
「紺青(こんじょう)」は濃い藍色で染めた薄い絹布と思われる。

⑤紺地句文錦三匹(こんじくもんきん)
 紺地は藍色、「句文錦(くもんきん)」は曲線文様の錦地である。これに関しては、果たして句文というものがどういう文様であったか?
 あくまで憶測ではあるが、この文様は雷紋に近いようなものではなかったのか?と考える。
 または、この記述における曲線文様の全ての表現が「句文」であって、幾何学的な曲線文様は全てそう表現していたとしたら特定は難しい。

雷文

⑥細班華罽五張(さいはんかけい)
 「細班(さいはん)」細かい模様を意味し、「華(はな)」は花であり、「罽(けい)」は毛織物の敷物であるから、細かい花模様の敷物ということになる。これは西アジアからの交易によってもたされた様な文様で、三国時代にはすでに存在した蜀江文様の様なものであったかもしれない。

蜀江錦(龍村織物製)

⑦白絹五十匹(はっけん・しらぎぬ)
 「白絹」は文字通り無地の絹織物五十匹

以上のように上記に記述されたものが出土しているわけではないので、全ては憶測や推測の域を出ないが、中国の長い歴史の中での文様の変遷を考慮した上で、この三国時代にありうる文様を想像してみた。

終わりに、邪馬台国がどこにあったか?において私の考えは、九州説である。しかも大分周辺ではなかったかという考えを持っている。
その理由を述べると長くなるので、それはまた別の機会に。。。。

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