見出し画像

組織を強くしたければ「アオアシ」に学べ

サッカー漫画「アオアシ」にハマってます。

「アオアシ」は、プロサッカーのユースチームを舞台とした物語です。
主人公の「青井葦人(あおい あしと)」は、ユースの監督である福田達也にその才能を見込まれ、プロを目指して愛媛から上京します。仲間やライバルの影響を受けながら、精神的にも技術的にも成長していく姿が描かれています。

正解をさっさと伝えるのは、指導者の怠慢

「アオアシ」で面白いのは選手の物語だけではなく、ユースチームの監督・コーチといった指導者の物語も描かれている点です。

アオアシの指導者たちは「答えは教えない」というスタンスを貫いています。「正解をさっさと伝えるなんて、指導者の怠慢」そんなセリフが監督とコーチの会話に出てきます。

ゲームのあらゆる場面で選手自身の判断が求められるサッカーにおいて、自らの言葉で考える力は重要なコンピテンシーです。それは、ゲームの勝ち負けだけではなく、自分自身のパフォーマンスを高めて行く上でも重要です。なぜなら、人は自分の課題に無自覚なままではその行動を変えることができないからです。

その徹底ぶりは時として、選手たちを葛藤させます。
ある時、主人公のアシトは、フォワードからサイドバックへの転向を命じられます。彼が持つグラウンドを俯瞰して把握する能力を最大限に活かすためです。

しかし、得点を取ることに強烈なこだわりを持つアシトは拒絶します。
そんなアシトに監督は淡々と、彼がフォワードに向かない事実を伝えます。なかなか受け入れられないアシトに「ユースはサッカースクールじゃない。戦力にならないと分かっている者を置いておけない」と突き放します。

出典:「アオアシ」第7巻 62話

厳しく、また難しい場面です。「無理やりやらせるものではない。ユースはそんな場所ではない」という考えを抱くコーチもいます。しかし、決めるのは監督です。コーチは葛藤しながらも、アシトが、自ら考えて乗り越えていけるよう厳しく接します。

読み手としてもこの展開は驚きでした。そのような試練が果たして必要なのだろうか、とも感じました。

選手が、自分の想像を超えていくことを待っている

福田監督は、実に選手のことをよく把握しています。技術的な側面だけではなく、精神的な側面もです。アシトには、グラウンドを俯瞰する能力以外に「反骨心の強さ」「ポジティブさ」という強みもあります。監督はそこに賭けたのかもしれません。

福田監督は、彼とチームを一皮むけさせるためにあえて葛藤を起こしているように映ります。そして、大切な局面では、実に有効なフィードバックと問いを投げかけます。

出典:「アオアシ」第8巻 82話

監督やコーチ、周囲の仲間との対話を通じて、アシトは葛藤を糧に変え、サイドバックとして新境地を開きます。

そのとき福田監督はコーチに語りかけました。
「あいつらは、想像を超えてくれたんだよ!」
とても感動的なシーンです。

出典:「アオアシ」第16巻 163話


経営者も「怠慢」になっていないだろうか

「正解を伝えるのは、指導者の怠慢」だとして、何に対する怠慢なのでしょうか。正解を伝えた方が、結果も得られるし、本人にとっても前進となるはずです。

しかし、それでは今の当たり前を越えていくことができません。指導者が自らの成功体験に閉じこもり、新たな価値を生み出そうとしていないことを怠慢だと言っているわけです。

「勝利を計算できる選手を起用して勝つ」という道を選ぶのは、誰でもできます。ただ、それでは未来がない。未来に向けた投資を怠ってはいけない、指導者の責任は選手と共に学び、未来を紡ぎ出すことだ、そんなメッセージを「アオアシ」という作品から読み取ることができます。

これは、企業と経営者においても同様です。
普段、お客さまと話しているとどの会社でも悩みは「新しい事業の柱」と「人材育成」です。その悩みは何によって生まれているのでしょうか。果たして、私たちは、適切な采配を行うことができているのでしょうか。「正解をさっさと伝える」ことに逃げていないでしょうか。

正解に逃げずに組織を強くするには

「アオアシ」を読んでいると、組織を強くするためのヒントにあちこちで出会います。上記に書いてきたことを私なりにまとめると、以下のようなポイントがあるように思います。

① 会社(チーム)のビジョンを持つこと
チームとしての戦術や理想の姿があるからこそ、選手に期待したいことがはっきりします。福田監督がアシトをサイドバックに起用しようと思ったのは、彼の理想のサッカー像が明確だったからです。

②健全な葛藤を起こし揺さぶる
福田監督は、「淀み」を作ると表現しています。個性豊かな選手のあつまりですが、幼いころからサッカーの原理原則を学んできた選手たちからは、セオリーを越えた発想が生まれにくいのも事実です。アシトに試練を与えることで、それに対応しようともがく行動が生まれ、チーム内の予定調和が揺さぶられます。

③任せて任さず
「教えない」ことの本質は、この「任せて任さず」にあるように思います。期待を持って任せるとしても、あくまで機会を作るだけ。あとは、自分自身で考え、行動し、葛藤することを待つ。ただし、見守ってフィードバックしてあげないと解を見出すことは難しい。一方、手取り足取りでは、指導者の期待を超える成果は出てきません。指導者もまた新たな境地に立つために彼らと共に苦労するべきなのです。

経営者や指導者、社員や選手はみな人間です。現状の成功体験に囚われます。怖いのは「怠慢」の意識がないことです。一生懸命、現状維持をしている自分たちの弱さに自覚的であることが求められるのではないでしょうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?