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ジャックは私です。最終回

 数年後。


夏山は背広姿で人々が行き交う交差点を歩いていた。営業がやっと終わって会社に帰るところだ。


歩きながらネットニュースを見る。数年前のニュースが取り上げられている。「雨宮国立病院、院長息子誤認逮捕の刑事。新たな事実か。」


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三年前に起きた殺人事件。千恋が殺された事件だ。思い出すだけで胸が痛んでくる。


犯人として逮捕し、一時的に収監していた雨宮国立病院院長の息子の雨宮啓介当時二十四歳に対して担当の刑事が恐喝、暴行などをはたらいて無理矢理罪を認めさせていたことが明らかとなった。


警視庁は二十四日記者会見を開く予定としている。こんなこともあったな。無意識のうちに目頭を押さえていた。


あれから家族の仲は悪くなって、父と母は今になって離婚。自分は母の方についていった。今は一人暮らしをしているが傷はまだ癒えていない。


思い出すだけでも苦しくなってくる。


スマホをポケットの中にしまった。


「次はお前だ。」


立ち止まって後ろを振り返る。誰かに話しかけられたような気がしたのだ。


だが忙しく歩く人だかりで誰だったかは分からなかった。


気のせいだろうと思った。いや、そう思いたかった。何か嫌な予感がしたからだ。


 この日は早番で上がっていつもよりは早く家に帰ることができた。


毎日の日課である郵便物を確認するという作業も忘れなさそうだ。毎日の日課といっているにも関わらず最近は仕事の忙しさにかまけて確認していなかった。


ポストを開ける。


「ん?」


そこには見慣れない封筒が入っていた。夏山様へ、と書いてある。一体誰からだろう。不審に思いながら封筒を持って部屋へ入った。


椅子の上にカバンを置いて背広をハンガーにかけると封筒を開けた。


中にはゲームソフトのケースのようなものが入っていた。しかし古いものだろう。あちこちに傷があっておまけに少し欠けている部分もある。


何のゲームだ?興味本位で開けてみる。


ミクロウォーズ?完全に知らないわけではないのに・・・何故だろう。思い出せない。どこかで聞いたことのある名前だ・・・・


ふとケースを支える指に違和感を覚えた。ひっくり返すとテープで紙が貼り付けてある。


紙の上には真っ赤なインクで「ジャックは私です。」と書かれている・・・・・・・


夏山の頭にははてなが渦巻いていた。一体何のこと・・・・だ・・・・・・・・・


何かが思い出された。


ミクロウォーズ。あの日、小三の夏休み。あの子から返してもらったゲームだ・・・・・


それが何故ここに・・・・・?


ふと谷寂という名前が思い出された。そうだ。もう一人の友達は谷寂という名前だった。


・・・・・・もしかしたら谷寂ではないか・・・・谷寂・・・谷寂・・・寂・・・寂・・・・・・・・・・・・・・ジャック・・・・・・・


あの事件の犯人は谷寂ではないか・・・・・・弟を殺された復讐に・・・・巧妙なトリックで千恋を殺したのではないか・・・・そして全く関係のない人物を犯人に仕立て上げたのではないか。


だとすると・・・・・・・・復讐の刃は自分にも向いている・・・・・・・・夏山は後ろを振り返った。


誰もいない。キョロキョロと周りを見渡す。鍵は閉めたか?閉めている。


誰かにつけられていないか?つけられていないはずだ。


恐怖の渦が夏山を支配する。言葉に言い表せようはずがなかった。歯がカタカタと震えだす。


尋常ではない汗が流れ出し、足がすくんで立っていられなくなる。全ての方向から視線を感じる。


数秒毎に後ろを振り返って誰もいないか確認する。妙な物音が聞こえる。家鳴りか?それとも玄関の鍵を開けようとしているのか?


もしかして既に家の中にいるのか?いたとしたらどうしよう・・・・!!!


包丁でも持ってきて威嚇するか?防衛するか?この場合刺し殺しても正当防衛だよな・・・・でも、銃を持ってたらどうしよう・


嫌だ、死にたくない。まだ死にたくない!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


うわぁぁぁぁ!!!!!!!!!!いやだあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


その時とあることを閃いた。


・・・・・もしかすると復讐はもう終わっていたのではないか・・・・・


夏山は谷寂の弟を殺してしまった。その結果、谷寂一家は崩壊し、遠方に引っ越していった。


きっと途轍もない悲しみと怨嗟の中で苦しんでいたに違いない。


それを自分達に味合わせようとしたのではないか・・・・・・?


もしこの仮説が本当だとしたら自分達も同じように千恋を失ってから仲が悪くなった。両親は離婚もした。これは復讐が果たされているということ・・・・・なのか?


力が抜けた。ホッとしたような、違う種の恐怖が芽生えたような・・・・そんな心持ちだった・・・・・・・


「次はお前だ。」街中でそう囁かれたのを思い出した。


お前も殺すという意味なのか?


どっちにしろここにはいられない。どこか遠くへ。誰にも見つからないところへ・・・・


ガンッ!!


夏山は驚きのあまり床に倒れ込んだ。

これは・・・・ドアを開けようとする音か・・・・

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