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「いきている山」 ナン・シェパード氏 著

朝から雨模様だった秋の祝日。先日に本屋Titleさんで出会った「いきている山」に没頭していました。

この本は、小説ではありません。著者がお住まいのスコットランド北東部にあるケアンゴーム山群を度々訪れ、歩き、観察し、感じられたことを綴られた書です。
著者であるナン・シェパード氏がこの書を綴られたのは第二次世界大戦末期から戦後にかけての数年間。その時は、社会情勢が許さず、出版社から発刊を断られたようです。そうして著者の手元に眠っていたこの作品が発刊されたのは30年の後であったとのこと。良かった、おかげで私もこうして読むことができました。

表紙の美しいスコットランドの山並みとタイトルに惹かれて買い求めた本ですが、何故、それほどまでにページを繰る度に没頭したのか、noteに感想を残そうと思うほどに印象が強く残ったのか。思うに、科学的な観察でありながら、著者の詩情豊かな感性、山や自然への対し方、敬意、思考の深みに共感し感銘を受けたせいかも知れません。

そんな著者の姿勢がよく表れていると思われるお気に入りの記述を紹介させてください。

「人間は山のことを完全には知りえないし、山との関係における自身についても完全に理解することはできない。どれだけ山を歩いてみても、山は私にとって驚きであり続けている。山に慣れる、などということはないのだ。」
                       第一章「プラトー」より抜粋

「だんだんわかり始めてきた。この山々にあって、急ぐことは何の意味も持たない。長いこと山々を見続けてきて、ようやく分かった。私は見ることを始めてもいなかったのだと。」
                       第二章「奥地」より抜粋

私が山を歩く時、以前はスピードと距離、ルートに妙にこだわる時期もありました。今でも、行程が厳しい時は速度を上げる時もありますが、寧ろ山を歩くことそのものを楽しむようになっています。四季折々の山全体の表情の違い、自然が作り出す花や紅葉黄葉、雪の美しさ、匂い、風。高度を上げるにつれて変化する植生の豊かさ。花崗岩質の山の白い地面の美しさ。落葉松の森の落ち葉の足裏の柔らかさ。五感で感じること、写真に撮ることに夢中になっています。
この本を読み進める中で、共感し、また敬服しつつさらに山の楽しさが増していくような心地よさを感じたのかも知れません。

もう一ヶ所、この作品、あるいは著者の生き方もかもしれませんが、通底している姿勢を表しているように思える、好きなことばを抜粋。

「知の対象は、知るほどに育ってゆく。」
                       第十二章「存在」より抜粋

そうそう、私はスコットランドには訪れたいと思いつつ、まだ機会に恵まれません。私のスコットランドのイメージはいずれも映画。「Braveheart」と007シリーズの「Skyfall」です。
そんな乏しい知識ではありますが、何故かスコットランドと言うと、北アルプスの雲ノ平と周囲の山々を連想するのです。
ケアンゴーム山群は800m〜1,200m程度の標高、雲ノ平と周囲の山々は2,500m〜2,900m近くの標高。前者は花崗岩質で後者は溶岩質。前者は緯度も高く氷河の影響を受け、後者はそうではない。
違いの方が枚挙にいとまが無いのですが、何故か行ったことも無いスコットランドと歩いた雲ノ平を結びつけて考えてしまします。

何枚か以前歩いた際の雲ノ平の写真を貼っておきます。
皆さんどのように思われますか?

日本の雲ノ平
日本の雲ノ平
日本の雲ノ平と周囲の山々

スコットランドを想起しつつ雲ノ平を歩きましたので、テント泊のお供は当然(?)スコットランドのお酒でした。

スコットランドのお酒

いつか、レンジローバー(アストン・マーティンは荷物が乗らなそうなので)でイングランドからスコットランドに向かい、スコットランドの山々を歩いて感じてみたいものです。


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