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世界の終わりのグランプリ

賞レース史上初、無観客で行われた
今年のR-1ぐらんぷりが終わった。

発表された時からずっとそわそわしていた。
えらいことになるぞと。

いざ放送が始まってみると、
意外にも番組として成立していた。

無音というわけではなく、
スタッフの拍手や笑い声も聞こえる。

もちろん違和感はずっとあったけど、
観てられないってほどじゃなかった。

……でも、やっぱり観客はいた方がいいと思った。

ネタの言葉や動きを、お客さんの反応によって
調整できないことがいちばん気になっていた。

出演者はプロだから、たぶんネタの中の
そういう要素をうまく変えたんだと思うけど。

やっぱりちょっと、物足りなく感じた。
あまりグルーヴしていかないというか。

でもそれはもう、仕方のないことだと思う。

それよりもっと別のところに、
観客をなくした弊害が出ていた。

視聴者投票だ。

今年は、テレビリモコンのdボタン投票と
Twitterのアンケート投票、Wで集計されていた。

無観客な分、視聴者という「観客」に
重きを置いたんだろうけど。

これは逆効果だったと思う。

審査員は1人3票なのに、
視聴者投票の合計は12票。

実に4倍もの差がある。

しかも、合計が同点だった場合、
視聴者投票の多い方を取る。

……そんな審査員はもう、
いないと同じなんじゃないか。

観客もいないし、審査員もいない。

ただ「視聴者投票」という
実態の見えない数字だけが算出される。

まるで、AIに人類が滅ぼされた後の
世界みたいだった。

出演者はみんな精巧に作られた
アンドロイドか何かで。

人間らしく振る舞えたかどうかを
AIが判定して点数を出していて。

スタジオの外にはもう、人類はいない。

優勝者が決まった後、クレーンカメラが引いて
番組が終わるはずが、時間がだいぶ余っていた。

ハプニングに合わせて、余分に
バッファを取っていたんだろう。
でも、何も問題は起きなかった。

お客さんが、というか、
もう人類がいないからだ。

残された時間、審査員とファイナリストで
エンディングトークをしていて。

終わってホッとしたんだろう、
みんな和気藹々としていて。

フィナーレの感動的な音楽が、
後ろでずっと流れ続けていて。

何だか泣きそうになってしまった。

早く世の中が、元の日常に戻ってほしい。
こんな未来が来ないように。