いないいないクール

売れない芸人をしているが
いわゆるファンが、ほぼいない。

事務所ライブの取り置きは
もう何年も前から1枚もない。

誰も僕を観に来てない。

目当ての芸人さんが別にいて。
その人が出てくるまでの
暇つぶしに観てくれている。

そう考えると、とても
ありがたい気持ちになる。

だからネタ終わりの
「ありがとうございました」は
いつだって本気で思っているけど。

挨拶終わりで礼をして、暗転の中で袖にハケて。
舞台裏に戻ってきて、ふと思う。

誰も僕を観に来てないんだった。

だから今月の事務所ライブが
中止になって、バイト先の人に
芸人さんは大変ですねーと言われて。

そうなんですよーと返したけど。
僕に限っては、全然大変じゃない。

誰も僕を観に来てないからだ。

中止になってすいませんと
謝る相手がそもそもいない。

そういう意味ではもう
ずいぶん前から無観客だ。

もちろん出待ちもいたことがない。

いや、出待ちのいない芸人なんて
他にもいるだろうけど。

うちの事務所は出待ちされる
人気のある芸人さんが多いので。

劇場の出口を出て
出待ちしてる人たちの横を
会釈しながら通るとき。

「あの人だけ出待ちいないね……」

そう思われるんじゃないかと
ちょっと緊張してしまう。

もちろん、僕のことなど誰も見てないし、
気にもしてないって頭ではわかってるけど。

昼ライブなら、そのまま
逃げるように電車に乗ればいい。

でも、夜ライブだと打ち上げがある。

誰も僕を観に来てないから、
ライブのチケットノルマは
まるまる払わなくてはいけない。

マイナス4千円からの打ち上げ。
帰った方が財布には優しい。それでも。

こんな夜ほど、ビールを飲みたいのだ。

そうなると、打ち上げ会場に
誰よりも早く着くことになる。

みんな出待ちのお客さんと喋っているからだ。
そんなのは、ぼんやりと待てばいいんだけど。

だんだん後輩が増えてくると、
なかなか気まずいものがある。

「いつも一番乗りじゃないすか！」
「そんなに飲みたいんすかー？」
「出待ち対応クールっすねー！」

いやーそうなんだよ。はははー。

気さくにイジってくれる後輩たちは、
何者にも代えがたい。

だから自虐で困らせないように、
クールにごまかすけど。

本当は言ってしまいたい。いないからだよ。

いないいないクール。

……えっ？

ファンがほぼいないなんて、
そんな悲しい嘘をつくな？

……そうですね。悲しすぎました。
こんな僕でも、多少は……えっ？違う？

本当は、ひとりもいないだろって？

そこは許してよ！！
言わない優しさってあると思うよ！

ごくたまに！ごくたまにあるから。
話しかけられることが。

「私は面白かったですけど」とか。
「影ながら応援してます」とか。

そういうのを、集めに集めて、指折り数えて。
それでビールを飲むんです。

だから、いつでも声をかけてください。
ファンになれとは言わないんで。

次のライブは無観客ですけど、
そういうわけで慣れたもんです！

3/17(火)の19:30から
Twitterでライブ配信します。
よかったら観てくださいー！

今月の大喜利珈琲は！お客さんを入れずに配信のみで行います！まさかこんな日が来るとは…！ライブには画角に入りきらない面白さがあります。でもそこをなんとかカメラ3台で拾います！3/17(火)19:30からTwitterでライブ配信！ぜひ観てくださいー！ pic.twitter.com/CzOdpqR4Ts

— 石川カズキ (@kazukiishikawa) March 8, 2020

僕以外の出演者のファンの皆様！
安心してください！
フォローしなくても大丈夫です。

時間になったらお目当ての芸人さんが
リツイートしてくれますんで。

ハートやコメント、お待ちしてますー！