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栗本和紀│日本酒作家
2015年12月15日 16:02
学校が早く終わり、わたしは、そのままサケ子の家に行った。 女子中学生が2人集まれば、ゴロゴロと床に寝そべってお菓子を食べるだけ。「恋ばな」に「恋ばな」を繰り返し、終わったかと思えばまた「恋ばな」が始まる。わたしたちはそういう生き物なのだ。「ねぇ、『伝説のキス』って知ってる?」 まだキスをしたことがないわたしは興味津々に、サケ子の質問に質問を返す。「え、どんなの? なんなの?」「
2015年11月26日 14:14
両親は、『100歳まで元気に生きるように』と願いを込めて、春に生まれた少年に、「百春」と名付けた。 そうして、いまは亡き両親の願いを背負った百春は、長い年月を生き抜いている。「おじいちゃん、お誕生日おめでとう。100歳まで元気でいてね!」 この日、百春90歳の誕生日会で、孫は声を掛けた。 現役時代は、高等学校の数学教師として、『鬼の百春』と恐れられていた彼も、老いには勝てない。 物
2015年11月24日 07:06
風香が家を出て行ったのは、昨日のこと。いまさら気付いたのだけれど、昨日は彼女の30回目の誕生日だった。 朝まで飲んで帰ってきた二人の部屋には、「さようなら」とだけ書かれた置き手紙と、すっかり酔いの覚めた僕だけが残された。 悲しみに暮れ、街をさまよっていると、やわらかな香りとすれ違う。 あわてて振り返ると、風になびく長い髪。後ろ姿。たしかに、風香だった。 やわらかな香りは、風に乗っ