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1勝9敗〜シリーズAスタートアップのリアル〜

こんにちは。社内のナレッジを一元管理するSaaS「Qast」を運営するany株式会社の代表 吉田です。
昨日、総額4.5億円の資金調達を完了したことをプレスリリースで発表しました。

▼プレスリリース
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000027.000033337.html
▼DIAMOND SIGNAL
https://signal.diamond.jp/articles/-/1254
▼日経新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC069LQ0W2A600C2000000/

創業から6年目、Qastリリースから丸4年のこのタイミングで、ようやくスタートアップにとって大きな山の一つであるシリーズAというラウンドに到達しました。
上場SaaS企業の評価額が軒並み下がったり、世界的な経済の先行きが不安定な中で、目標とする調達金額、そして評価額で調達できたことはホッと胸を撫で下ろす瞬間ですが、ここからが本当の勝負。
目指すビジョン「チームシップが根付いた世の中に」の実現と計画する事業数字の達成両方を求めて、今回の調達資金を1円も無駄にせず事業成長を加速させたいと思います。

スタートアップは毎日どこかで火事

今回の資金調達リリースを始めとするスタートアップのプレスリリースはもちろん事実に基づく一見華やかな内容ですが、その裏には多くの関わる人の苦難があるのです。

「スタートアップは毎日どこかで火事が起きている」

Y combinator CEO Sam Altman氏

Y combinator CEOのSam Altman氏のこの言葉は、決して大げさではありません。
華々しいリリースや、やっててよかったと思える瞬間はほんのわずか。
勝敗数にすると、1勝9敗。
大半の出来事が目を覆いたくなるような、ハードシングスの連続です。
本記事ではそのハードシングスの一部を抜粋して、スタートアップのリアルをお届けします。

先に結論からお伝えすると、anyがこれまで数々の危機を乗り越えられたのは、「人を信頼して、助けてもらったこと」これに尽きます。
自分自身、強くてニューゲームの連続起業家でもなければイーロン・マスクのようなカリスマ性もありません。粘り強くやり抜く力と人の縁に恵まれて何とか今日までやってこれました。
マンガに例えるならワンピースのルフィのように自分にはない能力を持った仲間を一人ずつ増やして、助けられながら航海を続けてきたタイプ。

それではスタートアップの実態、anyのリアルに少しでも興味のある方、気になる部分だけでも読んでもらえると嬉しいです。

とにかく、売れない。ひとり焦る日々

2018年7月4日、Qastのβ版をリリースしました。スタートから2年弱はフルコミットは自分のみ。(プラス業務委託エンジニア2名とアルバイト1名に助けてもらいながらサービスを運営していました。)

笹塚の雑居ビルで8人分の家具を持て余す

この時期はシンプルに「売れない」。
今となっては要因は明確で、ターゲット市場が広すぎたこと、リテラシーが高い商談相手にソリューションが全くフィットしていなかったことですが、当時は常にキャッシュが尽きるリスクとの戦いで、とにかく売ろうとする結果、売れない。売れなくてキャッシュが危ないので投資家を周るも撃沈…。この負のサイクルの連続でした。1年経ってもMRR(月次経常収益)は50万円以下。常に来月の自分の給料が払えるか払えないかの瀬戸際…そこに救世主が現れます。

この窮地を救ってくれたのは、any初の投資家Gazelle Capitalの石橋さん。
本当に何もなかった時期からanyと自分の可能性だけに賭けて、Gazelle Capital設立後1社目の投資先として投資を実行してくれました。(※ちなみに今やスタートアップ投資TVで有名な石橋さんですが、当時は誰からも知られてなくて家族からかなり心配されました笑)

投資実行後、売れなくて完全に自信を失っていた時、「どんな事が起きても吉田さんの意思決定を尊重する」と何度も言ってくれたことで、「この人のためにも絶対に諦めてはいけない」と奮い立ったのを今でも鮮明に覚えています。

投資家さんも紛れもなくチームanyの一員として、資金だけではないサポートを行っていただいています。

幸運に尽きるコアメンバーの採用

2020年4月、8,000万円の資金調達を行った後、いよいよ採用活動を本格化して、チームビルディングに動き始めました。ひとり、またひとりと仲間が増えていき、できることが大幅に広がりました。

2020年4月:
1人目…エンジニア波多野氏(現取締役CTO)
2人目…マルチCS樽ちゃん
2020年5月:
3人目…浪速のムードメーカー英ちゃん
2020年7月:
4人目…日本一エモいドラマー武雄さん(現執行役員、CSマネージャー)
5人目…最速マーケター想さん
6人目…マルチエンジニア山内くん
2020年8月:
7人目…anyの心Nonちゃん(現Teamship Design)

投資家や起業家の友人にメンバーを紹介すると「よくこの時期に、こんなに優秀なメンバーを採用できましたね」と言われるほどスキルの優秀さと謙虚さ、仲間想いを兼ね備えたメンバーです。

2020年7月@代々木オフィス

コアメンバーの採用に再現性はあるか?と聞かれると、自信を持って「ない」と答えます(笑)CTOの波多野氏はビジネスマッチングアプリのYentaでマッチングして2回会って意気投合、他のメンバーは掲載していたWantedlyからの応募です。

ただ、このメンバーを採用するまでにそれぞれのポジションで最低10人以上は面談を行いました。その過程で「今必要なのはどんなスキルを持っている人なのか」「anyらしい人物とはどんな人物か」の解像度は回を追うごとに格段に上がっていきました。創業期の仲間集めは時間を使ってたくさんの候補者に会って話すこと、これ以外に近道はないと思います。

全員で決めた「チームシップが根付いた世の中に」

コアメンバーの採用後、メンバーから「MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を決める合宿をしませんか?」と提案を受けていました。

それまでは自分ひとりの会社でMVVの必要性を感じないまま創業から4年経っていたことから、正直あまり乗り気ではありませんでした。
一方で、これから会社を大きくするには、チームの方向性が一本に揃うための「言葉」については必要性を感じ始めていた頃で、まずはやってみようのスタンスでMVV合宿を行いました。

MVV合宿@茅ヶ崎 「これ!」というワードをひねり出す…

今となっては、anyになくてはならないMVVは全てこの日に決定しました。特にビジョンである「チームシップが根付いた世の中に」は今では社内外の大きな共感を呼んでおり、振り返るとanyのターニングポイントとなった1日です。

会社として重要な意思決定に、当時のメンバー全員が参加していたことによって、その後日常的に使われる慣用句となり、いわゆる組織浸透につながっていきました。

あの時メンバーから提案を受けていなかったら、anyのMVVは決まっていなかったし、その後決まったとしてもこれだけ多くの人から共感を得るものにはなってなかったかもしれません。
経営者として駆け出しの自分を救ってくれたのは、仲間からの何気ない提案からでした。

全てを変えた価格改定プロジェクト

今やbizサイドを統括している木村武雄が入社して一番始めに着手した大きなプロジェクトが、「価格改定プロジェクト」
その名の通り、Qastのプライシング(料金体系)変更を行ったわけですが、それだけではありません。
利用規約変更、契約の完全電子化、契約期間の見直し(月初スタート月末締めに揃える移行、これが意外と大変)、月契約の原則廃止、クレジットカード決済の廃止を同時に行いました。
連絡がつく既存顧客に対しては、全てに再度契約を巻き直しました。結果的に完全移行まで約1年半に渡る壮大なプロジェクトです。

なぜここまで大掛かりな改修を行ったかと言うと、顧客層の変換に伴い、それまでの契約プロセスが将来的に破綻することが目に見えていたためです。
リリース当初は、基本的にセルフサーブでのビジネスモデルを想定しており、無料でトライアルを始めて継続して使う場合はクレジットカードの登録があれば契約とみなす方法を取っていましたが、2020年夏頃から明確にターゲット顧客を大企業にシフトし、CSのコンサルティングを強みとしてARPAを上げていく戦略を取り始めました。
するとクレジットカードで決済する新規顧客はほぼ皆無になり(その割に保守に関わる工数は膨大)、スモールスタートではなく最低1年の期間の中でしっかりとオンボーディングを進めたい意向の顧客が増えました。

上場を見据えた契約期間の観点からも、トライアル30日→31日目から有料契約になり月を跨いだ契約期間になるよりも、キレイに月初スタート月末締めにしていた方が後々の経理的な管理工数が大幅に削減できることが、木村武雄の助言から明るみになってきました。

CSだけでなく開発、法務、経理、マーケティング、セールス全てに関わるアップデートをまだ人数10人以下のこの時期に完了できたことは、今後の事業成長の足かせを取り除く観点で重要なターニングポイントの一つとなりました。

顧客層の変更に伴う最適な契約管理は、後の負の遺産を残さないために重要で、これを先導してくれたのはSaaS経験豊富なメンバー・木村武雄の存在です。

「正直、ゼロから作り直したいです」

一難去ってまた一難。
この言葉が本当にふさわしいのがスタートアップです。
顧客ターゲットが変わり、価格改定を行ったところで今度は開発チームでの拡張性が課題となりました。

「正直、Qastをゼロから作り直したいです」

これは今やanyのテックリード的な立ち位置で活躍している高い技術力を誇るエンジニア、かーりーから言われた一言。
立場に関係なく物怖じせず発言できることが強みであるかーりーの心の声が直接的な意見となり、社内は少しざわつきました。

何が起きてたかと言うと、リリース時のQastはとにかくスピードを意識しすぎたあまり、内部の構造がとにかく複雑で、新機能を一つ追加するにも影響範囲が膨大で考慮事項が増え続け、新機能開発のボトルネックとなり、さらにはユーザーが利用する環境でパフォーマンス低下が発生する状態となっていたのです。

売れるか売れないか全くわからないリリース初期の段階で、どこまで将来の拡張性を考慮するかについては、非常にクリティカルな問題で各社最適解を模索していることだと思いますが、この問題が社内でも顕在化されてきました。

限られた人数で開発を行うスタートアップにとって、ゼロから作り直すことによって得られるものもあれば、新機能や顧客からのリクエスト開発が止まってしまうのは致命的なリスクです。
結果的に、定常的なリファクタリング期間を設けながら徐々に過去のコード整理を行うことに決まりました。
たらればを言えるならば、リリース前に顧客層が大企業に広がる可能性や将来的に新機能開発をどれぐらいのスピード感で行いたいかについて、当時のエンジニアと深くディスカッションを行っていれば、防げたかもしれません。

まだ完全に解決しきった状態ではないですが、開発の根本を変えうる提案を行ってくれたのは、稀有な技術力をもつエンジニア・かーりーによるものでした。

諦めかけたプレシリーズA資金調達

今回はシリーズAとして4.5億円の資金調達を完了しましたが、約1年前にはプレシリーズAラウンドで総額1.5億円の資金調達を完了しています。
一見、順風満帆に来ているようにも見えますが、実は前回の資金調達は非常に苦戦しました。

資金調達は、いわゆる「リード投資家」が決まるまでが一つの勝負です。
リード投資家とは、当ラウンドにおいて最大金額を投資してくれて、契約条件は基本的にこのリード投資家と詰めていくことになります。
国内の投資家の母数自体は年々増えていることもあり、「リードが決まればフォローも決まる」と言っても過言ではありません。

そんな中、前回ラウンドはとにかくこのリード投資家が決まるまでが苦戦しました。
ランウェイ(キャッシュが尽きるまでの残存期間)は残り3ヶ月というタイミングで、最も投資を受けたいと思っていた投資家から「現時点では投資の意思決定ができない」と言われた時は、まさに目の前が真っ暗になりました。
最悪の事態が頭をよぎる中で、現取締役の波多野、現執行役員の木村・清水に現況を伝えるのはかなり億劫で、超ワーストケースを考えると転職を考えられても仕方ないと思っていました。

とは言えこういう状況こそ早めに伝えるべきだと考えて3人それぞれに重い腰を上げて伝えたところ、3人とも一切迷うことなく「自分に何かできることはないですかね?」と全く諦めずに解決策を模索する姿勢で答えてくれました。

その瞬間に改めて、このまま諦めるわけにはいかない、ここで終わらせるわけにはいかないと、再度期待する投資家へ条件を交渉することを決めました。
結果的に、その諦めない姿勢が認められてか、交渉後の条件で投資を受けることができました。
この時リード投資をしてくれたのは、知る人ぞ知るB2Bに特化したVCであるArchetype Ventures
今や「アーキさんなしではanyのこれまでの成長はない」と言えるほど、密なコミュニケーションを取りながら鋭い視点と豊富な知見で様々なアドバイスをいただいています。
(※個人的にSaaS業界で起業している方は、一度は会ってお話することを強くオススメします)

「もうダメだ」と一瞬頭をよぎったとき、最後一踏ん張りする力を与えてくれたのは、文字通り背中を預けられる仲間からの言葉でした。

IVS Launchpadの入賞

2021年夏、シリーズAの調達を意識し始めたことや、Qastをより多くのユーザーに知ってもらいたいという想いから、それまでどちらかと言うと避けていたピッチバトルに出ることを決意しました。

最初にチャレンジしたのは、国内三大イベントの一つであるICC
投資家であるHENNGEさんからの紹介でご縁をいただき、ICCとして初のSaaSに特化したSaaSカタパルトに出場しました。

今やanyのHR/ブランディングを統括する執行役員であり、プライベートでは音楽フェス「」を運営するプロデューサー清水隆太氏と、雑誌Tarzanのグラフィックデザイナーであるデザインパートナー青松氏と共に万全の準備をしたつもりで挑んだ初のピッチバトル。

結果は・・・

惨敗。。。

8社中上位3社以内の入賞はならず、非常に悔しい結果となりました。

あまりにも悔しすぎたので、上位に入賞した企業のピッチを動画で何度も見て構成を書き起こし、自分に何が足りなかったのかを徹底的に洗い出しました。
課題と解決策は明確になったので、リベンジを誓って早速次に開催されるIVS Launchpadに申込むことに。
このIVSはそもそも本大会に出場するまでに、書類選考、一次選考、二次選考、最終選考を勝ち上がらなければなりません。
蓋を空けてみると応募総数150社の中から14社のみが勝ち上がれる狭き門でしたが、ICCの反省の甲斐あってか、結果的に本戦に出場することが決まりました。

プロジェクトチームはICCと同じ3人で、ICCの準備と比べて10倍は入念な準備を重ねました。(審査員の傾向調査、ピッチの構成/ストーリー設計、デザインの細部調整、一言一句にこだわったスクリプト、声の高さ、間のとり方、100回の練習etc…)

ピッチバトルに出場する当初の目的は、投資家とのネットワーキングとQastの認知度向上でしたが、この頃は正直思うように事業が伸びていませんでした。
メンバーも疲弊して、自信を失っていたかもしれません。
その社内の空気を打破するためにも、IVSはanyメンバーのために勝ちたかった。
日本を代表する審査員に認められて、優勝して、社内のモメンタムを取り戻すことが、徹底して準備をやりきった一番の理由です。

持てる力を出し切って、最善の準備をして挑んだIVS。
結果は・・・



14社中なんとか5位に入賞することができました。

IVS LAUNCHPAD2021で入賞後のスピーチ

正直、本気で優勝を狙いに行っていただけに、嬉しさよりも悔しさが圧倒的に上回っていましたが、今たらればを言えるとしてもやり残したことはありません。
そして何より、anyメンバー全員が業務そっちのけで応援してくれて、150社中の5位を誇れる結果として受け止めてくれたことで、一番の目的は少しは果たせたと思います。

ICC→IVSの一連のプロジェクトによって、
「誰のために自分の力を使うのが一番力を発揮できるのか」
を学んだピッチイベントでした。
(※ちなみに今回シリーズAのリード投資を務めてくれたDIMENSIONさんは、このIVSを見て一番最初に連絡をくれた投資家です。つまり、資金調達にもつながりました!)

anyのこれから

まだまだ道半ばでこれまでを振り返るのは、少し早すぎるとは思いつつ、スタートアップのリアルを、anyのリアルを少しでも感じていただけたら嬉しいです。

繰り返しになりますが、スタートアップは毎日どこかで火事が起きます。
小規模な火事もあれば、大規模な火事も。
これを一人で消化することは、ある種早い段階から諦めました。
anyには、背中を預けられる本物の仲間がいる。
だからここまで登ってこれた。
この感謝と哲学は、今後も変わることなく貫き通したいと思います。


さて、今後のanyはと言うと、今回の調達資金を活かして、また新たな大きな山を登ろうとしています。

anyのたった一つの事業であるQastを通して我々が実現したいのは、
「一人一人のナレッジを、組織の力に」

このミッションに共感してくれる人は多い一方で、
「できれば理想だけどやる人がいない」「社内の文化を変えるのは難しい」「どうすれば社内に浸透する?」「既存ツールでできるのでは?」
これまで数百回はいただいたお言葉です。

たしかにナレッジマネジメントという領域は、30年前からあるにも関わらず、未だ「これ」といった解が存在しません。
だからこそ、そこに向き合い、解決することに大きな意義があると思うのです。
まだまだ乗り越えないといけない壁は多いですが、これまで累計5,000社の顧客の声を聞き続けた結果、ようやくナレッジマネジメントの本質にたどり着いたはず。

あとはこれをカタチにする。
そして「Qastを30年間解がなかったナレッジマネジメントの最適解にする」
これが次に登る山です。

そのためには、まだまだ仲間の数(全職種)が足りません。
本記事をここまで読んでいただいて、どこかに共感していただいた方、チームで何かを成し遂げたい方、まずは一度話しましょう!

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吉田へのご連絡はこちら
anyのことをもう少し詳しく知りたい方はこちら
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今回の資金調達のキービジュアル

締切間近!!【any採用イベント】スタートアップで「観」える、自分らしいキャリアづくり

この度、anyで初の採用イベントを行います!
転職活動を行おうと思っても、今後の自分のキャリアに迷いを感じることはありませんか?
自分の良さはなんだろう、自分の想いはどこにあるだろう…
そんな迷いを、anyのメンバーと一緒に考える時間になればと思っております。

ぜひ、下記URLよりご登録ください!

■日時:2022/09/16 (金) 19:00 - 21:00 JST
■場所:東京都千代田区神田錦町2-2-1 KANDA SQUARE 11F WeWork内
参加費:無料
▼詳細はこちら
https://anyevent0916.peatix.com

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