ハノイ工科大学のIT学部で行っている日本語教育(HEDSPI)について
今日は弊社のベトナムにおける教育事業について書きます。
ベトナムのハノイ工科大学、ベトナム国家大学ハノイ校技術工科大学、ダナン工科大学、ベトナム国家大学ホーチミン校情報通信大学のIT学部で日本語を教えています。入学時から卒業するまで約600時間の日本語の授業を行います。約35名の日本語教師がフルタイムで大学に常駐し教育を行っています。
教育事業をやる目的については先日の記事で書きましたが、ガチの本気でベトナムのIT人材の底上げに貢献していると思っています。
ハノイ工科大にはHEDSPIというIT学部で日本語を勉強するコースがあります。もともとは2006年から2014年まで日本のODAプロジェクトとしてJICA(独立行政法人国際協力機構)によって運営されていました。
このHEDSPIは素晴らしいプロジェクトで、ベトナムのトップ大学であるハノイ工科大IT学部の学生に日本語を勉強してもらって日本企業に就職してもらおうというものです。
1〜3年次は日本語を勉強してN3取得を目指します。4、5年次は日本語でITを勉強します。日本語でIT日本語を教えるのは日本人エンジニアが教師をします。
2014年にJICAのプロジェクト期間が終了し、日本から派遣されていた日本人教師が帰国後に大学は日本人教師の確保(特にIT日本語教師)に苦労していました。大学関係者はハノイにある日系IT企業に日本人エンジニアをフルタイムで大学の講師として派遣をしてくれないかと打診していました。
僕も大学から相談を受けたときは日本人エンジニアをフルタイムでボランティア派遣するかどうか悩みました。当時、多くのプロジェクトが日本人エンジニアに大きく依存していましたし、社内のベトナム人エンジニアを教育する役割もありました。大学の教育よりも社内エンジニアの教育が優先度が高いので、平日フルタイムでの講師としての派遣は難しいと感じていました。
しかし、ハノイ工科大学はなかなか日本人エンジニアのボランティア教師を見つけることができずに苦労しているようでした。
そんなとき、大学からボランティア教師も資金も研究用のスマホもタブレットも無償提供する会社が現れたと聞きました。その会社は韓国の大手スマホメーカーで日本語のかわりに韓国語を教えて欲しいという条件だったそうです。大学も悩んでいるようでした。今まで日本語を勉強してきた学生にいきなり韓国語勉強させるのはかわいそうだと。
これを聞いてまた悩みました。このプロジェクトを止めてしまうのはもったいない。せっかくベトナムのトップ頭脳が日本語とITを勉強してくれているのだから続けたい。
社内でも何度も話し合いました。
結果、開発現場から「現場は大変になるだろうけど、やろう。」という決断をしてくれました。
という流れで当時フランジア・ベトナムのCTOだった本間くんが教師として大学に行ってくれることになりました。残った現場を現CEOの泰平くんがみることになりました。今考えてもクレイジーな決断だったと思います。
本間くんは当時30代前半で7才からプログラミングをしているというキャリア二十数年のバリバリの若手エンジニア。間違いなく世界のどこでも通用するグローバルレベルのエンジニアです。最新の技術やIT動向を授業に取り入れてあっという間に人気授業になりました。これでIT日本語の授業のめどはつきました。
一般日本語の授業も問題がありました。JICAが派遣してくれていた先生が授業を行っているころはレベルが高いと言われていたのですが、JICAのプロジェクトが終わってからは大学が日本を教師を独自に採用して授業を行っていました。
JICAが支援していた時代は経験豊富な日本語教師が日本人8名とベトナム人も8名くらいいました。
しかし、JICAが去った後は大学の予算の関係でほとんどがパートタイムのベトナム人教師になってしまっていました。経験も豊富とは言えない方多かったのです。1〜3年生で勉強する一般日本語のクラスを改善しないと4年生になってから日本語でITクラスに参加しても理解することができません。
そこで、ここもうちでサポートさせてもらうことにしました。大学の正規の給料が優秀な日本語教師を採用するのに足りていないことが問題だったので、うちが給料をアドオンで支払うことでパートタイムではなくフルタイムの日本人や経験豊富なベトナム人教師を雇用して大学に派遣しました。
これで日本語の授業の質も徐々に上がってきました。
しかし、日本人エンジニアと日本語教師を大学に派遣することでコストが予想以上にかかってしまい事業運営に影響するレベルの金額になってました。
そこで社内でどうするかを検討した結果、育成した日本語が話せるIT学部の学生を日本のIT企業に紹介するジョブフェアを開催して参加料や成功報酬を日本企業からいただいてその収益を教師の給料に充当してみようということになりジョブフェアを開催しました。
なので、みなさんにお願いです。ハノイ工科大には日本語が話せるエンジニア学生がいますが、採用したい場合はハノイ工科大の公式ジョブフェア(公式ジョブフェアは弊社が運営委託を受けているもののみです)に参加して採用してください。公式ジョブフェア以外にも非公式なジョブフェアもありますが、そちらに参加していただいたもHEDSPIの運営費にはなりません。非公式ジョブフェアの売上は勝手にジョブフェアを開催して教育にコストを払っていない人材会社の利益になるだけです。
非公式ジョブフェアに参加してハノイ工科大の日本語IT人材を採用してしまうとこの事業が継続できなくなってしまいます。 m(_ _)m
最初のジョブフェアでの内定者は15人でした。全然教育事業のコストをまかなえる金額になりませんでした。
現在はようやくジョブフェアの収益と教育事業の運営コストがトントンになるレベルになっています。
ジョブフェアの内定者数を上げるために教育の質を高めることと同時に行ったことがあります。
それは学生のモチベーション・マネジメントです。
新入生は大学に入学するとどうしても受験から解放された気持ちで授業に身が入らなくなったりします。(僕も身に覚えがありまくりですw)
特にHEDSPIの学生はITの授業に加えて日本語の授業があるので朝早くから夕方遅くまで授業があるので、だんだん日本語の授業に来なくなる学生も増えてました。
この問題を解決するためにモチベーションアップセミナーを定期的に開催します。日本就職のメリット、給料格差、日本で身につけられるスキル、帰国後のキャリアパスなどの説明をして、メリットを具体的に数値にして理解して将来をイメージさせることが重要です。
内定をもらった学生との交流、日本で就職している学生のビデオメッセージ、卒業生との交流などを企画します。また日本文化に興味を持ってもらうようなイベントも定期的に開催していきます。
このモチベーション・マネジメントを行っている専属チームが社内にあります。タレント・コンサルティング・チームというのですが、ここは帰国子女を含め日本語N1を持っていて優秀なベトナム人が十数人いて、学生のマネジメントを行っています。
日本語が上手いだけでなく、日本人の仕事に対するマインドや責任感、日系企業が新人に何を求めているのかをよく理解し日本語教師チームと上手く連携しながら学生が日本語とITの勉強からドロップアウトしないようにマネジメントしています。
ジョブフェア参加クライアント様から素晴らしい運営だったとよく褒めていただくのは、責任感の強い彼女たちの頑張りのおかげです。
日本語教師もこのプロジェクトの日本語教育は日本語学校の教師とは違って理系学生を対象に行います。目的も違います。
日本語学校であれば、良い日本語教育を提供できればそれで目的は達成ですが、このプロジェクトでは目的は日本のIT企業に就職して活躍できるエンジニアを育てることです。
日本で仕事する上で必要なスキルやマインドも一緒に教える必要があります。遅刻や約束に厳しくする必要があります。
目標は学生がJLPTでN2、N1を取得することではなく、内定を取ることでもなく、学生が卒業し日本でエンジニアとして活躍することです。
そんな今までになかった教育をベトナムのトップレベルの大学でチャレンジしています。
ハノイ工科大のこのHEDSPIの取り組みを2016年からはベトナム国家大学ハノイ校とダナン工科大のIT学部でも取り組んでいます。
こちらのプロジェクトは経産省から予算をいただいて取り組んでいます。
このプロジェクトの難点は教育を開始してもジョブフェアを開催できるのは4年次なので、それまでは教育費用をすべて持ち出しで行わないといけません。そこで最初の3年分を予算としていただきました。4年目からはジョブフェアで運営費をまかなえます(ちゃんとそのレベルまで育ってくれれば、ですがw)
このプロジェクトは日本の高度人材不足をベトナムのトップ大学の学生に日本語を覚えてもらい日本に送り出すという方法で解決します。
さらに、日本に就職した学生の多くは5年から10年日本で仕事をしたあとにベトナムに帰国する事が多いので、日本の技術を学んだ人材がベトナムに帰国して独立したり、日本企業の現地法人代表になることで技術をベトナムで役立てることができます。
実習生制度よりもよほど効果の高い技術を習得できます。
日本政府も安く外国人を雇用する隠れ蓑に利用されている技能実習生制度を見直して技能・技術を教えるのに適した制度と労働者として外国人を受け入れる制度を分けて設計してもらいたいと思います。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?