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今年の登山はじめ日記@剣山(北海道)


剣山といえば徳島の方が有名で、
十勝の剣山はかなりマイナーな山。

それでも日高山脈のなかでは、
比較的気楽に登れる山で、眺望もよく、
梯子や鎖場といったアクティビティ要素もあって、北海道の登山者にはそこそこ人気があるらしい。

しかしどんなに気楽に登れる山であっても
天候ひとつで難度が格段に高くなる。
そんな登山の恐ろしさを
まざまざと見せつけられる登山になった。


この日は早朝に帯広を出て、
登山口へと向かった。天気は晴れ。

普段の難易度高めの登山ならば、
「てんきとくらす」のようなサイトで
必ず山頂付近の天気や風などの情報を
調べてから行くのだけれど、
この日は快晴であったことに加えて
1205mの低山ということもあり、
それを怠ってしまった。

剣山はその鋭鋒の姿から、
古くから剣が祀られた信仰の山。
麓には剣山神社があり、
その境内に車を停めて登山を開始した。


いざ登り始めると、
序盤からなかなかの急登が続く。
登山道の脇には信仰の山らしく、
お地蔵様がぽつぽつと鎮座していた。

通常山というのは山頂に近づくにつれて、
徐々に傾斜が厳しくなるものだけれど、
ここは登山道が山頂に向かってまっすぐ過ぎるのか、その急登がなかなか緩まない。

少しなだらかなところや下りに来ても、
またすぐに登る。
そしてその道を、走る。
これはこれで「登山してる!」
という感じがして好きだ。

ところが山を登るにつれて、
徐々に木々の揺れる音が騒がしくなる。
森を抜け、開けた尾根に出ると
轟音とともに強烈な風が吹きつけてきた。

先にはまだ梯子や鎖場があるはずだ。
そこをこの暴風のなか登れるのだろうか…?
そんな不安を抱きながらも、
山頂へと歩を進めた。


開けた尾根から再び森へ入っていく。
山頂に近づくにつれて、
山肌には残雪が見られるようになり、
木々の揺れる音はさらに大きくなっていた。

草木の姿が絶えた瞬間、目の前に
崖とそれに架かる長い梯子が現れた。
梯子の下もまだ崖が続いていて、
踏み外せば間違いなく軽傷では済まないだろう。

しかしこの難所を越えればいよいよ山頂だ。
腹を決めて梯子を握った。
すると猛烈な風が襲ってきた。
まるで台風の日の防波堤のような
ものすごい風だ。
必死で梯子にしがみつきながら、
一段一段登っていく。

なんとか最初の長い梯子を登りきり、
その先の3つの短い梯子を登ると
最後に鎖場が現れた。
しかし鎖場はほぼ無風で難なくクリア。

あとは目の前の岩を越えるだけだ!
と思って岩に身体を預けた瞬間、
再びものすごい風が
岩から僕の身体を剥がさんとばかりに吹いた。

身を屈めて風が止むのを待った。
四拍の呼吸した頃、風が止んだので
岩の先へ進み、頂の剣を掴んだ。


やっとの思いでたどり着いた山頂。
山頂の楽しみといえば風景だが、
風があまりにも強く、
その上狭く立っていられないほどで
さらに十勝平野には薄らと靄がかかっていたので全然綺麗ではなかった。

それよりも早く無事に帰りたい…
その一心で下山を急ぐことにした。
帰りの梯子も案の定暴風で、
慎重に慎重に下を見ながら降りていく。

下はもちろん崖なので、
登りの何倍も怖く感じた。
梯子を降りると、あとは普通の下山。
安堵の気持ちでいっぱいだった。

しかし下山中も続々と登山客、
さらに団体さんまで登ってきていたので、
自分が山頂で体験した恐怖や、
登頂するか慎重に検討してほしい旨を話した。

後でその日のヤマップ(登山情報共有サイト)を開くと
登頂を諦めて引き返した話が載っていた。
無事に下山すること、それは登頂なんかより
遥かに大事なことなのだ。


今まで色んな山に登ってきたけれど、
このくらいの低い山で、
これほどの恐怖を感じたことはなかった。

下山して「てんきとくらす」を見ると
山頂の風速は20m/s、
登山指数は最低になっていた。
どう考えても登山してはいけないコンディションだったのだ。

どんな山であっても、麓が晴れていても
必ず気象情報は入念に確認しなきゃいけない。
今回はそれをこれでもかと感じた登山になった。

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