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#6 夢は世界征服 ~小学生時代(3)~

(前回の記事)アンタは橋の下で拾った子 ~小学生時代(2)~

 「自分を認めてほしい」という思いを、心の中に溜め込むことはできないので、どこかでふたを開けて思いを「解放」しないといけなかった。やっかいなことに、私の心の中にある自己承認欲求は、ただ単に「母親に自分を見てほしい」ということだけではなく、「自分の能力がいかに抜きん出ているのかを認めてほしい」ということが含まれていた。これは以前書いたように、父親とその周囲の人々による影響が大きい。

 ある日、学校の図書館で、歴史マンガを見つけた。タイトルは「織田信長」。

 皆様もご存知のとおりの、戦国武将、三英傑であるが、改めて私なりの解釈を簡潔に書かせていただくと、時代に合わない形骸化した古き慣習にはこだわらず、「いいものはいい、だめなものはだめ」「これは使えるが、これは使えない」「前置きはいいから、要点だけ簡潔に述べよ」といった感覚の持ち主の、新規開拓の得意なリーダーが、織田信長である。

 私は名古屋で生まれ育ったのだが、信長が尾張(愛知県西部)の武将ということで、まずそこで親近感を持ち、そして信長がのちの豊臣秀吉や明智光秀を見出して、どんどん出世させていくところ、「先祖代々からの重臣でなくても、抜きん出た能力さえあればしかるべき役割を与えて登用していくところ」にすごく憧れたのだ。

 「ああ、ぼくも、もっともっと認めてもらいたい。。。」

 私は、小さいころから世界の国旗と国名・首都名を覚えて、周りの大人にすごく褒められたので、地図を見るのが好きになった。その習慣と戦国時代の天下統一への道と重ね合わせて、自分の中に少しずつ、空想の世界が構築されていった。私は尾張国の大名で、有能な家来を従え、天下統一をしていく空想をするのだ。

 そして、その空想は、日本から世界へと広がっていく。学校の図書館で「伝記」の本を借りたのがきっかけだ。

 「スターリン」「ヒトラー」「毛沢東」。

 別に共産主義や全体主義に憧れたわけではない。なぜだかわからないが、読んで面白かった本だった。いわゆる「独裁者」と評されることが多い人物達であるが、この人達のしてきたことや考え方は、当時の私の心にじわじわと浸み込んできた。このことが影響したかどうかは別として、その数年後に国際政治学を専攻して、日米関係と日本の自立について研究していくことになるのだが、それはともかく、友だちも少なく、家にこもることが多かった私は、「自分が世界の支配者になる」という空想をするようになっていった。

 私はまず、日本の総理大臣となり、日本国憲法を改正して、大統領になる。この手法はワイマール憲法を改正した時のナチスドイツの手法を参考にしている。その後、軍備を増強し、経済発展に努め、頃合いを見計らって、アジア地域の統一を図る。統一というよりは力による植民地支配だ。

 ある程度のアジア支配が完了したのちには、拡大政策をいったん中止し、他地域との同盟や連合を進めていくのだが、それは友好的なものではなく、強力な軍事力と経済力を後ろ盾にしたものだ。なので従わない地域とはいずれ戦い、征服していく。そのため、最新兵器開発は不可欠で、「どんな兵器があれば戦いが有利に進められるか」、ということにも大変興味を持った。
当時、宇宙戦艦ヤマトや機動戦士ガンダムがリアルタイムで放映されていたので、私の空想の中にはそうしたアニメの中で登場する最新兵器が都合よく導入された。最終的には、ヤマトとガンダム含めたモビルスーツを主力として、世界を征服するのであった。

 「常に自分を中心に動いていく」この空想世界は、学校から帰って、宿題を済ませ、一人の時間になった後の、至福のひと時であった。

 おかげで、たくさんを本を読んだ。国語の成績はとてもよくなった。世界地図だけでなく、日本地図も頭に入った。これは大人になった時大変役に立った。当然社会の成績は良かった。

 おかげで、既存のものを改良して別のものを作り出す方法を自分で見つけることができた。これは後の私の仕事をしていくうえでの大きな財産となった。

 おかげで、「無」から「有」を作り出す方法を自分で見つけることができた。これは後に、私の独創性の礎となった。

 いろんな知識を蓄えていったことで、学校の成績は抜きん出てトップクラスとなり、担任の先生から有名私立中の受験を勧められるほどになったのだが、当時の私の家の家計ではそれは不可能なことであった。

 そのことは当時は知らなかったのだが、後から聞いて、貧困に対するコンプレックスが芽生えていき、また、「自分は特別な存在だ」という自己中心的な感覚の土台が形成されていき、そして、幼少期は尊敬の対象であった父親に対する感情が、徐々に変わっていくことになるとはこのころはまだ気づいていなかった。

                             (つづく)

(次の記事)父親に対する不信感 ~小学生時代(4)~

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