見出し画像

(32) 言霊

私たちは言葉で考える。
そして、行動に繋げている。

年が明ける頃から、毎年重い気持ちになる。正月を迎えるどころではない。ただでさえ冬期うつ症傾向もあって余計に気持ちが重い。だからと言って、そう大した事柄ではないから情けない。たかだか三月に確定申告をしなければならないことが気になってのことでしかない。幼い頃からお小遣い帳が上手に記録出来なかった。それがこの歳になっても尾を引いているのだ。毎日コツコツ記録したら何の問題も起きないのに、”明日で良いことは絶対に今日やらない”と決めているから、記録すべきことが山積みになる。源泉徴収票やら領収書、払い込んだ健康保険料、税金その他・・・いちいち整理・保存することが大の苦手なのだ。それを期限までに”やらなくては”と思うだけで気が重い。実際手を付けたら、たかだか半日程度で終わるのに、何年経ってもまるで進歩がない。

「納税は嫌だが、個人事業者としての義務だからするつもりだ。しかし、山ほどある細々とした書類が面倒であり手が付けられない。帳面を見るだけでやる気が出ない」とばかり、「やらなければならないが、嫌で嫌で仕方がない」と(言葉)と(感情)を充てるからどうにもならなくなる。当然だ。これが30年進歩なく繰り返されている。情けない。

「言葉に内在する霊力が、見えない力を持っている」証しである。”言霊”というわけだ。良くも悪くも現実に影響を与えるものである。考えても見れば単に(言葉)に過ぎないのだが、大きな影響力を持っている。
「そうか!今年も確定申告の季節が来たか。よし、半日で仕上げてすっきりするぞ!」と、(言葉)を充てたら何でもない事なのだ。簡単なことだ。しかし、出来ない。やれない。

つい先日、モハメド・アリのインタビューの様子を記した、五木寛之氏の文章を読ませて頂いた。とても興味深く拝読した。アリは改名する前はカシアス・クレイといった。ローマオリンピックのボクシングヘビー級で金メダルを獲得し、プロ入りしたボクサーだ。黒人である彼は”差別”について話をしたそうである。五木氏がお聞きになられたアリは、
「差別の問題は言葉の問題だと思う。普段使うだろう言葉が差別という意識があるのなら、決して差別はなくならない」
と、熱く語ったそうである。
「その通りだ。言葉が変わらない限り差別は無くならない」と、私は強く反応した。アリの言葉が胸に深く刺さったからだ。

刑事ドラマで〈クロ〉と言えば犯人であり、〈シロ〉と言えば潔白と決まっている。〈黒幕〉というのは悪い奴。〈白衣の天使〉と言えば人間味のある看護師さん、などと黒・白を使い分ける。(言葉)が無意識にまで深く染み込んでいる。皮膚の色についても、これだけ移民も増え様々な国の人達が友好的に混住し繋がっている今でも、”黒人”と呼び差別する。私たち日本人は黄色人種に区別され、差別を受けている。

相撲や野球、サッカーはじめスポーツ全般だが、勝ち〈白星〉、負け〈黒星〉と記録している。これもきっと、〈黒〉は悪い奴・駄目な奴という意味を持ち込みたかったのに違いない。野球の巨人・阪神戦で「残念ながら今日の試合で阪神に〈黒星〉がつきました」を、「残念ながら今日の試合で阪神に〈赤星〉がつきました」で良いじゃないかと思う。この方が面白いだろう。(何を隠そう、私は巨人ファンなのだ)〈赤星〉では「負けた」という印象を表せないとでも言いたいのだろうか?と強く思う。

”言霊”の力とはこういうものである。五木氏曰く、”言霊”とは無意識の意識と言える、と。何気なく使用してしまうが、受け継がれ受け継がれ強く定着したイメージを、(言葉)自身が生き物のように持っているのである。「生き物」と言ったのは、言葉に迷っている私たちの元へ、まるで意志を持った
生き物のようにやって来て、惑わせ、使わせてしまうぐらいの力を持っていると思うからだ。だからと言って、”言霊”は悪さをする生き物だと言っているのでは全然ない。前述の例のように、
「よし、半日で仕上げてスッキリするぞ!」
と、(言葉)を充てたら、大いにプラスに働いて、その(言葉)は現実に良い影響を与えてくれる。

このように理解してみると、(言葉)の充て方次第であることがよくわかる。となると、私たち自身の使用可能な(言葉)は多ければ多いほど良いということになる。その為には、人がどんな場面でどのような(思考)の結果(言葉)を充てているのかをよく観察して知っておく必要があるのである。人から(思考)や(言葉)、(動き)を学び続けて真似ることから始めてみる事が、楽しみながら出来ることである。

”言霊”の悪い影響を受けないで良い影響だけを受ける為に、私たちは何しろポジティブに考える習慣を身に着けることである。要はネガティブに傾いてしまう(言葉)を取り除き、ポジティブに働くであろう(言葉)と差し替えることである。あとは自然とポジティブに思考が始まると思う。あなたの日々が激変するはずである。

参考文献
週刊新潮 2020年5月5・12日号  五木寛之「生き抜くヒント!」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?