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【短編選集】ここは、ご褒美の場所

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どんな場所です?ここは。ご褒美の場所。
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【短編選集 ‡3】電脳病毒 #85_276

 劉は周りを見回す。玻璃戸で仕切られた部屋。そこに、月明かりが差し込んでいる。  劉は静かに部屋に入る。事務机の上に腰を下ろし、机の上を眺める。そこには「労働日報」という報紙。それを手に取り、月明かりの下に置き劉は読み始める。 『新政府組閣人事決まる。昨夜、新政府は組閣人事を発表した。革命臨時政府は新政府人事として陶党首を長に国務大臣は×××、情報通信相には徐進達氏・・・が任命された。臨時革命政府は新政府へ速やかに移行し、旧政府の犯した開放経済政策に伴う悪弊の根絶に早急な対処

【短編選集 ‡3】電脳病毒 #84_275

 劉は当てもなく歩き始める。月の傾く反対の方角を目指し。草むらを抜け、砂利道に出る。劉は道の両端を見渡す。双方から、車の来る気配はない。  砂利道を暫く歩く。暗がりの前方に大きな建物の影。門に近づき看板を間近に見る。硫鉛化学公司とようやく読める。門から中を覗く。入口は戸板で封鎖されている。廃工場なのだろう。  周りを見回す。人気はない。金網を乗り越え敷地に。梱包されたまま物資が、堆く積み重ねられている。工場の母屋に近づき、中を覗く。真っ暗だ。当然、何も見えない。工場は最近閉鎖

【短編選集 ‡3】電脳病毒 #83_274

 蘭は電脳の画面を覗き見ながら七喜《セブンアップ》のプルトップを上げる。 「網絡に繋ごうと。やっぱりだめだ。徐は網絡を押さえてる」 「徐って誰?網絡って?」蘭は相変わらず画面を覗いている。 「徐は黒客《ハッカー》。網絡はデータが流れる路さ」 「ふうん。おい見ろよ。何か出てきたぜ」蘭は七喜《セブンアップ》を咽喉に流し込む。 「何?」薫陶は画面を見入る。    劉は目を覚ます。夜露に濡れ、冷えた体を身震いさせ。そこはどこかの草むらだ。劉は思い出せない。トラックを飛び降り、どうやっ

【短編選集 ‡3】電脳病毒 #82_273

 耐克《ナイキ》や美林公司《トイザラス》。お馴染みののマークが目に入る。 「今まで何やってたんだ?お前」 「ただの流浪児童《浮浪児》。別名、盗賊ってやつ。腹減ってないか?飯、食うか」蘭は目指す梱包を開ける。食糧を取りだし、広げてみせる。 「たんまりある。お菓子、お粥に缶詰、それに洋水《外国製清涼飲料水》も」蘭は調理ランプに火を点ける。 「うん」薫陶は興味なさそうに答え、部屋の中を見回す。筆記本電脳《ノートパソコン》の箱を見つける。 「使ってもいい?それに手機《携帯電話器》ある

【短編選集 ‡3】電脳病毒 #81_272

 歩くうち、夜が明けてくる。自分がどこにいるのか、劉には見当も付かない。そこは荒れた土地が延々と続く、見捨てられた場所。  陽が高くなる。熱気が蜃気楼のように立ち上る。劉は空腹を堪えながら、当て所もなく歩き続ける。やがて、力尽きて倒れるまで。    薫陶と蘭は施設を抜け出し、誰もいない市街地へ。 「もうすぐ俺の隠れ家だ」と、蘭。  蘭の後を追い、薫陶は路地を彷徨う。人気のない路地には、塵芥が吹き溜まっている。例のビラが至る所に貼られている。 「ここだ」路地裏で佇み、蘭は辺りを

【短編選集 ‡3】電脳病毒 #80_271

「それに従ってるわけ?おとなしく」 「ああ、何せこの国のトップ、教祖様だからな。それを信じる親なんか、ありがたがって仕方がない。ガキの食い扶持、気にしなくても済むし。前の政府の一人っ子政策なんか、誰も守ってなかったからな。食いものをあてがうのも大変だった。今度は国が数多《あまた》のガキの面倒みてくれる。らしい」 「成功したのか・・・。革命は」 「どうせ、そのうちに倒れる。この国の倣《なら》いだ」 「倣い?」 「歴史は繰り返す。それで、逃げるだろう?お前も」 「ああ」薫陶は頷く

【短編選集 ‡3】電脳病毒 #79_270

「揺頭丸《エクスタシー》でも海洛因《ヘロイン》、氷毒《メチルアンフェタミン》や可因《コカイン》でも。なけりゃ大麻だっていいぜ」と少年は続ける。 「持ってない!」 「そっちに降りてもいいか?寝てないだろう?」 「ああ」 「俺、蘭っていうんだ。よろしくな」薫陶の寝台の横。少年は腰を下ろす。 「うん」 「元気ないな。名は?」 「薫陶」 「どこから来た?」 「遠く。あんたは?」 「戒毒所《麻薬更正所》からさ。販毒《麻薬密売》で捕まった」 「ここは何処?」 「幼年学校さ」 「何だ、それ

【短編選集 ‡3】電脳病毒 #78_269

 夕闇が迫っている。トラックは止まる気配もなく走り続ける。やがて、夜風が身にしみてくる。劉は気づく。無くしたのか盗られたのか、短上着《ジャケット》を着ていない。  月が真上に来ている。もう夜中だ。相乗り客は膝を抱えて眠り込んでいる。警備の兵士達も銃を抱きうつらうつらしている。トラックがカーブにさしかかり減速する。にわかに立ち上がり、劉は天蓋の骨組みの隙間から道路に身を投じる。   二段床の下。薫陶は眼を開けたままでいる。港で昏倒した劉から離され、薫陶はこの施設に。ここは少管所

【短編選集 ‡3】電脳病毒 #77_268

 狼狗《シェパード》を携えた一人の兵士が機槍《機関銃》を構えて立ちはだかる。 「立て」狼狗《シェパード》は唸り、兵士は銃先を二人に向ける。二人、ゆっくり立ち上がる。 「どこへ行くつもりだ?」兵士は劉の肩を銃先でこずく。  咄嗟に銃先を掴み、劉は兵士を押し倒しす。倒れた兵士は短銃を抜き、両手で劉に狙いをつける。劉は掴んだ銃先を離す。兵士は立ち上がり銃を拾うと、銃座で劉を殴りつけう。劉はその場に倒れ込み、意識が遠のいていく。狼狗《シェパード》の唸り声だけが耳に残る。  トラックの

【短編選集 ‡3】電脳病毒 #76_267

「これから、どうしたら?僕も劉さんも徐からしたら敵だから」 「そうだな・・・」 「この国、出るしかない」 「どうやって?」 「当然、空港は閉鎖されている。港まで行くしかない。船を見つければ、漂流したって隣の国に辿り着ける」 「逞しいな」劉はニヤリと笑う。 「もう子供じゃないさ」  二人、路地裏に身を潜めながら港へ向かう。港へ通じる道路は全て鉄条網で封鎖されている。兵士が配置され、二人は路地裏から様子を窺う。 「無理そうだね」 「ああ」  二人、気が抜けたように道端にしゃがみ込

【短編選集 ‡3】電脳病毒 #75_266

 至る所で自動車が放置され、家財道具の残骸が道に散らばっている。住民は何かに追われ逃げ惑ったようだ。倉儲超市《大規模スーパーマーケット》の壁面。弾痕の跡が残っている。高楼の壁には、至る所で赤い張り紙。 「見ろよ」劉は張り紙を外し薫陶と見入る。 「都市部の住人は、すべからく農村部へ移住すべし。従わない者は収容所に収監される。下放の始まりか。柬埔寨《カンボジア》、クメールルージュのやり口と同じだ」  地鳴り。覆帯《キャタピラ》の動く音が響いてくる。 「坦克《戦車》か?」  二人、

【短編選集 ‡3】電脳病毒 #74_265

「ここは、もともと偽装だった。台式計算机はただのモックアップだし」 「ああ、一眼でわかった。型式が古過ぎた。何のためにこの会社を?」 「気功集団のトンネル会社の一つ。ただの三無企業《ペーパーカンパニー》だよ」 十三 流浪児童《浮浪児》  二人は外へ。辺りの倉庫街は静まり返っている。地鉄駅まで来るが、駅のシャッターは降りたままだ。 「人っ子一人いない」劉は衣兜《胸ポケット》の手機《携帯電話器》をまさぐる。 「強制疎開させられた」 「強制疎開?」 「都市の人口を減らすために。政