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【短編選集 ‡3】電脳病毒 #84_275

 劉は当てもなく歩き始める。月の傾く反対の方角を目指し。草むらを抜け、砂利道に出る。劉は道の両端を見渡す。双方から、車の来る気配はない。
 砂利道を暫く歩く。暗がりの前方に大きな建物の影。門に近づき看板を間近に見る。硫鉛化学公司とようやく読める。門から中を覗く。入口は戸板で封鎖されている。廃工場なのだろう。
 周りを見回す。人気はない。金網を乗り越え敷地に。梱包されたまま物資が、堆く積み重ねられている。工場の母屋に近づき、中を覗く。真っ暗だ。当然、何も見えない。工場は最近閉鎖されたらしい。周囲を回っても玻璃《ガラス》窓一枚割れてはいない。敷地の隅から割れた混擬土片を見つけ、窓に投げつけてみる。劉はサッと身を隠す。暫くじっとしている。人の気配は感じない。劉は窓を開け母屋の中へ。何かの刺激臭が劉の鼻を突く。長年染みついた臭いなのだ。


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