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【短編選集】ここは、ご褒美の場所

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どんな場所です?ここは。ご褒美の場所。
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2022年2月の記事一覧

仮想遊園地 #77_93

「長話しはやめにしよう。そろそろ、工場に戻らないとな。あのガキと、おまえをプールに叩き込んでやる」

仮想遊園地 #76_92

「あんた、一体・・・」 「だが、その国は貧乏国で金がないときてる。それで取引だ。燃料は先渡してやる。その代わり、死骸の山をごっそりいただく。それで燃料を増産して、他の国にも供給してやる。現物交換の繰り返し。回転取引っていうやつ」 「あんた、狂ってる」 「ああ、昔から狂った人間が世の中を回してる。これから原料は無限に手に入る。もう、一人や二人の死体なんて目じゃない。おまえも、工場のプールで泳ぎたいみたいだな」太気は椎衣に飛びかかる。 「あんたも、利用されてるだけだよ。あ

仮想遊園地 #75_91

「それは気の毒なことをした。てっきりおまえかと思ったよ。妹なんかいたんだな」 「妹だけじゃない。太気、あんた何してるのか、わかってるの?」 「国家事業に貢献できて嬉しい限りさ。病人や年寄り待ってても調達が追いつかない。だから、自分の手を汚してまでして燃料増産に一役かってるわけだ」 「何言ってるの?」 「知ってるよな。昔、戦争ってものがあったこと。ここんところ、大がかりな戦争ってできないんだ。燃料がないからさ。戦闘機も飛ばせないし、戦車も走らない。軍艦も動かない。ある国

仮想遊園地 #74_90

 少年が頭からタンクの中へ墜ちて行く。タンクの中で鈍い音が響く。少年の呻き声が穴の中から洩れてくる。 「おまえが替わりだ。暫く、そこにいな」太気は鉄蓋を閉める。 「あぶらかたぶら つぎのあぶらは どちらのおかた ぶらぶらしてるやつ あぶらにするぞ あぶらかたぶら・・・」太気は鉄蓋の上を交互に飛び跳ねていく。何かの童謡を呪文のように唄いながら。 「太気!」椎衣が叫ぶ。 「どうした。こんなところで」声に反応して、太気がゆっくり振り向く。 「あんただったんだね」 「何?」

仮想遊園地 #73_89

⌘三十二 給油所  貨物車のライトに給油所の看板が照らされる。自転車を道端に止め、椎衣は給油所に向かって歩きだす。給油機の影に隠れ椎衣は中を窺う。三人目の少年が貨物車の横に立ち何かを話している。運転席にいる人物の顔は見えない。 「今日は何体だ?」 「さっき三つ目やってたけど」 「その前の二つは?」 「さあ?知らせてこいって言われただけ」 「自分で確かめろ」  車のドアが急に開く。ドアに当たり少年は地面に倒れる。 「なにすんだよ!」  「行けよ!」車から降りてき

仮想遊園地 #72_87-88

⁂三十一 KIKAWADA  男が、その崩れ去ろうとしている壁を眺めている。壁を支えた支柱がドミノ倒しのように倒れ、その支柱に挟まれた壁が波が引くように崩れている。  全ての壁が一気に崩れ、舞い上がった土埃を風が吹き払う。壁が崩れた瓦礫の上に、錆びた線路が捻れて横たわっている。  今まで描かれた壁の絵を、男は記憶の中から呼び起こす。その絵を一枚一枚コマ送りに動かしてみる。静止画から動画に変化した映像。壁に描かれた色彩の中に、男は隠された記号を見いだす。来るべき未来の物語が、そ

仮想遊園地 #71_87

熱を帯びた瓶を、椎衣は右手で掴む。道を塞ぐように、少年達は自転車を横倒しに止める。二人は、椎衣に向かって駆けだすしてくる。  椎衣は自転車を止め、瓶を二人に向けて投げつける。瓶は少年達の頭上を通過し、横倒しになった自転車の間に落下する。 「俺たちに当てようと・・・」一人目が呟く。  落ちた瓶が割れ、一瞬にして地面に焔が拡がる。背後の炎に驚いて振り返る二人。その間をすり抜けるように、椎衣は自転車を駆る。

仮想遊園地 #70_86

 自転車の荷篭を椎衣は音を立てず外す。車体をかかえゆっくり歩きだす。奥にある裏門を、椎衣は静かに抜けようとしている。 「いたぞ、あそこだ!」  椎衣は自転車に跨り、奥へ走り込む。自転車に跨ったまま、椎衣は物陰に隠れる。周りにはポリタンクが捨てられている。自転車を静かに横倒す。ポリタンクを持ち上げ、椎衣は鼻を近づける。空き瓶をみつけ、椎衣は僅かに残った燃料をポリタンクから注ぎ始める。  瓶の半分まで燃料が溜まると、椎衣はぼろ切れを丸め瓶の口を塞ぐ。自転車を起こしその瓶を自

砂絵 #70_85

  椎衣はハンドルを握り締めたまま、ゆっくり自転車を降りる。やにわに椎衣はハンドルを掴んだまま、自転車の車体を振り回す。一人目に自転車の後輪が当たり、鈍い音を立てる。二人目にも椎衣は自転車を振り回す。二人がひるむ隙に椎衣は自転車に跨る。一人目が飛びかかる前、椎衣はペダルを強く漕ぎだす。 「追いかけろ!」一人目が叫ぶ。  椎衣は後ろを振り返る。少年達二人が態勢を立て直し追いかけてくる。椎衣の自転車は海岸道から逸れ街に入る。  街路、夜。人影もない街路、椎衣の自転車が飛び去

砂絵 #69_84

⌘三十 三つ目  海岸道、夕方。自転車を急がせる椎衣。教えられた給油所を目指している。自転車が数台、椎衣を追いかけている。すぐに、椎衣は彼らに取り囲まれる。 「何なの?」取り囲んだ少年達三人の顔を椎衣は睨め付ける。 「降りなよ。おねえさん」一人が言う。 「邪魔しないで」椎衣は自転車に跨ったまま動かない。 「游の奴、こんな女にやられたのか?泣き入るくらいに。だらしねえ」別の一人が言う。少年達は顔を見合ってニヤつく。 「知らせてこい」最初の一人が三人目に言う。 「三

砂絵 #68_83

⁂二十九 コード  何かに急かされるように、木川田は無心でコードを打ち込んでいる。

砂絵 #67_83

「笑わせないで。どこに運んだ?手を掛けた女の人を」 「給油所。空の燃料タンクに落として」游は顔を上げる。 「その後は?」 「知らせに気づくと誰かが回収にくる」 「誰か?」 「知らない」

砂絵 #66_83

 椎衣は鉄パイプを振り上げる。ユウのナイフを掴んだ右手に躊躇なく振り降ろす。ユウは叫び声を上げナイフを離す。体をねじ曲げ椎衣を睨む。仰向けになったユウの喉元。そこに、椎衣は鉄パイプの先を押し付ける。 「痛いよ」ユウは甘えたように呟く。  椎衣はユウの喉元から鉄パイプをずらす。ユウは左手でパイプを掴むと、杖代わりにして勢いよく起き上がる。ナイフを拾い上げると、それを椎衣に向かって突き立てる。椎衣がとっさに身をかわすと、ユウのナイフが椎衣の脇腹をかすめる。椎衣は鉄パイプを

砂絵 #65_82

「それより、少し楽しもうぜ」ユウは大人びたように口を歪めると、左手をゆっくりパイプ管から離す。 「楽しむ?」 「脱げよ。裸になれ」     「あんた何言ってるの?」 「早くしな!自慢じゃないけど、ナイフ外したことないよ」  椎衣は血の付いた掌をみる。ユウを睨むと上着の釦を外し始める。 「素直じゃないか」ユウは左手を股間に入れる。ジャージの中でそれを弄ぶ。 「おねえさん、ゆっくりでいいんだ。まだ、始まったばかり。楽しもう」小刻みに動くユウの左手が、ジャージの中で跳