見出し画像

仮想遊園地 #70_86

 自転車の荷篭を椎衣は音を立てず外す。車体をかかえゆっくり歩きだす。奥にある裏門を、椎衣は静かに抜けようとしている。 
「いたぞ、あそこだ!」
 椎衣は自転車に跨り、奥へ走り込む。自転車に跨ったまま、椎衣は物陰に隠れる。周りにはポリタンクが捨てられている。自転車を静かに横倒す。ポリタンクを持ち上げ、椎衣は鼻を近づける。空き瓶をみつけ、椎衣は僅かに残った燃料をポリタンクから注ぎ始める。
 瓶の半分まで燃料が溜まると、椎衣はぼろ切れを丸め瓶の口を塞ぐ。自転車を起こしその瓶を自転車の前篭に置きサドルに跨る。マッチをこすり手拭いの端に火を点ける。自転車のペダルを踏み込み、椎衣は少年達の待ち構える出口へ向かう。 
「来たぞ、逃がすな!」 
 左手で自転車のハンドルを握り、椎衣はサドルから腰を浮かせる。


この記事が参加している募集

#わたしの本棚

18,890件