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未来思考スイッチ#11 「経営イノベーション」は複利の効果 -後編-

#10「経営イノベーション」-前編- からの続きです)

前編(#10)では、モノからコトへ価値転換が進むと、開発のスピードや事業のプロセスが変わり、その動きに古い企業は後れを取ってしまう、という話をしました。後編では、タイトルの「経営イノベーション」、企業の底力はどこにあるのかについて、考察していきたいと思います。

イノベーションの4つの階層。

イノベーションには、いくつかの階層があります。ここでは4つの階層を紹介しながら、競争力のある企業に備わっている法則を考えてみましょう。

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「業務のイノベーション」。

「業務のイノベーション」は、業務そのものを卓越していくわけですから、一番表面的で、身近なものです。例えば、企業のITインフラは業務の質に影響を与えます。グループウェアにより、一気に効率化がなされる場合もあります。効果が目に見えやすいのも特徴です。しかし、これは他社との差別化が極めて難しい領域で、私たちが日常業務で使うソフトウェアやシステムは他社も同様のものを利用しているでしょう。また、業務をアウトソーシングしている場合、委託先は自社だけに限りません。このことから、他社に後れを取らないようにするには役に立っても、優位性をもたらすとは言えません。

「商品のイノベーション」。

商品は企業の顔です。「商品のイノベーション」は基本中の基本となります。しかし、技術進歩がますます加速する現代において、模倣されない製品はありません。一時期、優位に立っていたとしても、すぐに追いつかれ、飛び越えられることもあります。商品は利益の源泉ですが、優位性を維持するイノベーションとは言い切れません。

「戦略のイノベーション」。

それに比べ、「戦略のイノベーション」は他社を防御に回らせるような大胆なビジネスモデルを発揮できれば、大きなアドバンテージをもたらします。キラー・ビジネスモデルは、商品以上に利益をもたらす可能性も持っています。ところが、一つのビジネスモデルが発明されると、シンクタンクやコンサルタントが研究し、それをテーマに他社へ反転攻勢策を売り込みます。そして、いつしかその業界は、そのビジネスモデルがコモディティ化していくという現象をもたらします。

「経営のイノベーション」。

最後に残るのは「経営のイノベーション」です。この深い階層は、抽象的で、具体的に定義することが非常に難しいものです。しかし、だからこそ模倣がしにくいと言えます。ここで、あるアメリカの自動車メーカーが、トヨタの超効率的な製造システムを模倣しようと20年もベンチマークを続けていた例を引用してみたいと思います。(引用元:「経営の未来~マネジメントをイノベーションせよ」ゲイリー・ハメル/ビル・ブリーン著、日本経済新聞出版社、2008年)

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20年前(※1980年代と思われる)、トヨタがどれほど素晴らしいかを調査員から報告されたが、幹部はそれを信じなかった。報告にある欠陥の少なさ、作業時間の少なさで自動車がつくれるわけがないと決めつけ、トヨタが多くの重要分野でわが社より優れていると認めるのに5年かかった。

次の5年は、トヨタの優位はすべて文化(例:「和」や「根回し」)によるものだと思い込もうとした。アメリカの労働者はこうした家族主義的な慣行は決して受け入れないはずと考えていた。その後、トヨタはアメリカに工場をつくりはじめ、アメリカでも日本と同じ結果を出した。文化云々という言い訳は通用しなくなった。

次の5年間、トヨタの製造プロセスに着目した。あらゆるベンチマーキングを行ったにもかかわらず、同じ結果は得られそうになかった。トヨタの成功は、社員の能力とリーダーの責任についての全く別の原理に支えられているのだということを認めたのは、ここ5年の間のことなのだ。

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ここで語らえているトヨタの強さとは、適切な訓練とツールを与えられれば、現場の社員は「問題解決者」、「イノベーター」、「変革推進者」になれると経営者が信じたことです。効率と品質のたゆみない追及に社員を参加させる、「普通」の社員には複雑な問題を解決する能力があるという信念に支えられてきた、と先の本では書かれていました。トヨタ生産方式(TPS)を「Thinking People System(社員が考えるシステム)」と、トヨタ内部で呼ばれることがあると書かれていました。この例から、トヨタ生産方式(TPS)は「業務のイノベーション」ではなく、「経営のイノベーション」であると私は確信しました。

経営のイノベーションという「芯」に火をつける。

深い階層の「経営のイノベーション」は、企業文化そのものと言っていいでしょう。私の所属するパナソニックは、創業者・松下幸之助が育んだ「経営理念」という宝があります。「経営理念」を私なりに表現すると、「社会の公器」、「お客様第一」、「日に新た」となります。私の『未来思考』の根っこには、この「経営理念」があります。

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自分の取り組みを評価したり、行動のあり方に悩む時、私はこの3つの指標で見つめ直すようにしています。とても簡単な言葉ですが、本質をつくものほどシンプルで奥深いのです。

社会の分業制、組織の分業制に目がいき、「業務」、「商品」、「戦略」の議論ばかりが先行すると、一番の強みである「経営のイノベーション」をないがしろになりがちです。モノからコトへの価値転換がなされ、開発のスピードが加速する今日、改めて強みとして認識すべきは「経営のイノベーション」であり、この根っこに火をつけていくことが極めて重要だと言えます。

経営のイノベーションが持つ「自立」の効果。

「経営のイノベーション」の真髄は、企業や組織によって様々かもしれませんが、共通している大事な要素があると私は考えています。それは、社員・メンバーが「自主自立して生成発展する」、「常に成長できる」という法則に従っていることです。成長とは、数字や規模の成長ではなく、先ほど述べた私の中にある “経営理念” の「日に新た」そのものです。

成長について、数字で考えてみましょう。「毎日、昨日よりも1%プラスして今日を頑張ろう」と決めたとします。「+1%」が365日続くと、どのくらいの成果になると思いますか。また、毎日が非効率で無駄もある、そんな「-1%」が365日続いたら、どうなると思いますか。

 +1%が365回 = 100が3,778= 約37倍
 -1%が365回 = 100が2.6 = 約39分の1


複利の効果が利き、ものすごい成果となって表れるのです。

これからも企業間の競争は激化するでしょう。だからこそ、全員が「毎日+1%」の努力を重ねていくというシンプルな目標に立ち返ってみてはいかがでしょうか。これが「経営のイノベーション」の真髄だと私は思っています。

+1%の繰り返しを『未来思考』に役立てれば、「37倍の未来」を想像していいことになりますね。自動車業界のトヨタは、それを証明した象徴的な企業だと言ってもいいでしょう。

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